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帰宅

 俺は『変質』で穴を埋めながらエレベーター感覚で山頂に戻った。

 ちょっと周辺と色が違う気がするが、まぁ問題ないだろ。

 ただ無駄足だった事だけは本当に残念だ。

 まさかあれだけのセキュリティーで宝物庫ってある意味間違ってないのか?

 俺はてっきり厳重な警戒をしているからあそこに真祖が封じ込められているんだとばかり思っていた。


「悪いなアセナ。当てが外れたしもうこの国に近付く事すら出来ないだろう。あ~あ、ホントどうすりゃいいんだかな~」


 何て山頂でのんびりと大の字になっていると、アセナはまた鎖でぐるぐる巻きになっている棒と格闘している。

 取り合えず逃げるか。

 次は……とりあえず森に帰るか。

 俺の目的は真祖だけではない。まだ食った事のない魔物に出会い、食ってさらに強くなる事が目的なのだから。

 そのために1度落ち着ける場所に帰るのも悪くないだろう。


 -


 鎧を解除してアセナを抱きかかえたまま全力ダッシュ。

 魔物の筋力を使っているのでかなり速い。ただの人間からすれば目に映る事すらないだろう。

 そんな速度で少し走った後、アセナがじたばたし始めた。

 俺は慌てて止まり、アセナを下ろした。


「どうした?」


 ここには何もない草原。

 イングリットを避けるように走っていたのでちょっと遠回りをしている。

 だがここは本当に何もないただの草原。魔物の気配も人の気配もしない。

 そこでアセナは盗んだ棒状の物を俺の前に転がした。


「ん~と。まさかこの鎖を解けって事か?」


 聞くとアセナは頷いた。

 そう言えばアセナは何故こんな物を持ち出そうとしたのだろう?

 宝物庫、と言うだけあり他にも光り物は沢山あったはず。

 なのにアセナは1番奥にある、こんな鎖でぐるぐる巻きの物を持ち出そうと必死さすら感じる程に求めた。


 この棒に何か真祖に関する秘密があったのか?

 ともかくアセナの勘を頼りに鎖を解いて……解いて……解けない。

 面倒なので『変質』で鎖を1つに纏めて鎖の部分だけを取り出すって。


「ぬお!!」


 棒だと思っていた物の正体は手だった!より詳しく言うと丸い球を掴んだミイラの右手だった!!

 ミイラの右手は手から肘まで残っており、手の中には何故か球を掴んでいる。

 アセナはその手からたまを取り出そうとしているのか指を齧っていた。

 何だかミイラの手は汚く感じるので流石に止めさせる。


「それも俺が取ってやるからちょっと待て。あ~なんか嫌だな~」


 俺はアセナから手を取り代わりに外そうとする。

 ついさっき殺した死体ならずっと相手にしてきた訳だが、時間の経った死体を相手にするのは初めてだ。

『変質』で手を動かして球から放させる。

 するとアセナがすぐその球に跳びかかろうとしたので止めさせた。


「ちょっと待て、アルコール殺菌するからちょっと待て」


 アセナはしょんぼりとした。

 だってね?ミイラが握ってた球を流石にそのまま渡す訳にはいかないでしょ?

 どれぐらい前の手なのか全く知らないがやっぱ気持ち悪いって。


 殺菌後、綺麗に拭いてようやく納得できた後アセナに渡した。

 アセナは喜んでその球を口の中に!?


「おーい!!流石に食べるとは予想できてなかったんですけど!!今すぐ吐き出せ!ミイラが握ってた球とか不吉すぎるしやっぱり汚ぇって!!ペッしなさい!ペッ!」


 俺は慌てて吐き出させようとしたが全て後の祭り、アセナは球を飲み込んでしまった……

 あ~どうしよう。絶対身体に悪いよな。どうやったら吐き出させるんだろう?

 素人が口ん中に手を突っ込む訳にもいかないし、どうすりゃいいんだろう……


 うなだれている中、アセナはなんだか嬉しそうに尻尾を振る。

 そんな様子のアセナに流石に叱る。


「あのなアセナ。毎日飯はちゃんと食わせてるだろ?あんな小汚いミイラが握っていた珠なんて食っちゃダメだって。今すぐ自力で吐きだしなさい」

「いや。これは元々私の力、吐き出す訳ない」


 そんな返事が返ってきた。

 私の力って一体何の?

 ん?今返事が返ってきた?吠えるとか頷くとかじゃなくて?

 じっとアセナを見ているとふと周囲が赤くなった。

 なんだろうと思っていると、何故だか紅い月が上っていた。


 おかしい。今日は新月のはずだ。

 それなのに月が出ている事そのものがおかしいし、紅い月なんて普通じゃない。

 まぁ色そのものは嫌いじゃないけど。


 ってそんな事よりもアセナだ。

 今アセナが人語で返事を?

 アセナがいたはずの場所にはきれいな女性がしゃがんで俺の事を見下ろしていた。


 彼女は女神のような優しげな表情で俺を見下ろす。服装はとてもシンプルな黒いワンピース。

 均等の取れたそのスタイルは男の欲と女の憧れが均等に混じり合った黄金比とも言えそうな身体。

 そしてワンピースから覗く肢体は夜なのに、いや夜だからこそとても美しい。

 そんな彼女の髪は腰まで伸ばし、綺麗な濡れ羽色。


 俺はそんな彼女に見惚れていた。


「ねぇ。望みはない?」

「………………え?望み?」


 やっべ、見惚れてて反応遅れた。

 見惚れるって事が本当に起こるとは思ってなかった。


「ええ望み。あなたは私にとってとても価値のある事をしてくれた。だからその報酬を渡そうと思う。何がいい?」

「え、ああちょっと待ってください。近くに狼は居ませんでした?アセナって言う優しい子で、黒いたてがみの子なんですが」

「それなら後で探してあげる。それより望みは?」


 そう目を真っ直ぐと見て言われると思考が纏まらない。

 望み……この人にして欲しい望み……


「結婚してください」

「……え?」


 あ、ヤベ!なんか口に出てた!!

 さ、先走り過ぎだろ俺~!

 いくら美人だからって、初めて見惚れた相手だからっていきなり結婚してくれはないだろ~!!

 こう言うのはちゃんと段階を踏まないとダメなんだろ?やっべ先走り過ぎたー!!


 なんて1人で慌てていると、女性は震えていた。

 怒ったのかな?なんて恐る恐る見て見ると怒っているのではなく笑いを堪えている感じだった。

 そしてそれは確証となる。

 

 女性はとにかくおかしいと言う感じだった。

 大声で笑うような笑い方ではないが、面白がっているのは表情でよく分かる。

 そんなに意外な望みだっただろうか?変な望みだっただろうか?

 とりあえず彼女が笑い終えるのを待つと、いつの間にか紅い月は消えていた。

 でもアセナの姿はなく、代わりに居るのは息を整えている彼女だけ。

 そして彼女は言った。


「本当に気付いてない。私がアセナ。力を取り戻したアセナ」

「…………………………あ、その眼。確かにアセナと同じ眼だ」


 言われてじっと見てアセナと同じところはないか探したらようやく見つけた。

 そう思うとふと思う事がある。


「え?それじゃ俺、今アセナに求婚したの?」

「そう。あなたがアセナって名付けた狼に求婚した。がっかりした?」

「いや。で、結婚してくれるの?」

「あれ?嫌がらない?」

「俺は元々そう言うファンタジーに憧れてこの世界に来たようなもんだ。アセナが人の姿になったとしても別に構わないし気にしない。それより結婚して」

「アピール凄い……」

「もてない男はごり押ししか手がないと個人的に考えております。女心とか知らないし……」


 残念かな、俺は童貞で女子と付き合った経験はないのだよ。

 と言うかアセナみたいな美人すらいなかったし。

 知り合いに彼女できた~なんて自慢しながら紹介されても嫉妬すらしなかった。

 だってそいつの彼女可愛い訳でもなく、綺麗な訳でもないんだもん。だからと言ってブサイクって訳でもなかったけど。


「結婚なら構わない」

「え、マジで?」


 いきなりの求婚OK?


「でも私子供出来るか分からない?今まで1度も生んだ事もない」

「え?別に問題ないぞ。特に経験について文句言う様な人種じゃないし」


 マンガとかで言う恋愛経験の数?みたいなの気にするつもりはないし。

 そりゃ~一々前の彼氏は~みたいなのは嫌だけど。


「そういう問題じゃなくて、私が真祖だって事気付いてない?」

「え、アセナが真祖だったの?」

「そう。1度落ち着けるところに着いてからもう1回話したい。どこかいいところある?」

「それなら俺の家に帰る途中だったから問題ないけど……」

「ならそこで良い。行こう」

「え、ちょっと!いきなり男の家に行くの気にしないの?ねぇ!!」

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