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獲物は教会過激派

「さむ!」


 転移直後にヒカルがそう言った。

 転移先は当然ホワイトフォレスト、もう春になっていた場所から一気に冬に戻れば誰だってそう思うだろう。

 そしてここはトンネル工事の現場であり、ちょっと遠くまで目を凝らせば人もたくさんいる。

 急に現れた俺達を見た1部の作業員は俺が中心に居る事に気付くと、何て事のない様に作業に戻った。


「先生ここどこだよ!寒いって言ってたけどここまで寒いって思ってなかったぞ!」

「だからちゃんと防寒着を着ておけって言ったろ。その服の下は薄そうだから仕方ないかも知れないけど」


 ヒカルの文句に俺は漂々と返しながら辺りを見渡す。

 誰か城に連れてってくれる人居ないかな……


「お兄ちゃんその子達誰?」


 そう思って居ると空からヤタが舞い降りてきた。ヤタの登場にアラドメレク以外が驚く。

 普通は空から登場するとは思えないだろうからな。


「ヤタ、この子達は俺が先生やってた頃の生徒と同僚だ。肌が黒い方がアラドメレク、黄色いのがヒノ先生。小さい男の子の方がヒカル、大きいのがカエル、で女の子がトキだ」

「へ~この子達だったんだ。私はヤタだよ、よろしくね」

「よ、よろしく……」


 ヤタが出した手にヒカルが手を握り返した。

 その様子を見ていたヒノ先生は俺にそっと耳打ちをする。


「あの、彼女は見た目通りではないですよね。何者です?」

「ヤタはアスクレピオスの妹だ。そう言えば大体の予想は分かるか?」

「ああ、なるほど。絶対に敵対してはいけない存在ですね」


 納得した様にヒノ先生が頷きながら言うと、アラドメレクも刺激しない様に子供達の様子を見守っているだけだ。

 そしてふとヤタは思い出したように言う。


「そう言えば勇者がお兄ちゃんに説明しろ~ってお城に来ているよ」

「ユウガが?具体的になんだ」

「ほら、お兄ちゃんが聖女の喉潰した後にアナザに任せたでしょ。そしたら聖女が廃人みたいに何にも反応しなくなっちゃったから、どうせお兄ちゃんのせいだろうって分かっちゃってる」

「ま、俺以外聖女に向かってそう言う事出来る奴が居るとは思えないからな。そんじゃ今ユウガは城か」

「うん。だから今ここの護衛は私とトヨちゃんの2人でしてるから問題ないよ」

「分かった。それじゃ子供達を城に連れて行くついでにユウガに説明しておくか。そんじゃあとは任せるぞ」

「うん!お兄ちゃんも頑張ってね!」


 なにを頑張ればいいのか分からないが、とりあえず5人を連れて城に向かう。

 さっきの会話からヒノ先生は不安そうに俺に聞いてくる。


「聖女の喉を潰したと言うのは……」

「お前達にあの聖騎士たちをぶつけた様に俺にもぶつけて来たんだよ。聖女は信仰深いせいで盲目的に天使の方が強いと思っていた様だが、ヒノ先生達を人質にとる事に成功したと勘違いして調子乗ってうるさかったから喉を潰した。ありゃ悪役としても三流以下だな。それに子供達の教育に悪い」

「この会話の方がよっぽど教育に悪いと思うけどね」


 アラドメレクが突っ込むが……否定できないな。

 喉を潰しただの人質だの、教育に悪いか。実際カエルが不安そうにあちこちを見渡しているし。

 俺は不安を払拭ふっしょくさせるために言う。


「安心しろ。あんな無理矢理天使を憑依させたような連中なんざ相手にならないぐらい強い仲間がいる。だからお前達は安心してここに居ると良い」

「先生のお家ってここなの?」


 トキがそう聞いてきた。


「いんや。ここは嫁の妹の家、ちょっと国に関する仕事で協力してほしいって――」

「お嫁さんいたの!?」


 トキの驚いたような声に俺の方が驚いた。

 そのまま俺の服を掴んで強めに押したり引っ張りを繰り返す。

 こ、これじゃ歩けない……


「あ、ああいるぞ。一緒にこの国に来てる」

「どんな人」

「えっと狼の獣人で、アスクレピオスの2番目の姉だ。黒い髪で……かなり強い」


 大雑把に特徴を言うとトキは俺の服を掴んだままじっと見る。

 どことなく涙が浮かんでいる様にも見えるので俺はかなり動揺している。

 一体何がトキをこんな風にさせているのか全く分からない。

 そう思っているとトキは俺の服から手を放し、アラドメレクに抱き付いた。


「メレせんせ~!」

「は~いよしよ~し。今はこうしてていいからね~、でもちゃんと戦わないとダメだからね~」


 アラドメレクは抱き付いてきたトキをそのまま抱き上げ、あやす様にトキを落ち着かせる。

 とりあえずトキは任せよう。理由が分からないのにフォローの入れようもないからな。


 なんて感じで城に到着し、勇者達が居る場所へ城の人に案内してもらう。

 ヒノ先生とアラドメレクは堂々としているがヒカルやカエルなどは物珍しそうに城の中を見ている。俺もセフィロではそうだったな。

 そしてトキはまだアラドメレクに抱っこされている。


 案内された場所は重要な会議室で、勇者達だけではなくアセナ達も揃っているそうだ。

 流石にこの先は俺だけの方が都合がいいのでここでヒノ先生達と分かれる。


「俺はここで少し勇者達と話してから向かうから先に部屋に行っててくれ」

「え~。俺も勇者様に会いたい!」

「僕も興味あります!」

「ダメダメ。この先では結構重要な話をするから会うのはこの話が終わってからだ。後でまとめて俺の仲間とか勇者の仲間とか紹介するからそれで許してくれ」

「本当か!勇者様の仲間も紹介してくれるのか!!」

「おう。紹介ぐらいなら出来るって」

「それじゃもう少しだけ待つ!絶対だかんな!」

「僕も期待していいんですよね?」

「当然。ユウガもそう悪い顔しないと思うしな。それじゃヒノ先生、アラドメレク。子供達をお願いします」

「分かりました」

「元々そのつもりだから一々頼まなくていいわよ」


 そう言ってヒノ先生達はあんなにの人に連れて客室に行く寸前にトキが俺に聞いて来る。


「先生のお嫁さんも一緒?」

「紹介するぞ。そんなに俺の嫁に興味あるのか?」

「……うん」


 よく分からないがトキはアセナに随分と興味があるようだ。

 その理由は……何だろう?やっぱ俺と関係があるからか?

 何だか分からないが会議室の扉を開くと、ユウガが勢い良く立ち上がって言った。


「タツキ!ヒジリに一体何をした!!」

「あいつは俺に向かって兵を向けてきた。その報復だ」


 簡潔に言うと俺はユウガと向かい合うように席に座る。

 それは丁度勇者パーティーと俺の仲間が向かい合うように座っていた。

 俺は別腹から回収した首輪を出してからアスクレピオスに渡す。


「向こうでも襲われた。これで教会側がどれぐらい技術を発展させているのか調べてくれ」

「分かりました。でも道具を使っている時点でだいぶ技術は後退していると思うべきだと思いますが」


 首輪を受け取りながらアスクレピオスは言った。

 それを見てもピンと来ていなさそうなジャンヌさんとジョージさんは天使の憑依とはあまり関係がなさそうだ。


「その首輪は一体?」

「この首輪をつけた犯罪者達を使役して聖女が攻めて来たんだよ。しかも天使を強制的に憑依させて戦わせるという非人道的なやり方でな」


 ジャンヌさんの疑問に俺は答えた。

 するとこの返答に勇者パーティー達全員が驚いた。

 犯罪者を強制的に戦わせたことに関してか、はたまた天使を強制的に憑依させたことに関してか、どちらなのかは分からないがおそらく教会側から何も聞かされてはいないんだろう。


「向こうで軽くだが情報も得てきた。何でも教会の過激派が俺を倒すために大きく動かしているらしい。そのため実験台になったのが犯罪者達。俺に殺してくれと懇願こんがんするぐらいだからそうとうヤバい実験だったんだろう」

「その情報はどこからですか」

「ヴァロンランドの教会騎士団長が教えてくれた。ちなみに聖女も過激派の1人だ。でなきゃ天使を強制憑依させた騎士なんか連れてこれないだろうし」


 国王の質問に俺は答える。

 その答えに特に驚いていたのはユウガだ。

 ユウガは信じられないように、いや信じられないんだろう。


「そんな……人を、そんな道具か何かのように扱う人が居るだなんて……」

「奴らは過激派だから気にしなくてもいいと思うぞ。実際その騎士団長は罪を償う事が出来れば許してもいいと言ってるし、ジャンヌさん達が知っているマルダもそこまで過激な考えじゃない。恐らくジャッジの教えを気真面目に受け取った連中の暴走、と考えるのが1番いいんじゃないか?」


 確認するようにジャンヌさんとジョージさんに目線を向けると答え辛そうにジョージさんが言う。


「確かに教会内にも派閥は存在します。おそらく今回の実験や考え方は最も過激な者達の仕業でしょう。私も1度は誘われました」

「私達は温厚派と言われる罪は許され、償う事が出来るという派閥に所属しています。世間一般ではこちらの考えの方が近いでしょう。ですが……」

「聖女様がその過激派に属しているとは知りませんでした。法王様が過激派と言う話も聞いていませんし、てっきり中立派に属している物だとばかり……」


 つまり聖女が過激派に属していた事すら想定外だったという事か。

 ユウガは苦しそうにうつむいている。惚れた相手が予想外の行動してどうするのが良かったのか考えているのだろう。

 そんな中でも国王は冷静に考えを巡らせている様で、俺に確認するように言う。


「それでタツキ殿はどうするおつもりで?」

「それは……どのぐらいの範囲内でだ?」

「今後教会に攻撃する気はあるのですか?」

「ああ攻撃するさ。最低でも過激派だけは確実に殺しておかないといけない。あいつらがいる限り平穏は訪れそうにないからな」


 そう言うと勇者パーティー全員が身体を震わせた。

 俺は具体的に言う。


「中立派でも温厚派でも関係なく絶滅させる事は止めといてやるが……それでも俺達に本気で戦いを挑むと言うのであれば、絶滅させるが一番手っ取り早いだろう。あまり恐怖で支配するのは今後大きな影響を残しそうだからあまりしたくはないが……そうする必要があるのであれば、俺は当然そうするぞ」


 何て事のない様に言うセリフにアセナ達は当然のように頷いた。

 どれだけ人に近い姿をしていても所詮は魔物。戦いを挑むのであれば戦うし、まずは徹底的に上下関係と言うものを初めに付けておかないと気が済まない種族だ。

 俺だって出来れば面倒な事は避けたいが、平穏に生きるために必要な事だと言うのであれば当然実行する。


 それがどれだけ周囲に影響を与える事になろうともだ。


 国王は重々しく口を開いた。


「絶滅。それは全人類の事でしょうか」

「流石にそこまではしない。教会の過激派だけを潰すつもりだ。中立派だか温厚派だか知らないが俺達の平穏を邪魔しないのであればどこで何をしていようが別に構わない。潰すつもりもない」

「それが聞けて安心しました。ちなみに我が国は敵対など望んではおりません」

「知ってるよ。スノーの事を大切に思っている国を滅ぼそうなんざ思わない。だからジャンヌさん達はその過激派以外の人達を出来るだけ逃がしておいた方が良いぞ。俺達の方から仕掛ける時はちゃんと伝えるが、そちらの過激派から攻めて来た場合は容赦なく絶滅させるからな」

「わ、分かりました。本国にはそのように伝えておきます」


 ジャンヌさんは緊張しながらもそう言った。

 そして人魚姫も口を開く。


「ではわたくしもお父様に進言しておきます。決して教会に兵を貸さない様にと」

「そうしとけそうしとけ。またセフィロに旅行したいし、できれば敵対したくないからな」


 薄っぺらい理由を口に出しておくと人魚姫はこくりと頷いた。

 これで多少は戦う人は減ったかな?

 そう思っているとユウガが俺に向かって本気の眼で訴える。


「タツキは何とも思わないのか。人を殺すという事に」


 真っ直ぐとむけるその問いと目は確かに勇者と言うに相応しい雰囲気が伝わってきた。

 誰もが子供の頃に憧れたヒーローの様に、相手が強者であってもその意思を曲げない誰かを守ろうとする目だ。

 なので正直に言う。


「なんとも思わないという事はない。俺だって元人間だし、人を殺すのはちょいと勇気がいる」

「なら戦うという選択肢以外にも――」

「だが俺にとって最も大切なのはここに居る家族だ。家族と見ず知らずの他人の命を天秤にかければ当然他人を切り捨てる。誰だって大切な物を守ろうとする」

「でも絶滅だなんて!僕は反対だ!!」

「言葉のあや……って言う訳でもないか。俺は家族を守るためなら何だってするぞ。この地で襲ってきた聖騎士だって俺は殺した。奴ら本人達には戦う意志がなくとも救う方法が分からなかった以上殺すしかあいつらを解放する手段も分からなかった。出来るだけ人を殺したくないのも本当だが、それ以上に俺はアセナ達が傷付く事が嫌だ」

「それは……そうかも知れないけど!」

「お前にとって教会は恩人の様なものだろう。それに教会にはそこに居るジャンヌさんにジョージさん、ここにはいないがマルダって言う教会騎士も俺が1度助けた相手だ。助けた相手を自分の手で殺すのはしのびない。だから俺は今言ったんだ。関係のない連中を先に逃がしておけってな」


 そう言うとユウガは黙った。

 俺がただ教会を滅ぼそうとしている訳ではない事を知ったからだろう。


「ユウガ。お前のその戦争を出来るだけ回避しようとする考えや心構えは立派だし崇高な物だろう。でもどうしても回避できないものがある場合、出来るのは被害を出来るだけ小さくする事だけだ。それを勇者パーティーに頼みたい」


 俺はユウガだけではなくジャンヌさんにジョージさん、人魚姫に目に目を向ける。

 このメンバーなら俺が殺す数を出来るだけ減らせるはずだ。それはただ単に戦わなくて楽になるというだけではなく、被害を抑えるという事にもつながる。

 だからそれはユウガに任せよう。

 俺の危険性についてよく知っているのもユウガのはずだからだ。


「国王は他の国の偉い人達に伝えておいてくれ。絶対勝てないから怒りに触れるなってな」

「当然です。回避できるのであれば回避するでしょう。まぁ私が言わなくとも真祖5名が攻めて来る、と言えば誰も手を出そうとは思わないでしょうが」


 そう国王が言うのであればそれを信じよう。

 こうして俺達の話はもうちょっとだけ続いたのだった。

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