軽く本気出す
正義の味方と言う物はこう言う物ではないと思っていたのだが……
高らかに宣言する女騎士に俺は不快感を持ちながらそいつに近付く。
女騎士も気が付いた様で、と言うか俺の事を知っている様な素振りで俺を見た。
「ほう。黒騎士自ら現れたか。こちらはもうお前の正体を知っているぞ」
「どうでもいい」
「なに?」
俺は女騎士を睨みつけながら言った。
「そいつらに何してる。お仲間だろ」
「ふん。先程教会騎士団長が戻ってきたから条件を飲んだと思ったが、逆にほだされるとは情けない。正義は何者にも屈してはいけないのだ!」
「正義?仲間をそんな傷付けてる奴が正義?バカらしい」
俺の言葉を信じてくれた騎士団長と、騎士団長を慕っている騎士達が足止めをしてくれていた。
5分ももっていないがその行為が素直に嬉しい。俺の正体を知りながらも協力してくれた事実がとても嬉しい。
だからそんな連中を傷付けるこいつが気に入らない。
恐らく聖女が連れて来たものと同じ、天使を強制憑依させられた罪人達だろう。
自ら戦う意志があるならともかく、そうでない者を強制的に戦わせるこいつ等が気に入らない。
「貴様、我々聖騎士を愚弄する気か?」
「小難しい言葉使ってんじゃねぇよ。全く、何でこう素直じゃないんだか。高望みし過ぎてる連中はどうしてこうもバカばっかり何だか」
「我々の絶対正義を貶すつもりか!この大罪人め!!かかれ!聖騎士ども!!」
命令のままに天使を強制憑依された連中が動き出す。
だが俺はこいつ等と1度戦って対処法は学んだ。ただ機械的に動くだけの生き人形共の原理さえ分かれば対処法はいくらでもある。
とりあえず俺にとって1番やりやすい方法、高速ですれ違うように移動しながら無銘で首輪だけを切り落とす。
この強制憑依の弱点は天使の機動力を人間の身体に反映しきれていない事。だから移動方法は基本的に空中で空を飛ぶ事で機動力を補っている。
だから天使が俺の動きを認識する事は出来たとしてもその人間の身体が動く前に首輪を切り落とせばいい。
「電光石火」
真祖の中で最速を誇っているのはトヨタマヒメである。
その理由は電撃を放つだけではなく、自身も電撃の様に動く事が出来る事が理由だ。
まずは空気中に放電し、電気の通り道を作る。その後自身を電気その物の様に身体を動かす事で人間では反応しきれない光速に近い行動が可能だ。
と言っても普段この移動方法をしない理由は、大気中の電気が移動できる場所は自分の意志ではなくほぼ自然現象任せ。雷が落ちる際にあちこちに電気が走る現象の中から敵に近付ける道を選んでいるだけ。
つまり雷が落ちてくるのと何ら変わらないと言うと事と、単に身体への負担が大き過ぎるからだ。
俺の変質による肉体改造ではこの移動方法に身体が追い付けきれていない。戦闘中ならそれなりに大丈夫だが翌日には確実に筋肉痛になるだろう。
生まれ持ったものならともかく、後から付け足した能力である故の弱点だ。
だが雑魚相手にならこんな弱点だらけの攻撃でも十分に通じる。
俺は聖騎士もどき25人全員を一瞬で首輪だけを切り落とす。
これにより天使たちの強制憑依は解除。聖騎士もどきたちは力なく倒れた。
その光景を見て偉そうな女は一瞬呆けてから正気に戻る。
「……………………は。ちょっと待て、今のは何だ!」
「なんだって、今現在お前が敵対した化物の実力をちょっとだけ見ただけだろ」
「こんなの聞いていない!だいいち天使様が人間に敗れるはずなど――」
「この程度の生き人形共が俺の敵になる訳ないだろ。雑魚過ぎんだよ。殺したければこれの1万倍は連れて来い」
最後に残った敵はこの偉そうな女ただ1人。
俺は冷め切った瞳で女を見る。
女はたじろいでいる間に自分の足に引っ掛かり、尻もちをついた。
女は絶望しながら俺を見上げる。
「ありえない……ありえないありえないありえないありえないありえない!!お前の様な罪人が!天使様にかなうはずがない!!一体天使様に何をした!!」
「ただの実力差だろう。だが安心しろ、この場では殺さないでやる。子供達に悪影響だからな」
俺が女を殺さない理由はそんなもんだ。
ここは学校であり今の騒ぎで数多くの視線が集中している。この状況で人が死ぬ光景を見れば良くてトラウマ、下手すれば精神的な部分で死んでしまうだろう。
そうしないためにも女はここで殺せなかった。
殺さないと聞いたからか女は調子に乗って話し始めた。
「はは、結局お前は天使様が怖いんだな。そしてその頂点に君臨するジャッジ様の事が怖いんだな!安心――」
「だからお前には俺のメッセンジャーになってもらおう。大丈夫。ただお前はキリエス教国に帰ればいいだけの話だ。この呪いを持ってな」
「え――」
女が間抜けな声を出した瞬間俺は子供達を狙われた、俺が救った連中を傷付けられた、罪人と言えど人の命をもてあそんだ怒りを女に全てぶつける。
女は悲鳴1つ上げる事もなく精神が破壊されつくした。それでも俺は女への怒りを止めずに、女に命令した連中全員に怒りを込めた。
そして最後に――次はお前らだ。
っと強い呪詛を女の中に強く残した。
「ふう。これでいいだろう。騎士団長、こいつの捕縛は任せていいか?」
「あ、ああ。にしても俺達が苦戦した聖騎士を一瞬とは……」
騎士団長は驚きながらも女を捕縛した。
他の騎士たちはよろよろとダメージを抱えている様なので俺はちょっとだけ治癒もどきを使ってみる事にした。
「あれ?なんか痛みが引いていくような……」
「さっきより身体が軽い?」
「なんだこの爽やかな匂いは?」
「これ、痛みを誤魔化すだけの芳香剤です。良ければ使ってください」
これはエンドルフィンを分泌させるための芳香剤である。
エンドルフィンには鎮痛作用があるのでそれで痛みを誤魔化しただけだ。
「ただこれは本当に痛みを紛らわすだけなので後できちんと治療は受けて下さい。本当にただ痛みを誤魔化しているだけですからね!」
「分かった分かった。あくまでも誤魔化すだけ、だな。だが凄いな。さっき出来た傷の痛みが引いてるんだから」
あの聖騎士もどきに切られたり殴られて傷を負った者達が騎士もどきたちを捕縛していく。
そして破壊した首輪1つを研究資料として1つだけ拝借する。後でアスクレピオスに解析してもらおう。
「それじゃ俺は教室に戻りますね。後の事はよろしくお願いします」
「おう。ただ……この聖騎士たちはどうする?」
女に操られていた罪人達か……
「一応治療した後キリエスには送らずにここで罪を償わせるって出来ます?」
「彼らの犯した罪次第だな。我々の手に余る様な罪人だったら……その時はこの女性の様に本国に戻すが構わないか」
「……それでお願いします。ただどうしようもない状況でない限りはその……」
「分かっている。キリエス本国がこのようではな。出来る限りの事はさせてもらう」
「お願いします」
そう言ってから俺は教室の戻った。
当然だがそこ居る全員が無事だ。子供達の事をヒノ先生だけではなく、アラドメレクもちゃんと守っているようで何よりだ。
そして意外なのが校長先生。
普段は真面目な中年男性って感じなのだが、武器を持っている今の姿はベテラン冒険者の気配が強く出ている。
ちょっとカッコいい。
「おいお前ら。今は安全だから自分の物は全部持って来い。俺が運ぶから」
「先生?もう怖い人たち居ない?」
「ああ。全員とっ捕まえた。後は教会騎士のみなさんに任せておけば大丈夫だ。ヒノ先生、アラドメレク、生徒達の面倒よろしく」
「分かりました」
「それじゃみんな~寮に戻って必要な物持ってくるわよ~」
なんかアラドメレクだけ低学年の子供を相手してる様な感じだな。
まぁ小学生ぐらいだから間違っても居ないのか?
ヒノ先生とアラドメレクが子供達を連れて行くと校長先生は大きく息を吐きだしてから言った。
「ふぅ。久しぶりに武器を持ったので緊張しました。やはりデスクワークばかりしていると、こう言う時とっさに動けないものですね」
「ですが中々の気配を放ってたじゃないですか。全盛期はどれぐらい凄かったんですか?」
「はっはっは。あなたに比べれば大した物ではないので何の自慢にもなりませんよ。それよりもやはりあなたなら安心して生徒達を預ける事が出来ます。どうか子供達を守ってあげてください」
「もちろんです。そのために俺はここに来たんですから」
そう返すと校長先生は満足そうに頷くのだった。




