もっと明るい再会が良かった
俺はヤタの翼広げて高速でヴァロンランドを目指した。
もう俺は正体を隠す必要がないと判断したので全力で学校を目指す。
そうして移動している間にあっと言う間にヴァロンランドに到着した。
既に学校の正門前にはマルダ達、この支部に居る教会騎士団長と校長先生が言い争っていた。
「だからまずは確認させてくれ。なんでもなければ俺達はそんな事ありませんでしたって言えばいいだけなんだから」
「ですがそれと子供達は一体何の関係があるのです!」
「何の話だ?」
俺が両者の間に降り立つと騎士団長は驚き、校長先生は驚いたがすぐに俺に言う。
「タツキ先生!どうしてここに!?」
「丁度聖女様から生徒達がピンチって聞いたから駆け付けたんだ。それでこの騒ぎはなんだ」
そう2人に聞くと騎士団長は羊皮紙で書かれた捕縛証明書を見せながら言う。
「教会本国からの情報で、ここで働いているアラドメレクって言う女性が悪魔の疑いありっと送られて来たんだ。だから捕縛しに来た」
「校長先生は生徒達もって言っていたのは何だ」
「そのクラスの担任であるヒノって教師とクラスの3人の子供達が悪魔の影響を受けていないか調べないといけないんだよ。だから他の4人も付いてきて欲しいんだ」
……どうやら教会全体に俺の事を伝えている訳ではないらしい。
おそらく1部の同じ事を考えている連中の中で偉い奴らがそうやって連絡し、部下を動かしているのだろう。
だから彼らにとってはただ上司から言われた仕事をこなそうとしているだけだし、こちらは変な状況に反論していると言う事か。
まぁ何にせよ子供達とヒノ先生、アラドメレクは保護させてもらう。
教会なんて場所に預けたら何をされるか分からない。そんなところに子供達を預けられるか。
精霊と契約中のヒカルとカエルに、正体不明の何かと一緒に居るトキなどあいつらに実験材料を渡すような行為にしか思えない。
天使の憑依実験がどこまで進んでいるか不明な分、精霊と契約している子供達はかっこうの実験動物だろう。
「言いたい事は分かった。それじゃ騎士団長とマルダ、校長先生にはちょっと重要な話があるから良いかな?4人で話したい事がある」
そう言うとこの話に参加してなかったマルダも驚きながらも前に出た。
騎士団長は副団長に騎士達を頼み、校長室で話し合いをする事となった。
この教会騎士が校門に集まっていると言う事で授業の邪魔になっていそうだが、こちらの話はかなり重要なのだ。
もうちょっとだけ他の先生方には耐えてもらおう。
「それでお話とは?」
校長先生と騎士団長が俺の前にソファーに座り、俺とマルダが隣り合う形で座ってから話し合いが始まる。
俺はこそこそとした話は苦手なので分かりやすくスパッという。
「聖女から聞きました。何でも黒騎士と言われる存在がとんでもない魔物を解放しているので教会側がかなり焦っている様なのです。そのために過去の犯罪者達を利用した強硬な手段も用いているとか」
「しかし……それでアラドメレク先生に一体何の協力をさせるつもりで?」
「彼女よりも目的なのはヒノ先生とその生徒達でしょう。精霊、上位精霊を憑依させる事に成功している彼らから情報を得て、最終決戦に向けて戦力向上を図るのが目的でしょう。何でも天使を聖騎士に憑依させる事で戦力の向上を狙ってると」
「て、天使様を憑依ですか!?それって本当にうまく行くものなんですか!」
マルダが驚きながら言う。
騎士団長も初耳だと言う様子で驚いている。
「マルダ、それはあくまでも最終目標的な意味合いだ。現状上手くはいってなさそうだ」
「そ、そうですよね。天使様が人間に憑依なんて出来る訳ありませんよね」
「ああ。見栄えの悪い奴隷の首輪みたいな魔道具で無理矢理離れない様にしてるのがやっとみたいだ。あの状態じゃ天使の動きに人間の肉体が付いていけなくて、そのうち勝手に瓦解するだろうよ」
「って!憑依できてるんじゃないですか!!」
「聖女自身失敗作って言ってるよ。それに俺が相手にしたのは教会が捕まえてた犯罪者達らしい。聖女曰く、罪人をどう扱おうが教会の自由だそうだ。罪人は即断罪だとよ」
聖女から出た言葉とは思えないのか、マルダは目を大きくしながら声も出ずにただただ驚いている。
騎士団長は思い当たる部分があるのか驚いた表情よりも悔しそうな表情をする。
そして校長先生は驚きながら俺聞く。
「その言葉は本当に聖女様がおっしゃったのですか?予言によって事前に危機を教え、被害を最小限にしてくれたあのお方が?」
「多分校長先生が知っている聖女も間違いじゃないと思いますよ。ですが罪人に対して冷酷な面も持ち合わせていた、と言う所も事実だっただけです。誰にだって他人には見せていない面が1つや2つはある物です」
校長先生もその言葉に黙り込んでしまった。
そして俺は続けて言う。
「校長先生。俺が今日この場に来たのはヒノ先生とアラドメレク、そして3人の生徒を俺の手で保護するためです。申し訳ありませんが、5人をこちらで保護させていただけないでしょうか」
そう言うと校長先生は必死に頭を働かせている様で、すぐに答えは返ってこない。
俺がじっと待っていると騎士団長からぽつりと言った。
「……教会上層部にそう言った過激派が存在している事は知っている」
真剣な声色で語り始めた騎士団長は俺の事をじっと見ている。
「その理由は罪人が犯した罪は決して神に許されないと言うものだったが、分からない訳ではない。教義曰くジャッジ様は潔癖症だそうだ。故に完全に清い魂以外はすべて煉獄に落とすという厳しい方だと、だがそれでも私は罪人だからとすぐに断罪しろとは思えない。私は長い事罪人を捕縛してきたが……だからと言って捕縛してきた罪人全てが死んで構わないと思った事はない。聖女様が過激派であった事はとても残念だ……」
「団長……」
頭を抱えていたマルダが騎士団長の事を見ている。
そして騎士団長は俺の眼を合わせたまま言う。
「だが最近はその過激派が教会で実権を掴みつつある。その理由はタツキ殿が言った黒騎士と言う封印された魔物を解放している罪人が原因だ。彼の者は凶悪でとても強いと聞く。その対策に囚人たちで実験すると言う内容もその過激派の提案だった。そして知人から聞いた話だと聖女様はその実験で一応の成功者たちを連れてホワイトフォレストに向かったと聞く」
確信を持った瞳を持って騎士団長は断言した。
「聖女様から聞いたと言う事はタツキ殿もホワイトフォレストに居たのだろう。そして実験の事も知ってる。つまりタツキ殿こそが、黒騎士だろう」
そう言うと校長先生もマルダも俺の事を驚きながら視線を動かした。
俺はその視線を堂々と受け止めて言う。
「ああ。俺が黒騎士だよ」
あっさりと認めると騎士団長は続けて聞く。
「では黒騎士、何故魔物の復活を行う。何故そのような行いをした」
「俺の妻がその封印されていた魔物だったからだ。それは妻の家族を封印から解放しているに過ぎない」
「魔物を家族と言うのか?相手は人類の敵だぞ」
「それがなんだ。彼女達は言葉が通じるし、意志だって伝わる。獣人と何も変わらない」
「人類の敵を?それを獣人と同じというのか?」
「俺は人の定義を言葉を交わし、意志を互いに伝える事の出来る存在だと思ってる。獣の耳があろうが、鱗とヒレがあろうが関係ない。それが嫌なら人間種以外は全て敵だと言い切って見せろ」
そう強く言うと騎士団長は黙った。
俺はマルダにも顔を向けて聞く。
「マルダはどう思う。罪人は即断罪か?」
「え、私は、その……甘いってよく言われますけど……罪は償えると思います。全員が全員反省せずに生きている訳ではないはず……ですよね?」
自信なさげだが俺はそれで十分だ。
そして騎士団長は――
「はぁ。今の教会騎士団に信用がないと言われても仕方がない。過激派が実権を握っている以上その命令を受ける我々に預けるなど断固として受け入れるはずがないからな。校長はどう思いますか?」
「私はタツキ先生は信用のできる方なので問題ないのですが……本当に例の黒騎士で?」
「そうです、私が黒騎士です」
「そうですか、では1つだけ約束させてください。――ヒノ教諭もアラドメレク教諭も我が校にとって大切な教諭です。その生徒であるヒカル君、カエル君、トキ君も大切な生徒です。くれぐれも危険の無い様に」
「お約束します彼らには傷1つ付けません」
そう断言すると校長先生は立ち上がって言う。
「では共に教室へ参りましょう。彼らへの説明は私からもしなければならない事ですので」
「我々も外に居る騎士達に伝えなければ」
騎士団長も立ち、マルダも立つ。
俺は3人を見て頭を下げた。
「すみません。俺の我儘に付き合ってもらって」
「こうするのが生徒達にとってもよい事でしょう。お気になさらず」
「こちらも元々疑問だらけの仕事だったからな。気にしなくていい」
そう校長先生と騎士団等が言う時にマルダは不安げに俺の袖を引っ張ってから聞いた。
「あの、ジャンヌさんとジョージさんも無事なんですよね?その実験に参加してないんですよね?」
「今の所はってのが正直な所か。罪人で実験し終えたら次は教会騎士の上位騎士に憑依させて戦力向上を狙うだろうからな。恐いなら今のうちに逃げておくのも手だぞ?」
そう聞くとマルダは首を横に振った。
「憧れの教会騎士なれたんだからそれはしません。それに悪い事をしているならそれを止めるのが教会騎士のお仕事です!」
そう胸を張って言うマルダに安心と微笑ましさがある。
笑いそうになるのを我慢して俺はマルダに頼んだ。
「それじゃ正義の教会騎士さん。世直しは任せる」
「はい!おまかせされました!!」
そう言って騎士団長と共に正門に向かって行った。
そして俺と校長は5人の居る教室に向かう。
俺にとっては久しぶりの廊下だがこんな形で子供達に再会したくなかったな……
そう思いながらも校長先生が教室を開けて一緒に入る。
「授業中すみません。少しお話があります」
「校長先生?タツキ先生も!どうなさったのですか?」
「少々厄介な事になったので私から説明しようと思いまして、アラドメレク先生もいらっしゃるようでなにより」
久しぶりに会ったヒノ先生が驚きながら言うが、校長先生はヒノ先生を落ち着かせて語る。
ここには目的の5人が全員居て丁度いい。
生徒達も久しぶりに俺に会って嬉しそうにはしたが、妙な雰囲気を感じたようで黙っている。
そして校長先生から話された今回の事でヒノ先生も生徒達もどれだけ今の状況がヤバいか分かった様だ。
「――という事でして今回急遽タツキ教諭が生徒3名とその担任教諭2名を迎えに来たのです」
「悪いなお前ら。遊びに来たって感じじゃなくてさ……」
子供達3人は戸惑いを隠せない様でお互いに向き合って話をする。
そしてこの状況をいち早く理解したアラドメレクは疑問を口にした。
ちなみにアラドメレクの服装は踊子風ではなく、ぴっしりとしたスーツ姿なので出来るOLみたいな感じだ。
「それなら私1人を見捨てればどうにかなったんじゃないの?どうして私まで保護するのよ?」
「俺は1度救った連中を他人の手でどうこうされるのが嫌なんだよ。嫌がっても無理やり連れていくからな」
「それよりもそんな急に私達全員を運ぶ手段はあるのですか?それに急に逃げると言っても準備も何もできていない状態で?」
「衣類とか生活必需品に関しては当然俺が金出すから大丈夫。移動手段は……ちょっと怖いかも知れないが確実に安全に行く方法あるから」
「色々不安ね……私は大丈夫だけど」
「そう言う訳で悪いな。俺が安心安全な生活は保障するから本当に急で悪いな」
「先生が俺達の事を守ってくれるって言うのは分かったけどさ……俺達だってかなり強くなったんだぞ。先生に守られるだけじゃないさ!」
そう自信満々に言うヒカルだが事態はお前が思っているほど甘くはない。
おそらくここで学んでいるのは人対魔物を想定した状況だろうが、今回は人対人も想定しないといけない。子供に人殺しをさせるのはあまりにも早過ぎる。
俺はゆっくりと諭すようにヒカルに言う。
「あのなヒカル。今回の原因は俺なんだ。だからヒカルが戦う必要は一切ないんだよ」
「でも精霊のおかげで戦えるようになったし、絶対邪魔にはならないって!」
「邪魔とかそう言うんじゃない。迷惑かけてるから――」
その時外から何かがこちらに向かってきている気配を感じた。
何も言わずに俺は窓を割って外に飛び出し、ヒノ先生とアラドメレクは子供達を守るために動いた。
そしてその光景は騎士団と、天使を憑依させられた聖騎士団の戦闘だった。
ただの人間である聖騎士団は足止めのために文字通り命を懸けている。
そして騎士団長よりも偉そうな記章を身に付けた軽装の女聖騎士が剣を空に向けながら叫んだ。
「我々はキリエス教国から来た上位聖騎士団である!この教育施設に居る悪魔を討伐しに来た!悪魔を渡さないのであれば悪魔崇拝者としてこの施設ごと殲滅させてもらう!!」




