明確な敵
聖騎士団の変化は戦闘直後だった。
唐突にその聖騎士団たちの背中には鳥の翼の様な物が現れたからだ。だがその翼には色はなく、どちらかというと昆虫の翅のように透明な感じだ。
翼の様に見えるのは光に反射して虹色に光っているから。
騎士団たちは集団で行動して俺を包囲する。
武装は鎧と剣のみと言ういかにも騎士と言う風貌だが溢れ出る違和感のせいで清い物の様に全く感じない。
その身体能力は魔法やスキルを使用している様には見えず、それなのに勇者よりも上。隙はなく、仲間がいても躊躇しない剣捌きは仲間を信用している様には見えない。
わざと隙を作る様に避けると他の聖騎士が居ても構わず魔法まで放つ。
レーザーのような光魔法の攻撃は範囲は狭く、きちんと狙えば確かに仲間に被弾する確率はかなり低いが人間がここまで遠慮なしに魔法を放つ事が出来るだろうか?
魔法による攻撃方法は光の魔法が中心の様でヤタの物より威力はないと言っても光速なのは変わらない。
眼だけで追っていれば回避できないほどの速度なのである程度予測してから避ける技術が必須だ。
剣や鎧には既に防御を上げる付与を使っている様でただの人間では傷1つ付ける事が出来ないだろう。
と言っても俺は俺で攻撃を加えている。
聖騎士たちが例の実験、天使を憑依させる事が出来ているのかどうか確認するためにわざと弱めの攻撃を加えているが……現状その判断をするのは難しい。
ただ人工英雄とでも言うべき彼らは普通の連中に比べればはるかに強い。
身体能力、魔法、連携。どれも勇者であるユウガたちに比べてどれも上回っている。
しかも翼の影響か空も飛んでいるし勇者よりもチートっぽく見える。
そして1番の疑問点と言うか不審な所と言うか、どれもこれも同じ動きをしている事か。
別に教会の剣を学んでいれば型は同じであっても癖とか体格とかそう言う理由で全く同じになる事はありえない。どれだけ似た体格で合っても思考、精神的部分で戦い方も変わるはずなのにどれもこれも完全に一致。
ありえないとしか言いようがない。
そう疑問が浮かんでいる間にも騎士団の攻撃は続く。
一瞬の隙も見逃さないこいつ等の連携は非常に厄介だ。ならここは定石通り確実に1人ずつ片付けていくしかないだろう。
そう思いどれだけ殴ってもまるでダメージを感じないかのように殴られながら、蹴られながら剣や魔法を使う。
魔法だってある程度の集中が必要であり、攻撃を受けながら魔法を放てるのはそういないはずなのにこいつ等は平然と行うのだから異常すぎる。
俺はトヨヒメの電撃を使って全方位に攻撃をしてもダメージどころか麻痺する事すらない。
次に俺は無銘で騎士の1人を確かに斬った。
鎧は紙の様に切り裂かれ、そこから確かに騎士は流血しているのに痛がる素振りどころか何も感じてないかのように攻撃の手を緩めない。
どこをどう考えてもおかしい部分が多過ぎる。
まるでアンデッドでも相手にしているかのようだ。
だが俺の耳には確かに呼吸音は聞こえるし、心臓が動く音だって聞こえる。
相手は確実に生物のはずだ。だと言うのに死ぬかもしれない恐怖を全く感じない。
緊張や恐怖で心臓の音が早くなったりする事すらない。この戦いが始まってからも彼らはあまりにも普通の状態過ぎる。
まるで痛覚がない?それも感覚そのものがないような……
「まさか……」
とある可能性を考えて俺は騎士団の方に向き直った。
最も近づいてきた騎士を攻撃よりもその兜をはぎ取った。
そして俺は驚いた。本当に、今までに感じた事がない程に驚いた。
彼、騎士団の1人は涙を流しながら、苦痛に耐えながら怯えきった表情をしていたのだ。
「ご、ろじで、ぐで。ばやぐ……ごろじで!」
その顔は品行方正な聖騎士の顔とは思えない、傷だらけの男の顔。
醜いと言ってもいい顔の男の首には奴隷の様な無機質な鉄製の首輪を嵌められている。
恐らく彼も罪人だったのだろう。兜を取る事でようやく聞こえた懇願は俺の心を深く傷つけた。
その一瞬の驚きの間に騎士団の剣が俺に突き刺さる。
全て突き刺さり聖女は満足げな表情をしている。
「これは……どう言う事だ」
「あら、まだ生きていますか。そしてどう言う事とは?」
「彼らは一体何だ!」
そう強く聞いても聖女はあっけらんとしながら答えた。
「彼らは教会で確保した罪人です。どれもこれも凶悪な犯罪を引き起こしてきた罪人ですよ。あなたがアスクレピオスと呼んでいる蛇の真祖がいなくなったので彼らで実験をしてから本命の実験をする事にしたのです。罪人を使ってね」
「罪人なら何をしてもいいってか!?」
「はい。汚い者は廃棄するべきでしょう。罪人などと言う醜悪なゴミはさっさと捨てるに限ります。むしろこのようなゴミでも利用価値があっただけ感謝していただきたいほどです」
ああ、こいつ等は敵だ。
これ以上ない生命への侮辱だ。
「あなたもさっさと死んで消えて下さい。真っ黒に汚れたものはどれだけ洗っても消えないのですから救済などしたところで無駄です。ユウガ様は何故かあなたの事を同郷の者して甘く見ているので妻である私が捨てる事にしましょう。さっさと終わらせなさい」
そう騎士団に命令を下すが騎士団は動かない。
「どうしました?さっさと殺しなさい」
彼らは動かないんじゃない、動けないのだ。
俺は刺された肉を圧縮させて剣が動かない様にしている。
流石にこの至近距離では魔法を使う事も出来ない様なので代わりに俺がこいつ等を助けるとしよう。
そして同時に、謝ろう。
「すまん。俺に出来るのはここまでだ」
そう言った後、騎士団全員は俺の捕食によって苦痛なく、死を意識する暇もなく、死んだ。
『捕食』した情報によると彼らの行動はあの首輪のせいだった様だ。
肉体に直接憑依させる事を諦めた教会は首輪と言う魔道具を持って外側から憑依した天使を逃さないように覆っていただけに過ぎない。
今後はこの首輪を破壊するだけで彼らを助ける事になりそうだ。
これで彼らと同じ事になっている連中は救い出せる。
そして彼らには酷い事をした。
原因が分からないために血肉ごと捕食して食い殺したのだから。
だと言うのに……彼らの魂はようやく自由になれたことで良い色を出している。これはおそらく歓喜の色だろう。
俺はせめてと思い魂だけは胃袋から外に出し、輪廻の輪に還した。俺に出来るのはこんなことぐらいだけだ。
「ま、まさかこんな一瞬で……」
俺は聖女に向かって歩く。
突き刺さった剣は全て捕食して回収。腹、腕、足からあふれる血は自己再生で即修復。
もう聖女は逃げられない。
俺は聖女の首を掴んで持ち上げた。
「こいつ等はあとどれぐらいいる」
「ぐっが!」
「答えろ。苦しいだけで死なないように手加減している。答えろ」
そう聞くと聖女は苦しげな表情をしながらも言った。
「知ら……ない。詳しい、数、までは」
「ならどれぐらい実験した」
「知ってる、のは。1000を超えた、ぐらい、まで」
「1000人か……」
そう言ってから俺は聖女を放した。
聖女は何度か大きく咳き込んだ後、俺を睨みつけながら言う。
「こ、こんな事をしてただではすみませんよ」
「すまない?弱者のお前が俺と言う強者を?どうやって?」
「あなたがヴァロンランド国の教師と子供達に関係があるのを知っています。その子供達を助ける事は出来るでしょうか」
「………………」
「ここからヴァロンランドまで海を越えて助ける事など出来ないでしょう!騎士団が消滅した時点でこの作戦は実行!もうあなたは――」
「もういい。三下、これ以上喋るな」
俺は無銘で聖女の喉を突き刺した。
もう二度と不快なその声が出ない様に。
「――――――――!――――――――!!」
「引き抜く際に治癒魔法もかけておいた。痛みはないし死にもしない。聖女で正しい行いだと言うのであれば神様が助けてくれる事を祈るんだな」
そう言っておいた。
そしてすぐに現れたのはアナザとアスクレピオス。2人はあの騎士団の異常性とその理由にすぐ思いついて俺の報告してくれていたからだ。
アスクレピオスは関係者だから当然としても、アナザは流石と言う他ない。
「アナザ、俺は少し出かける。その間聖女を拘束して絶望を叩き込め。アスクレピオスは今見たものの情報解析を頼む。今後教会と全面戦争を起こすかもしれない」
「承知しました」
「はい。元々無理矢理だった訳ですが、これは私の失態でもありますのでおまかせください」
「――――――。――――――――――!!」
喉を潰した聖女が何か言おうとしている。
俺はもこんな三下に全く興味なく、それよりもあの国に居るガキどもとその親の方が心配だった。
せっかく助けた命を下らない理由で奪われてはたまったもんじゃない。
俺は翼を広げて久々に全力を出す事にする。
そしてふと思いついた事を言う。
「アナザ。その聖女を拘束した後少しお使いっと言うか欲しい物を手に入れてきて欲しい」
「何をお望みでしょう」
「――悪魔。お前と同格、もしくはそれ以上の悪魔をスカウトしてきて欲しい。戦力の増大を図る」
「承知しました。マスターの望みであればその者達を用意しておきましょう」
「頼んだ」
言葉少なく俺は空を飛んだ。
目指すは子供達の元である。




