異世界転移
初めに、俺にとって1番可愛いのはやはり俺なんだろうなっという自覚はある。
突然であるが仕方ない。それが俺だ。
恐らく俺の心はとても汚い黒なんだろう。赤ん坊がよく分からず様々なクレヨンを使って塗り潰したような黒と言うか、絵の具を溶く時に使った後の水と言うか、とても汚いというイメージは分かるだろ?
多分俺の心はそんな色だ。
どれだけ手直ししようとしても手遅れなほどに汚く、どうしようもない程汚らしい。
自分自身その自覚はある。もし誰かを愛する事が出来たとしても、それは自分のためだ。
自分が幸せと感じるために誰かを愛し、自分の幸せがなくなるのが怖いから誰かを守る。自分にとって不利になるから誰かを擁護する。
自分にとって、自分にとって、自分にとって…………
こんな俺自身に俺だって呆れているが、それが俺なのだから仕方ないとまた自分を甘やかす。
親の言葉を聞いてもろくに改善せず、見ず知らずの誰かのために失敗談を語る本を読んでも心に響かない。
本当に俺は我が強い。根拠もないくせに自分が1番優れているとどこかで思い、誰かの不幸を見て表情は変えずに心の中で笑う。
ああ、本当に俺は醜い。
打算的で、興味が無い物は徹底的に無視して、見て見ぬふり、聞いて聞かぬふりをしてすっとぼける。俺の中の汚らしい心は何も変わらない。
それ故に物語の英雄に憧れる。
努力、友情、勝利。ありふれた言葉なのだろうが俺にはこの3文字を実際に行動した事はない。
努力なんてした事がない。自分の実力はよく知っているから、バカがどれだけ足掻いてもバカはバカだ。
友情と言うか友人すらいない。他人は所詮他人だ。どこでどうなろうが知ったこっちゃない。
勝利は誰にでもできるような物でしか勝利した事がない。手に届くか届かないかぐらいのギリギリのところで勝負した事すらない。
でも物語の英雄はそれをやってのける。
泥臭い努力をして、その経過から親友を得て、強大な敵に勝利する。ありふれた王道、テンプレと言えるものだからこそ憧れる。
俺にとって最も遠い場所にある気がするから。
だから俺はオタクだ。王道と言える正義の味方のマンガを読んだり、ゲームをしたり、アニメを見る。
DVDを買う余裕はないからテレビで放送された物をちまちまと安っぽいDVDに落とす。
この行動がどれほどのオタク行動なんかは分からないが……できれば金銭の問題とできれば受け取ってほしい。
まぁともかく俺はそんな根暗で心が汚いオタクという事だ。
次に外見だが太っている。
体重は100を超えているし、死んだ魚の目、だと言うのに身長と体格には恵まれている。
身長は180を超え、肩幅は広く着れる服は探さないと見付からない。
おかげで外見だけで見ればあまり太っている様には見えないと言われる事も多いが……普通に太っているだろう。
よくご立派な兄からは無駄な体格と言われる。
兄はバスケットをしているのだが、俺よりも少しだけ小柄だ。身長に差はあまりないのだが肩幅のせいで俺の方が大きく見られる。
だと言うのに部活はせず、真っ直ぐ家に帰ってマンガやゲームをしている。スポーツをしている兄からすれば気に入らないのだろう。
ま、身の上話はそんなところだ。
そして今日も教室で1人静かにラノベを読む。友人もいないのに誰かと話しをする事なんてある訳がない。今日も学校で暇を潰して帰って読み飽きた漫画でも読むだけの毎日だ。
刺激が無いので何も面白みもない学校は本当に暇だ。
何か面白い事が起きないかと思いながらも行動はしない。俺が動いたところで周りのクラスメイト達は怯えるだけだ。
俺はこの恵まれた体格と、太っているというこの見た目だけで1歩引かれている。
俺のあずかり知れない所で勝手に俺は喧嘩が強いという事になっている事も原因だ。この学校で喧嘩などした事がない。していたのは精々小学校までだ。
だがそのおかげで俺はちょっかいを出された事はないし、近くの小柄で中性的な男子の様にイジメに近いからかいをされた事もない。
この体格も役に立つ。
………………この小説もやっぱ飽きたな。新刊で面白いのないかな……
とりあえず寝るか。
そう思い腕を枕代わりにして寝る事にした。
-
『こんにちは君たち!!僕はとある世界の……そうだな、神様って言えばイメージし易いかな?これから君達には僕の世界に転生、転移してもらいまーす!!』
ハイテンションな自称神を目の前に俺は何の興味もなくただボーっと眺めていた。
『突然すぎるって?それは仕方ないな。どうせ君達のほとんどが死んじゃってるんだから。事故だったり、病気だったり、殺されたり、寿命だったり。様々な理由で死んだ君達は全員転生させるからね!どうせ生き返り様がないんだから。そしてほんの少しの転移組は僕の勝手な判断で選ばせてもらったよ!自殺希望者が多いかな?それなら死なずに僕の世界に来ても問題ないよね?って事だから文句言わないでよ?』
……俺は……生きてたよな?そしてとくに自殺だってしようとした事はない。
どうせそのうち勝手に死ぬのに自殺する奴らの気が知れない。それに下らない理由だが、マンガの続きが気になるとか、欲しいゲームをまだ買ってないとかこじつけようと思えばいくらでも生きる理由はある。
なのになぜ俺はここに居るんだろう?
『そしてごく1部だけど、元の世界に全く興味が無い人達も転移組として選ばせてもらったよ!大切な者が居なかったり、自分居るべき所はここじゃない!!って強く思ってたり、本当に自分の命すら興味が無かったりする人達をね♪』
最後の所だけ俺を見て言ったように感じた。
そうか。俺はそんなにあの世界に対して興味が無かったのか。
『そんな面白い人達も含めて!僕の加護を与えておくよ!これはこの場に居る全員にあげるから安心してね♪そして最後に君達には重要な設定があります。それは自分自身のキャラ設定だ!僕の世界は君達で言う所のゲームや漫画に似た世界だからね。様々な種族、動物、魔物なんかが生きているんだ!君達はその中で好きな上位種として生きてもらいます!!でもゲームみたいにスキル枠も用意してるから安心して♪それから寿命で死んじゃったお爺ちゃんお婆ちゃん達はジャンジャン僕に質問して!スマホや保険の係の人達以上に優しく、丁寧に教えてあげるからね』
最後だけ優しく言ったつもりかもしれないが、今の俺には人間を唆す悪魔のような声に聞こえたぞ。
何はともあれ、俺の前に様々なスキル欄が現れる。
神様の加護と言う部分の説明文は、全言語理解機能、全文字解読機能、全環境適応、病気完全無効、異常状態完全無効……戦闘系と言うよりは防御、そして生活面での部分が大きいな。
そしてスキル欄では……戦闘系の他に商人スキル、料理人スキル、鍛冶や木工系スキルなどなど、とても幅広いラインナップだ。
上位種と言われた欄には様々なファンタジー系の種族だったり、勇者など職業系のように感じる物もある。と言うか本当にそれ上位種か?
『あ、それは人間種の上位種だね。半神半人も用意してみようかな?って思ったんだけど他のみんなに止められた~』
……神様らしく人の頭の中でも読んだのか?
『まぁそんなところ。ところで君。本当に面白い考えをしているよね!僕の中で本命は君なんだよ?』
「……何の本命だ」
『僕の世界を大きく乱してくれそうな存在としてさ!!実はこの中には凶悪な犯罪者とかも居るんだ!驚いた?』
「少しな。でもそんな奴や俺を召喚してどうする?正義の味方的な存在が欲しいんじゃないのか?」
『それなら君達のほとんどが要らないよ。僕達が求めているのはあの世界を面白おかしく掻き乱してくれる人なんだよ!』
大きく手を広げながら言う自称神に俺はそんなもんかと思う。
「それじゃ好き勝手にしていいんだな?」
『うんうん!転移組の君でも好きな種族にしてあげれるよ!流行りのスライムにでもする?それともドラゴンの幼体?それとも王道にチート能力を持った主人公?』
「……チート能力だけでいいよ。見た目とか特別変えたいって事はないし」
『え?そうなの?ほとんどの人はイケメンだったり、美人になったりしてるけど?人によってはさっき言ったみたいに種族すら変えてるけど?』
「……その代わり進化しやすい身体にしてくれ。それから有機物とか無機物とか関係なく何でも食える身体にもして欲しい」
『え~っと?それなら『捕食』と『変質』で十分だね。他にはないの?』
「異常耐性は全部神様のご加護のおかげで必要ないんだろ?それじゃ……身体強化をくれ」
『……こんなんで世界を掻き乱せるのかな……?』
「手っ取り早くていいだろ。それから転移先の指定って出来るのか?」
『あ、それはこっちで勝手にやっておくよ。それぞれが選んだ種族、その才能をフルで活用できるようにね』
「そうか。なら良い」
ならあとは特に指定する事はない。後は周りの連中が設定を終える事を待とう。
『……ね、ねぇ。本当にもういらないの?もっと強力なスキルもあるし、モテモテになれるスキルもあるよ?』
「そこまでモテたい願望はねぇよ。それに俺はなんだかんだで1人が好きなんだよ」
『むぅ。そう言われるとな……本当に要らない?某スライムみたいに補助AIみたいなの要らないの?』
「要らん。俺の中に別な人格があるとかおっかねぇよ」
後はもうやる気がない。
自称神は不満そうだがこれ以上言ってくる事もなかった。
そして他の連中が終わったのか自称神は元の位置に戻る。
『それじゃあみんな設定終わったね?これから転移、そして転生を開始するよ!』
そう言うと俺の身体が粒子になるように手足の端から消え始める。
『みんな!次の人生を楽しんでね♪』