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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第四章 寄生冒険者

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8.最強のグループ

 複数名で冒険する際には隊列が重要になる。前列には素早く危険を察知したり、戦闘時には前に出て皆の盾となる役目が求められる。対して後列は背後からの敵に警戒しつつ、皆の支援や指揮をとる役割だ。

 初めて組む相手ばかりだが、今回もそれらの役割を決める必要があった。他のグループは色々と話し合っていたが、僕達のグループはすぐに決まった。


「先頭はウィスト、次にルカ、オリバー、エギル、ヴィック。最後尾に私の順だ」


 素早く動けて危険察知の能力が高いウィストが先頭。体が大きいルカとリーチの長い武器を持つオリバーさんがウィストをサポートする。経験豊富なロードさんが最後尾で指揮をとり、僕がそのサポートをする。そして前列と後列のどちらにもすぐに動けるように、エギルを真ん中に置いた。

 ウィストと位置が離れること以外は不満はなく、他の皆も意義は唱えない。エギルも同様だ。何か一言くらい言うかと思ったが、特に何も言うことなくロードさんの提案に従っていた。


 最初こそ、エギルと同じグループになったことに不安を抱いた。初めて会ったことを思い出したら当然だ。だがロードさんがグループに加わったことでその心配は無くなった。あのエギルも、同じクランの団長には逆らわないようだ。

 さらにロードさんと同じグループになったことで、もう一つの心配事も減った。


「いいなぁ、あのグループ」

「エギルにロードさんが一緒だって。エギルを抑えるためとはいえ戦力が偏りすぎだろ」

「一緒になった奴らは運が良いな。あそこ、多分誰も死なないぜ」


 エギルだけではなく、ロードさんも相当な実力者だそうだ。さらに同行するのはエリート揃いのクランに所属するルカと、ベテランのオリバーさん。これ以上にないほどに心強い人達だった。周りの人達の言う通り、この人達と一緒ならそうそう死なないんじゃないかと言う安心感があった。


「良いグループに入れたぜ」


 僕と同じ気持ちなのか、オリバーさんが言った。


「そうですね。エギルのことがちょっと気がかりですけど」

「それはどうでもいい。俺としちゃロードさんが一緒なのが重要だ」


 ロードさんの武器を握る手に力が入る。


「あの人の前で活躍すりゃ、『英雄の道』に入れるかもしれねぇ。絶好のアピールチャンスだ。この機会、逃すわけにはいかねぇ」


 『英雄の道』に入りたがる冒険者は多い。強い冒険者とチームを組めるチャンスや、多くの有益な情報があるからだ。それらを活用すれば、上級冒険者への昇級や財を築くことが容易になる。オリバーさんもその一人のようだ。


 話し合いが終わった後、各グループは指定された地域の調査に向かった。僕達のグループは遠征の責任者であるロードさんが全グループの出発を見守った後に移動した。


「俺様の後ろで良かったな」


 移動中、エギルが後ろを見ながら言ってきた。


「本来なら遠征に来たらすぐに死ぬはずのクソ雑魚が、俺様のお陰で生きて帰れるんだ。感謝しろよ」

「自分の身は自分で守りますよ。そっちこそ気をつけてください。未開拓地のモンスターは強いらしいですよ。エギルさんでも危ないんじゃないですか」

「あ゛? 俺様が死ぬと思ってんのか? 馬鹿かテメェ」


 エギルが小馬鹿にするように笑う。


「俺様がそこら辺のモンスターに負けるわけねぇよ」


 僕はエギルが戦う姿を見たことが無く、強いという噂しか知らない。己の価値を高めるために、強さを誇張する者を今までに多く見てきた。セリフだけを切り取れば、エギルの言葉もそれと同じものだ。

 にもかかわらず、なぜかエギルの言葉は虚勢には聞こえない。それがエギルの自信満々な態度から感じ取ったものなのか、単なる僕の勘違いなのか、それともソランさんのような力を察したのか。この段階ではその答えを得られなかった。




「あのモンスター、なんか変じゃない?」


 陽が沈み始めた頃、ウィストが前方のモンスターを指しながら言った。そのモンスターはエンブと同じ獣人型で、体毛は黒と紫色が混じり合った斑模様だ。しゃがんだ状態でも僕達の誰よりも大きな体格で、一撃でもまともに喰らえば骨が折られそうなほどの筋力はありそうだった。

 だが一番気になったのはその見た目ではない。

 そのモンスターは地面にしゃがみ込みながら、倒れているモンスターの体を引きちぎって口に運ぶ。その肉を口に入れるがなかなか噛み切れず、噛んだまま肉を引っ張ることでやっと噛み切って、数回咀嚼してから飲み込んでいる。そして再び同じように肉を嚙み千切って食べる。


「グオグルは本来群れで活動する草食のモンスターだ。大人しい性格の個体が多く、私達も襲われることは滅多に無い。なのに他のモンスターを襲った様子があり、しかもその肉を食べている。体毛も真っ黒なはずなのに微妙に違うな。一頭しかいないのも怪しい」


 獣人型にも肉を食す種族はいる。だがそのモンスターの様子から、歯が肉を食べるのに適していないように見える。この森には草食モンスターが食べきれないほどの食料があるので、仕方なく食べているとも思えない。つまり好き好んで肉を食べているということだ。


 一般的な行動とはかけ離れた奇行。そして離れていても感じる妙な威圧感。その二つの情報から、答えを導き出すのは簡単だった。


「邪龍体です。多分」

「だろうな」


 あまり驚かない様子でロードさんが反応する。


「邪龍体になったモンスターは、見た目だけではなく性格も邪龍と同じものに変化していく。グオグルとは思えない行動だ。仲間はその異常性を察して逃げたのだろう」


 それほどまでに大きな変化だったのだろう。僕が伝える前から察していたようだ。


 ロードさんの言葉を聞き、全員が身構える。邪龍体となったモンスターは凶暴性を持ち力が増す。その変化量に個体差はあるが、弱くなることは無いのは確かである。警戒するのは当然だった。


 ただ一人を除いては。


「つまりあいつだけしかいないんだな」


 エギルがさっきと変わらない調子でロードさんに訊ねる。まるで歩いていたら偶然知っているモンスターを見かけたかのような。

 ロードさんはルカに「どうだ?」と聞くと、ルカは神妙な顔つきで再びグオグルの方を向く。


「他の個体は見かけません。気配も感じないので近くにはいないかと……」

「じゃああいつを倒せばいいってわけだな。初日で一匹倒せば今日はもう良いんじゃねぇの」

「ここは拠点から遠いからな。今から帰っても着くのは夕方になる」

「夜に戻れるんなら文句ねぇよ」


 するとエギルが一人で前に出た。その行く先は邪龍体のグオグルの方だった。


「え?! ちょっと待って―――」


 僕の声に反応したのか、グオグルが突然僕達の方を向く。食べていたモンスターを放り出して険しい顔を見せて威嚇してきた。僕のせいで折角の不意打ちのチャンスを無駄にしてしまった。

 だがそんなことを気にせず、エギルは面白そうなものを見ているように笑う。


「お前もついてないな。相手が俺様じゃなかったら、もう少しその力で好き勝手出来たのによ」


 グオグルの威嚇を平然と受けながらエギルは同じ歩調で近づいて行く。


「だが俺様と会ったら終わりだ。俺様は喧嘩を売ってきた奴には容赦しねぇし、この後のお楽しみのために早く拠点に帰りてぇ」


 エギルがまた一歩近づいた瞬間、グオグルがその大柄な体格には似合わない速さで跳びかかる。

 その直後、エギルはグオグルの突進を躱しながら湾刀で斬りつけていた。


 もし僕がその場にいたら、その突進をまともに喰らっていた。良くて盾で防げたといったところだ。回避はもちろん、反撃すらできなかっただろう。

 だがエギルは、その両方をやってのけた。


「ギッ……」


 グオグルは短く悲鳴を上げたが、すぐに体勢を立て直してエギルに向き直る。胸元に大きな切り傷が残っているが、意に介さずにエギルを睨み続けている。闘争心は全く衰えていない。


 そんな殺気が強い相手を前にしても、エギルは平然としていた。


「だから遊ぶのは少しだけにしてやるよ」


 そこからは僕が目にしたのは闘いではなく、一方的な蹂躙だった。


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