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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第三章 マイルスの冒険者

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25.数の利

 僕はゼツよりも弱い。相手は僕よりも大きくて力が強い歴戦の鬼人だ。対等の条件で戦えば、何度戦っても負けるだろう。不意を突いて一撃与えることに成功しても、それくらいの実力差があることは自覚していた。


 それほどの実力者相手に勝つにはどうすべきか。簡単だ。対等の条件で戦わなければいい。装備、情報、地形。使えるもの全てを使って戦う。それが唯一の勝ち方である。ユウの助力を得るのも、その一つだ。


「オラオラオラオラ!」


 ユウが果敢に両手のメイスで殴りかかる。先ほどのゼツの連打と同等の速度と手数だ。ゼツはそれらをなんとか手甲で捌こうとする。


「うっとぉしい!」


 ゼツが右腕を大きく振るう。ユウは攻撃の手を止めて後ろに回避する。そしてゼツが反撃に試みる瞬間、ユウと入れ替わるように前に出て剣を振るった。

 僕の剣はゼツに防がれる。追撃を入れるがそれも防御され、ゼツが再び右腕を振るおうとする。僕の剣一本だけでは到底ゼツを追い詰められない。だがそれは分かっていたことだ。


「どけぇ!」


 僕の後ろからユウが飛び出る。そして先程と同じようにメイスで殴りかかる。疲れを見せないほどの連撃。この攻撃にはゼツもなかなか反撃でき無さそうだった。


 僕もユウも、一人ではゼツには勝てない。だが二人なら、数の利を生かせれば、僕とユウの隙を互いに埋め合うことができれば、ゼツとも渡り合えることができていた。


「雑魚のくせにしぶてぇんだよ!」


 ユウが攻め、反撃される隙を僕が補い、その間にユウが立て直して再び攻め立てる。途絶えない攻撃にゼツの苛立ちは増していた。

 そして苛立ちはミスを生む。


「ぐっ……」


 ユウの攻撃を受け流せず、ゼツが体勢を崩す。やや後ろの体を仰け反らしており、がら空きになった胴体に向けてユウがメイスを振るう。その一撃はゼツの右横っ腹に刺さった。

 ゼツが初めて苦痛の表情を見せる。続けてユウが追撃しようとするが、ゼツは後ろに下がって回避する。その足取りは拙く、今にも転げそうだった。体格が勝っていても、ユウの一撃は耐えきれるものでは無さそうだ。


 距離が空き、ゼツが背後の通路を見る。その先には一階に続く階段があった。


「逃げないよね」


 ゼツが僕に視線を戻して睨む。


「散々バカにしてきた相手にちょっと負けそうになったからって、尻尾撒いて逃げないよね」

「調子に乗るな。誰が負けそうだって」

「ちょっと小突いただけでふらふらしてるお前だよ。まさかこの程度で逃げるわけないよなぁ」


 ユウも挑発に参加する。余程イラついたのか、ゼツが憤怒の表情を見せた。


「ふざけんなぁ!」


 ゼツが前に出て渾身の拳を振るう。僕は前に出てそれを盾で受け流し、即座に剣を振るう。だが僕の剣はゼツの手甲に防がれる。

 素早く反撃してもゼツは反応する。怒りに狂っても、体に染みついた反射は裏切らない。それができるのは強い戦士だからだ。


 だからそれを利用した。


「オレ様を忘れんな!」


 ユウがゼツに接近し、二つのメイスを同時に振り下ろす。ゼツは右腕で僕の攻撃を防いでいるため、使えるのは左腕のみ。すぐさま左腕の手甲で止めようとするが、防げたのは一本のみ。

 もう一本は、ゼツの脳天へと振り下ろされた。


「がっ―――」


 いくら体が丈夫でも、頭に喰らえば無事では済まない。血は出なくても脳が揺れて意識が揺蕩う。それは鬼人も例外ではなかった。


 ゼツの体が前に沈む。ぎりぎり倒れずにいるが足はふらついており、眼の焦点があっていない。今の一撃をくらっても倒れないのは凄いが、さすがに意識を保てないようだ。

 その大きな隙を、ユウが逃すわけがなかった。


「今までの恨みだ! 思い知れ!」


 ユウはメイスを一本捨て、残った一本を両手で持つ。そして大きく体を横に捻ってメイスを振り抜いた。渾身の力で振り抜いた一撃が、ゼツの胴体に刺さった。

 ユウよりも二回り大きなゼツの体が宙を浮く。巨体は廊下の端まで飛び、大きな音を立てて壁にぶつかるまで止まらなかった。当然の如く、ゼツは意識を失っていた。


「よし! スッキリしたぜ」


 対して、殴り飛ばした張本人は清々しい顔をしていた。積年の恨みを晴らせたのだから、まぁ無理もない……。

 一先ず邪魔者を片付けたところで、本来の目的に戻る。


「じゃあ早く鍵を探そう。もたついてたら他の人が来るかもしれない」


 ウィストを助けるには牢屋の鍵が必要だ。だが今のところ見当たらない。ゼツが持っているか、それとも別の場所に保管してあるかだ。

 だからまだ探っていない、廊下の奥の部屋に行くのは必然だった。


「わーってるよ。さっさと見つけて楽しいお祭りでもしようじゃねぇか」

「僕はしないよ。ウィストを助けたらすぐ逃げるから」

「つれねぇな。ここまで来たら普通手伝うだろ」

「そんなことをして捕まったらここに来た意味が無い。死ぬかもしれないんだから。やっと叶った目標を手放したくないよ」

「目標? なんだそれ」

「ウィストと一緒に冒険することだよ。そのために僕はここまで来たんだから」

「そんなことのためにか。お前、あの女に惚れてんのか?」

「違うよ。大切な人だとは思ってるけど」


 ウィストのお陰で今の僕がある。だから彼女に尽くしたいと思うのは当然のことだ。


「ユウはどうなの。シオリは大切な人じゃないの? 彼女のために生きたいって思わないの?」

「いや。オレ様はオレ様だけのために生きる。あいつはそのために必要な奴だから連れてるだけだ」

「じゃあ、シオリが突然居なくなっても平気なの?」

「それは……」


 ユウが難しい顔をした。


「なんか嫌だな。なんつーか、居ないのがムカつく」

「だったら一緒に逃げようよ」


 ユウはここまで僕を連れてきてくれた恩人の一人だ。そして今、共に戦った戦友となった。付き合いは浅いし気も合わないが、恩人であり戦友でもあるユウが死ぬかもしれない事態を黙って見過ごしたくなくなった。

 そのためにできることは、僕達と一緒に逃げることだった。


「ここに捕らえられてる人達を解放するだけでも、あいつらの目論見は崩れる。その犯人がユウだとあいつらが知ったら、悔しい思いをするはずだしそれで十分な復讐になる。食べたかったご飯が取られたらとっても悔しいしムカつくでしょ」

「……たしかにそうだな」


 ユウの鬼人族への恨みが僕の想像以上なら、もう何もできなかった。ウィストの方が大事なので、ここで別れることになっただろう。

 だがユウは、僕の提案を聞いて考え込んでいる。一緒に逃げることを選択肢に入れてくれている。ゼツを吹っ飛ばしたことで、恨みを晴らせたのが大きいのだろう。ある意味ゼツのお陰である。感謝はしないけど。


 ユウは腕を組み、首を傾げながらうーんと悩んでいる。まだ恨みを晴らし切れていないものの、シオリのことも考えているのかもしれない。僕にとってのウィストが、ユウにとってのシオリだ。自分の恨みとシオリを天秤にかけているのだろう。

 とはいっても、長く時間をかけていては敵に感づかれる。


「とりあえず考えてみて。その間に僕は鍵を探してるから」


 大事な判断だ。ユウを一人にさせて考えさせる間に鍵を探すことにした。できれば部屋を探す間に見つけて欲しいなと思いながら、廊下の先へと進む。


「大丈夫だった?」


 ウィストのいる牢獄の前まで進んだところ、声を掛けられる。言葉こそ気に掛けるものだったが、表情に不安はない。戦っているところを見ていたのだろう。


「うん。怪我は無いよ。ところであの部屋って何があるか知ってる?」


 廊下の奥の部屋について尋ねると、ウィストは「分からない」と答える。


「けど誰かいるっぽい。時々声が聞こえるから女のヒトかもってことくらいかな」

「今もいるの?」

「出てきたところは見たことないから、多分いると思う」


 誰かいる。その言葉を聞いて警戒心が高まる。用心して扉から中の様子を窺おうと耳を近づける。

 そして音が聞こえたのは、廊下の反対方向からだった。


「何をしているのかと思ったら、このざまか」


 溜め息の後、聞き覚えのある男の声がした。振り向くと、ゼツと一緒にウィストを攫った鬼人のギンがいた。


「儀式の準備をサボるだけでも問題だというのに、侵入者に返り討ちに遭うとは……。呆れて何も言えんよ」


 ギンは気を失っているゼツに向かって独り言を言う。言葉通り、心底呆れたかのような顔だった。


「まぁお前の処罰は後だ。まずはこっちを片付けないとな」


 上から騒がしい足音が聞こえる。ギンだけじゃなく、異変を察した鬼人達が来ているようだ。間もなくして彼らが地下に来る。そうなれば勝ち目は無い。

 ならば敵が混乱している間に、彼らを倒すしかない。


 再び盾と剣を構える。ユウもメイスを両手に持ち、戦う姿勢を見せる。無謀な勝負でもやるしかなかった。

 そんな僕等を見て、ギンがまた溜め息を吐いた。


「同じ言葉を同じ相手に二度も言うとは思わなかったよ」


 同じようにしてギンも構える。


「実力差を考えろ」


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