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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第三章 マイルスの冒険者

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24.駆け引き

「お主は正直すぎるな」


 アランさんからの訓練を受けている時だった。指導と称した手合わせをして、手加減されているにもかかわらず一本も取れない様を見て、同情的な眼でそう言われた。


「正直、ですか」

「うむ。良い意味でも悪い意味でもな。指導する側としては都合のいい性格じゃが、こと戦闘においては欠点となる。何故だかわかるか?」


 疲れていて考える余力すらなかったので、つい首を横に振った。


「分かりやすいからじゃ。つまり動きを読みやすい」


 深刻な表情でアランさんが言う。


「戦いにおいて、動きを知られるということは圧倒的な不利なことじゃ。相手に目的や狙いが知られたら、そこから逆算されて手が読まれる。そこを狙い撃たれればどんな猛者も苦戦を強いられる」


 何度か手合わせをしてどんなに必死に攻めかかっても、アランさんには一撃も当てれなかった。技量差のせいかと思ったが、僕の欠点のせいでもあったようだ。


「相手に情報を与えてはならん。策はもちろん、武器や性格もできる限り相手に隠す。分からないうちは何をされるか分からんから相手も戦いにくい。そうすると相手は情報を引き出そうとしてきて、あの手この手を使ってきてくるだろう。そうしてもたついている間にこっちも手を考えるのじゃ。それができれば、少々の力量差がある相手とも戦えよう」


 歴戦の傭兵なだけあって、アランさんの言葉はためになる。普段は面倒で邪魔臭い老人だが、戦闘に関してはそんな面影が全く見られない。アランさんの指導を受けられるのはとても貴重な経験だった。


 その貴重な話を聞けて、ふと気になる点があった。


「けどアランさん。以前僕達には逆のことをしてましたよね。アランさんが僕達の敵だって。あれはどうなんですか?」


 選挙の時、アランさんは僕達に向かって敵対していることを教えてくれた。もしそのことを知らされてなかったら、僕達は突然のアランさんの襲撃に対応できずに負けてしまっていただろう。さっきの話と矛盾している。


 するとアランさんはニヤッと笑った。「よく気付いたのぉ」と。


「たしかにさっきの話の通りなら、儂は敵に自分から情報を漏らしたうつけ者じゃ。教えずにいたら奇襲に成功して儂らが勝っていた未来もあったであろう。しかし儂はしなかった。もちろん儂のミスではなく、あえてそうしなかった。なぜだか分かるか?」

「……自分の存在を知らせたかった?」

「その理由は?」

「……」


 考えても分からない。さっきの教えと矛盾する理由はなんだろうか。

 考え込んでいると「例えばじゃが」とアランさんが言い出す。


「お主の持つ杭撃砲。その存在を相手が知っていたらどうする?」

「警戒します。当たったら致命傷になるので、特に注意します」

「それが答えじゃ。相手に注目させ警戒される。それが儂の狙いじゃった」

「何でそんなことを? そんなことしたら動きにくいし、危険なんじゃ……」

「それもある。じゃがあの戦場ではあれが最善じゃった」


 あの選挙のことを、アランさんは戦場と言う。確かにあれは何も知らない一市民からしたらただの選挙だが、僕等にとっては戦場だった。


「まず奇襲するという作戦じゃが、儂には無理じゃ。儂は非常に目立つ。街に入れば否応なしに人の眼につき存在がばれ、お主らの陣営に加わらなければ敵陣営に回ったということがすぐ知られる。そうなれば対策を取られ、奇襲の効果は十全に得られないであろう」


 たしかに、知っている奇襲ほど備えやすいものは無い。相手のことを知っていれば対策ができ、逆に利用することができる。


「じゃからあえて存在をアピールすることにした。理由は儂を警戒させると同時に、戦意を喪失させることじゃ。お主らの陣営は儂の参戦で怖気づいたじゃろ。なんせ最強の儂が敵に回ったからの」


 アランさんの存在を知ったとき、何人かの賛同者が離脱した。あのときは僕も不利な現況を悟っていた。


「あえて教えることで警戒させて戦力を削ぐ……それが狙いだったんですね」

「どのみち取られる対策ならば隠しても無駄じゃ。ならばいっそ、その知名度を利用して脅威を知らしめる。それが儂の策じゃった。結果は儂らの敗北じゃったが、あの策で間違いはなかったと思うぞ。そしてそれがお主に足りないものじゃ」


 アランさんは自分のこめかみに指を立てる。


「相手が何を嫌ってるか、何を警戒してるか、何をしたいか。相手のことを考えて己の武器を使う。それが駆け引きじゃ」

「駆け引き……」

「そうじゃ。戦闘では素直にではなくずる賢く戦う。それができれば―――」


 アランさんがニヤリと笑った。


「お主は一つ、上の世界で戦える」




 踏み込んだ先に待っていたのは、ゼツの膝蹴りだった。僕が懐に入ったと同時のタイミングで、まるで待ち構えていたかのような躊躇ない攻撃。そのまま進んでいたらまともに喰らい、その衝撃で動けなくなっていたであろう。


 だが僕はその場で足を止めて、それすらも受け流した。


「なっ……!」


 ゼツの動揺の声が聞こえる。その隙を突いて剣を振る。剣先はゼツの横っ腹を切り裂く。浅いながらも刃が体に入る感覚があった。

 体を切られたゼツは僕を殴り飛ばそうと右腕で振り払う。後ろに跳びながら盾で受けて衝撃を流す。距離は取られたがダメージは少なかった。


「この、クソちびが……」


 ゼツが憤怒の表情で僕を睨む。あの膝蹴りで僕を仕留めるつもりだったのだろう。だが思い通りにいかなかったことで、ゼツはひどく怒っている。


 紙一重だった。あのまま前のめりに進んでいたら、ゼツの想定していた通りまんまと罠にはまり、あの一撃で仕留められていた。

 だがアランさんの教えを思い出して踏みとどまれた。それは相手が何を狙い、何を考え、何をしようとするのかということを想像することだ。


 ゼツは執拗に僕を攻めていた。反撃する間もないほどの怒涛の攻めを受けた僕は、堪らずに前進して反撃した。だがそれはゼツの計算で、僕を前におびき出すためのものだった。

 窮鼠猫を噛む。追い詰められた相手はいつか反撃にでる。だが攻めに出れば隙ができる。ゼツはそれを狙っていた。弱者をいたぶるのが好きな奴がしそうな手で、防いだ時まで気づかなかった。

 にもかかわらず防御できたのは、ゼツの策を読んだからでも、直感で危険を察知したからでもない。ゼツの性格を知れたからだ。


 弱い者いじめが好きで、他者を見下しがちな残忍な性格。そういう相手が何をしたいか。そこから逆算して考えた。そうして思いついたのが、さっきのユウを相手にしたのと同じように罠にかけることだった。

 絶え間ない攻撃行い、相手にストレスを与える。耐え切れなくなった相手は無茶な反撃を試みる。言葉ではなく武力による挑発だ。ゼツはユウに対しては言葉で、僕には武力でそれを行い、途中まではそれに成功していた。

 しかし僕はそれを逆手にとった。おまけに一撃をゼツに入れた。たいしたダメージにはならない。だが体の傷は浅くとも、心の傷は大きい。なんせ見下していた相手に罠を看過され、そのうえ傷をつけられたのだ。その怒りは僕の想像以上だろう。これからゼツは、先程よりも激しい攻撃を仕掛けてくるはずだ。


 だがそれでいい。


 怒りに任せた攻撃はどこかに淀みが生じる。隙が生まれてミスが増える。その隙を突けば、本来格上のゼツにも勝てる。


 そのための武器がここに揃っていた。


「いつまで寝てるの。このままだと負けっぱなしだよ」

「うるせぇ」


 ユウがゆっくりと立ち上がる。


「オレ様は最強だ」


 その眼には熱い闘志が宿っていた。


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