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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第三章 マイルスの冒険者

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18.特異個体

「私達がエルガルドに来たのは一年前です」


 翌朝、準備を終えた僕達はシロギダンジョンに入った。ダンジョンに入るとユウは我先にと突き進み、あっという間に姿を消した。すぐに追いかけようとしたが、「あの子なら大丈夫です」と言われて止められる。対照的にシオリは一定のペースで進み続け、僕もそれについていった。

 そうしてしばらく歩いてから休憩を始めたときに、シオリが話し始めた。


「ユウと一緒に村から逃げ出しました。シロギダンジョンを抜けてエルガルドに向かい、他所の村からの移住者として街に居つきました。正体を明かすのはヴィックさんが初めてです」

「なんで逃げたの? 鬼人だってばれたら面倒な事になるんじゃないの」

「私は鬼人ではありません。ヴィックさんと同じ人間です。鬼人の集団に捕らえられ、牢獄に囚われている者達の世話をさせられていました。ユウはその囚人の一人です。私は彼を利用して逃げ出しました。まったく本が読めない生活が耐えられなかったので」

「それが理由なんだ……」


 シオリの言葉に若干戸惑いつつも、新たな疑問が浮かびそれを窺う。


「ユウはなんで牢屋に居たの? ユウは鬼人なんでしょ」

「はい。ただし、鬼人は鬼人でも《黒鬼》でした」

「黒鬼?」

「鬼人の《特異個体》です。黒い角と黒い肌を持つ鬼人がそう呼ばれ、厄災を招くという言い伝えがあります。災いから逃れるために、ユウは幼い頃からずっと牢屋に入れられていました」

「特異個体って?」

「……ヴィックさんは物知らずなんですね」

「面目ない……」


 戦闘や探索、冒険に直結する知識は学んだが、それ以外については勉強不足である。アリスさんに「不要だ」と言われたこともあるが、興味が湧かなかったことも理由だ。もう少し、他のことも学んでおこう。

 シオリは一つ溜め息を吐いてから説明を再開する。


「生物の強さは生まれた種族により決まっています。下級なら下級、中級なら中級に分別されたモンスターはその枠組みを超えることはありません。稀に上の階級に匹敵するモンスターが発見されますが、それは年月とともに同種の個体よりも体や知能が発達した故の結果であり常識内の例外です」


 そういう個体は見たことがある。下級なのに中級並みに強かったり、逆に上級なのに思ったよりも弱かったり。


「しかし特異個体は違います。同族よりも大きな体・筋力・知能等、種族の枠組みから外れた能力や常識外の力を有しています。それを持つ個体は同族内で英雄視されたり、逆に恐れられることがあります。ユウの場合は後者にあたります。黒鬼が生まれるたびに災いが起きたため、そのような言い伝えが残りました」


 生まれたときから厄介者扱いされ、ずっと牢屋に入れられていた。たった一人で、気の置けない相手が誰もいない環境にユウはいた。あんなに騒がしいのも孤独を紛らわすためじゃないのかと考えると同情心が湧いてくる。僕と同じような待遇を受けていたなんて、想像すらしなかった。


「特異個体は常識外の力を持つため、多くの生物に影響を与えます。有名どころで言えば獅子族の《紅獅子》、龍族の《邪龍》、蛇族の《大蛇》です。特に紅獅子はマイルスとは関わりがあるのでご存知かと思います」

「それって十二年前のこと?」

「はい。あの事件の中心に紅獅子が居たようです。危険指定モンスターの特異個体、よく倒せたと感心します。普通の獅子族でさえ手強いのに、特異個体を相手に追い返すどころか討伐したのですから。英雄と呼ばれて当然の功績です」

「……そうだね」


 同じ街の、しかも命の恩人にあたる人が評価されるのは嬉しい。だが先程の件もあり素直に喜びを表現することができなかった。

 さらに気になるのは、それほどまでに強いはずのソランさんが警戒する鬼人族のことだ。獅子族の特異個体を倒せるほどならば、鬼人が相手でも勝てそうな気がするのだが。


「鬼人族はどれほど強いの? 僕が戦った相手はすごく強かったけど全員がそうなのかな。獅子族よりも強いの?」

「単純な強さでは上級に分類されます。しかし、対冒険者に限れば危険指定モンスター級の危険性です。モンスターの相手に慣れている冒険者は、人と同じ体と知能を持つ鬼人族を苦手としている方が多いのです。鬼人族に限れば傭兵の方が上手く戦えると言われています」


 言われてみれば当然の理由だ。鬼人族はほぼ人と同じ能力を持つ。モンスターというよりも人と相手にしている感覚に近い。しかも人よりも身体能力や筋力が優れている個体が多いから、危険指定モンスターよりも厄介な相手かもしれない。つまるところ相性が悪いのだ。


 ……もしかしたら、冒険者の天敵ともいえる種族ではないのか。


「なので私達は戦うことはせず、隠密行動に徹します。やることだけやればすぐに帰りましょう。それが一番安全で一番確実です」

「分かった」


 鬼人族の強さは身をもって知っている。あれほどの強さを持つ相手がたくさんいると考えれば、正面から押し入るのは自殺行為だ。ウィストを助けることだけに集中しよう。


「じゃあまずはウィストがいる場所を探さないとね。そこは見当ついてる?」

「はい。地図は頭に入ってます。そもそも私が働かされていた場所が誘拐した者達を隔離していた場所でしたので、ちゃんと覚えています」

「ウィスト以外にもいるの?」

「彼らは様々な種族を捕えています。私が担当したのはヒトだけでしたが、様々なモンスターを集めていると聞きました」

「なんでそんなことをしてるんだろう……」

「《強食》のためです」


 また知らない言葉が出てきた。既に無知の恥を晒しているので、気にせず窺うことにした。

 シオリはそのことに対して変わった反応もせず、平然と説明する。


「私は戦ったことが無いのですが、強くなるために必要なのは、知識を深めたり、技術を極めたり、体を鍛えたり、たくさん戦ったりすることだと思っています。しかし強食の現象が起これば、それらの能力を飛躍的に向上させることができます」

「それってどうやれば起こるの?」

「ギルドでもいくつかその現象を確認していますが、完全な法則性は未だに見つかっていません。しかしその効力は絶大です。特異個体が生まれ持った先天性な力ですが、強食は後天性な現象です。判明出来れば冒険者のレベルが格段と上がることから研究が続いています。しかし現段階で判明している条件は食べることだけです」

「……なんだって?」


 不穏な言葉が聞こえて聞き返す。シオリは同じ調子で同じ言葉を繰り返した。


「食べること以外の条件はまだ判明出来ていません」


 冗談かと思った。そんな方法で強くなれるとは思わなかったし、ウィストがそんな目に遭いそうになっているとは考えたくなかった。

 だがシオリの表情から、嘘や冗談を言っているようには思えなかった。


「相手を食べることで強くなる。それが強食です」

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