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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第三章 マイルスの冒険者

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17.英雄の覚悟

 シロギダンジョンから出てエルガルドに戻ったときには夜になっていた。戻った後はソランさんにギルドに連れられ、そのまま会議室に連れて行かれた。


「ここで待ってろ。出たら承知しねぇからな。あと治療も受けとけ」


 すぐに見張りの職員と看護師らしき人が来て、ソランさんは出て行った。鬼人族との戦闘のせいで体が痛い。もしかしたら骨が折れているかもしれないと思えるほどだった。

 だからと言ってここでじっとしているわけにはいかない。ウィストを助けに行きたい。相方を放っていられるわけがない。


 そう思って治療が終わった後に会議室から出ようとしたが、職員にしては屈強な男性がそれを阻む。行かせてもらおうとお願いするが、「特級冒険者であるソラン殿の指示です。それはできません」と言われ無下にされる。力づくでも出て行きたいが、武器が取り上げられているうえ、筋力では勝てそうにない。歯がゆい思いをしながら、ソランさんを待つしかなかった。


 ソランさんが帰って来たのは、それから半時間ほど後だった。ソランさんが会議室に来ると入れ替わるように職員は出て行き、会議室でソランさんと二人だけになった。


「ソランさん。早くここから出させてください。ウィストを助けに行きたいんです」

「ダメだ。お前は街に居ろ」


 僕のお願いは、一瞬も考慮されることなく却下される。


「あいつらは鬼人族の村に居る。お前が手も足も出なかった奴らが何人もいる場所だ。お前がそこに行っても何もできない。邪魔だ」

「なんでもやります。絶対に役に立ちます」

「救出には俺と編成した部隊で行く。お前より腕も経験もある連中だ。お前ができることは無い」

「けど―――」

「シロギダンジョンが何でここ十年、一人しか踏破できなかったか知ってるか?」


 ソランさんが突如話題を変える。


「鬼人族の仕業だからだ。あいつらは十年前ほどからシロギダンジョンに入った冒険者を狙っていた。しかも一族が主導で行っていたんだ」

「……だからなんなんですか」

「まだ分かんねぇのか。さっきも言っただろ。足手纏いだって」


 強くなったつもりでいた。ウィストの相方として恥じない実力をつけれた気がしていた。

 それでも、まだ足りないというのか。ここでただ待っていろというのか。


「……あのモンスターとはどういう関係なんですか」


 黒い声が口から出ていた。


「何の話だ」

「とぼけないでください。あの喋るルベイガンのことです。一緒に行動していましたよね」


 あのルベイガンはエルガルドから少し離れた所で分かれた。夜だったこともあり誰にも見られていないだろう。つまり、このことを知っているのは僕だけだ。


「冒険者の頂点である特級冒険者であるソランさんがモンスターと行動を共にしていた。しかも数多くの人々を襲った種族である獅子族と。これって凄いことですよね。みんなが知ったらどう思うでしょう」

「何が言いたい」


 鋭い眼で睨みつけられる。威圧に負けそうになるところを踏ん張って、次の言葉を口に出す。


「このことを言いふらされたくなかったら僕も連れてってください」


 マイルスの英雄と呼ばれたソランさんに、脅しともいえる取引を持ち掛ける。心臓が縮むような心情だった。こんなこと普通ならしない。

 だがウィストを助けるためなら、こんなプレッシャーがなんだ。耐えろ。それが僕の武器だろうが。


 ソランさんがジッと僕を見つめる。睨むような目つきに怖気づきそうになる。負けじとずっと耐えていると、ソランさんが手を伸ばして僕の胸倉を掴んだ。


「言えよ」


 短く冷たい言葉だった。


「言え。今すぐに言え。まだ局長はいる。その足で言いに行ってこい」


 折れると思っていた。苛つきながらも僕の要求を受けると思っていた。その地位を捨ててまで拒むとは思ってもいなかった。

 だからこんな予想外の展開になるとは思っておらず、呆気に取られてしまった。


「わ、分かってるんですか? これが知られたらどうなるのか」

「良くて謹慎、普通なら冒険者の資格の剥奪、最悪罪人扱いだな」

「だったら要求を呑めばいいじゃないですか」


 ソランさんの意図が分からない。ただ連れて行くだけでいいのになぜ承諾しないのか。頭に疑問が溢れていた。


「俺はこの件に人生を賭けた。どんな手を使ってでも絶対に捕まっている奴らを助け出す。そのためなら冒険者を辞めてもいい覚悟が俺にはある」


 強い意志が視線と声から伝わって来る。強がりではなく、心の底から言っている。


「お前は一応知人だ。お前が危なくなったら嫌でも気が散る。そのせいで失敗する可能性があるのなら、俺は絶対のお前を連れて行かない」


 断固たる覚悟が、ソランさんにはあった。


「お前の相方も連れて帰る。だから待ってろ」


 ソランさんは手を放し、そのまま振り返って会議室を出る。「ついて来るな」という言葉を、背中で言っているように思えた。その迫力に圧倒されてしまい、何も言えずに見送ってしまった。一人だけ会議室に残された僕は、ただその場に立ち尽くしていた。


 どうすればいい? ウィストを助けに行きたくても鬼人族がどこにいるのかが分からない。救出部隊の人なら知ってるかもしれないが、ソランさんがいたら教えてくれそうにない。仮に分かったとしても、一人でシロギダンジョンを進まなければならない。それはとても無謀だった。


 現状、打てる手がない。このまま待つしかないのか。ソランさんなら確かに助けられるかもしれない。だけど相棒の危機を放っておけるのか。

 だめだ、そんなの耐えられない。今、ウィストは酷い目に遭っているかもしれないのだ。このまま何もせずにいられない。けれどどうすれば……。


 頭を抱えていると、会議室の扉をノックする音が聞こえた。いきなりの訪問者に驚き、「誰?」と訊ねる。

 開いた扉の先には、シオリとユウがいた。


「あー、なんだなんだ。なっさけねぇつらしやがって」


 挑発気味な口調のユウに対し、シオリは「話は聞きました」と静かに言う。


「鬼人族の村に行きたいんですね。相方のウィストさんと助けに行きたいんですね」


 確認を取るかのように詰め寄って来る。意表を突かれ、つい「はい」と答えていた。


「けど鬼人族の住処が分かないし、一人ではシロギダンジョンも抜けられないのでどうしたものかと……」

「そうですよね。ヴィックさん一人では余程運が良くない限り辿り着けないでしょう。そういう場所にあの村はあります」


 違和感を覚える口ぶりだった。まるで鬼人族の居場所が分かってるような。


「……あの、もしかして知ってるの? 鬼人族がいるところ」

「はい」


 短くはっきりとシオリが答える。


「知ってます。その場所をヴィックさんに教えましょう」

「本当?!」


 思わず大声を出してしまう。だけどシオリは落ち着いた表情で頷いた。


「ただし条件があります。私とユウが同行します。どのみち道案内が居なければ行けないのでちょうど良いでしょう」

「いいけど……大丈夫なの? モンスターが居るから、ユウはともかくシオリは危ないんじゃ……」

「お二人が守ってくだされば大丈夫です。それにユウだけでは案内はできないので、私が行く必要があります」


 非戦闘員を連れて行くのは不安だが、道案内ができる人は他にいない。それにユウも一緒にいる。彼もそれなりの実力者だから大丈夫かもしれない。


「そういうことなら分かった。けどどうして鬼人族の村の場所を知ってるの?」


 鬼人族の村はシロギダンジョンの奥にある。あの広大な森の中で村を見つけ出すのは困難だ。そう何人も知っているとは思えない。


 するとシオリは、「誰にも言わないでくださいね」と前置きをする。同時にユウが額当てを外した。


「私達が鬼人族の村に居たからです」


 額には二本の角が生えていた。

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