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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第三章 マイルスの冒険者

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9.次へ進む場所は

「酒はいらない。飯をよこせ」


 ユウはそう言って酒を飲まず、運ばれてきた料理に手を付け始めた。みるみると料理が減っていき、一人でほとんど平らげるかのような勢いだった。


「ユウ。少しは周りのことを考えろ」

「欲しかったらさっさと食えばいいんだよ」


 ハルトが忠告するも、ユウは気に留めることなく食べ進める。ハルトの眉間に皺が寄ったとき、隣から「ユウさん」と声を掛ける者が居た。


 長く綺麗な黒髪で、物静かな雰囲気の女性だった。スタイルも良くて綺麗な顔立ちをしている。名前はシオリ・ツキノといって、ユウの保護者らしい。


「真に強い人とは、困ってる人や弱い人に手を差し伸べられる人のことです。弱者を守るのが強者の役割です」

「あ? つえぇ奴が偉いから独り占めすんだろ。なんで他の奴にやらなきゃいけねぇんだ」

「生まれついての強者はいません。誰しもが赤ん坊から始まります。彼らを守るのが親であり強者です。ユウさんも以前は守ってもらっていましたよね。それと同じです」


 シオリは子供に教え諭すようにユウと話す。


「奪うだけではただの略奪者です。お強いユウさんなら、皆さんのことを気遣うことはできますよね」

「あ? 当然だろ」


 ユウは引き寄せていた料理を押し出し、テーブルの中央付近に移動させる。そして満足そうにふんぞり返った。


「さっさと食えよ。オレ様は寛大だからな。食っても良いぞ」

「調子のいいやつだな」


 オリバーさんがくつくつと笑いながら料理を取り分ける。ユウは面倒な性格だと思ったが、思ったよりも素直な性格のようだった。

 対してシオリは、見た目通りの大人びた性格だ。歳は僕とあまり変わらないはずのに、同年代の人よりも落ち着いている。ユウとは正反対だ。


「ユウの保護者らしいけど、冒険者なの?」

「いえ。この街に住んでいますが、冒険者ではありません。けどギルドで働いています」

「職員なんだ」

「はい。普段はギルドの資料室で資料の管理をしています。調べたいことがあればご利用してください」


 穏やかな口調で話す様子は、同じギルド職員でもフィネやリーナさんとは全く違う。きびきびと動く人が多い職員の中でも珍しい部類の人だった。


「ヴィックはどこのダンジョンに行く気なんだ」


 食事をしてそれなりにお腹を満たしたとき、ハルトが話題を振って来た。


「まだ決めてない。明日ウィストと一緒に決める予定だよ」

「街の周辺には七つの中級ダンジョンと下級ダンジョンが一つある。拙者のお勧めはローグ中級ダンジョンだ。手強いモンスターが多いが、素材は高く売れる。腕に自信があるのなら、一度挑戦してみた方が良いだろう」

「お勧めのダンジョンならガッドが良いぞ」


 会話にオリバーさんが入って来た。


「ガッドにはそんなに強いモンスターはいないし、道が広いから逃げやすい。希少な鉱石も取れるから稼ぎやすいぞ」

「ガッドでは強くなれない。鍛えるには強者と戦わなければならない。それを考慮すればローグしかない」

「そのためにはしっかりと準備しなきゃいけないだろ。まずは安全な方法で金を稼いで準備を整えるのが先だろ」

「完全な安全などない。そもそもエルガルドに来た時点でそれなりに準備をしているはずだ。ならば足踏みは不要。熱の冷めぬうちに挑戦すべきだ」

「けどいきなりローグはきびしーぜ。こいつはエルガルドに来たばっかだろ。まずはこっちの生活に慣れるのが先だ。なのに最初っからローグなんかに行ってたら潰れちまうぜ」

「ダンジョンなんか行っても時間の無駄だろ」


 二人の会話にユウが割り込む。


「強くなるなら闘技場一択だろ。近いからすぐに行けるし金も稼げる。なんでそれが分かんねぇんだ」

「戦闘バカは黙ってろ」

「同意だ」

「あぁん?」


 最初は僕に勧めるダンジョンを議論していたが、すぐにヒートアップして言い争い始める。今や僕のことには目もくれない。

 疎外感を紛らわすために、ちょびちょびとお酒を飲んでいるシオリに話しかけた。


「闘技場ってどんなところなんですか?」


 エルガルドに来たときから気になっている場所だった。名前からして戦う場所らしいが。


「挑戦者がモンスターと戦える場所です。逃げ場のない広場でモンスターと戦い、観客はどちらが勝つかを賭けることができます。挑戦者は勝てば報酬金を得られる上に自身の実力を披露できるので、戦闘好きな人やチームに入りたい人がよく参加しています」

「モンスターと戦うためだけじゃなく、アピールの場所でもあるんですね」

「はい。色んなモンスターと戦えますので鍛錬にもなります。ただし負ければ何も貰えず、自身の未熟さを周りに知られます。死の危険もあるのでリスクは大きいです」

「腕に覚えのある人じゃないと危ないですね」


 すでにコンビを組んでいる僕には、メリットはあまり無さそうな場所だ。それにウィストはモンスターと戦うことではなく冒険することを好んでいる。闘技場に行く理由は無い。


「いろいろダンジョンがあるみたいだけど、シオリはどこがお勧めだと思う?」

「人によりますね。お二人の言い分も分かりますが、私はヴィックさんのことを知りませんので、どこが良いのかは分かりません。しっかりと調べてから行くことをお勧めします」

「じゃあ逆に行ってはいけないダンジョンってのはあるかな」

「それも冒険者によります……と言いたいところですが、シロギダンジョンだけは行かない方が良いです」


 アリスさんから聞いたことのあるダンジョンだった。そこはレーゲンダンジョンと同じく、難易度詐欺ダンジョンと呼ばれている場所だ。


「シロギダンジョンはエルガルドの北西にある樹海のことです。空が見えないほどに木々が生えており、果物や食用の植物が豊富な広大なダンジョンです。そのためモンスターにとっては住みやすい環境なので、様々なモンスターが生息しています。また景色がほとんど変わらないため迷いやすい土地でもあります。樹海の中心地である社が最終到達点となっていますが、過去十年間で踏破した者は上級冒険者を含めてたった一人だけです」


 中級ダンジョンなのに、上級冒険者でも踏破した者が一人だけ。その事実は、レーゲンダンジョン以上の難易度であることを示していた。


「そんなに厳しいのに、何で中級なの?」

「生息しているモンスターが中級しかいないからです。上級モンスターが発見されたこともありますが、それは他の地域から迷い込んできた個体ばかりでした」


 中級ダンジョンでも、たまに上級モンスターが生息していることがある。だがその程度では上級ダンジョンとはみなされない。本当にそのダンジョンには中級モンスターしかいないようだ。


「じゃあなんで、そのダンジョンには誰も挑まないの? 聞いたところ、そこまで難しそうには思えないんだけど」

「一つは広大で迷いやすいため、帰還が難しいというところです。様子を見に入り込んだ冒険者が数日後に帰ってきたことはよくあり、中には帰ってこなかったという例があります。例え踏破できても帰還できなければ意味がありませんから。あとはうま味が少ないということです。珍しい植物はありますが、そこまで高価で売れません。高価な素材を持つモンスターもいないので、リスクとリターンが釣り合わないと考えているのも理由の一つです」

「モンスターじゃなくて、ダンジョン自体が問題なんだね」


 今まで武器が通じなかったり、数で追い込まれたり、単純に実力差があったりと、モンスターに苦戦することが多かった。それらに対抗するために力をつけたり、戦術を考えたりすることでダンジョンを攻略してきた。しかし、ダンジョン自体が敵となるのは初めてだった。もし攻略することになったらどう進むべきか……。


「そんなに心配することじゃありません」


 考え込む僕を見て、シオリが言った。


「お金を稼いだり、上級冒険者を目指すのなら、他のダンジョンで事足ります。わざわざ危険なシロギダンジョンに行く必要はありません」


 シオリの言葉はもっともだ。無理に危険なダンジョンに行く必要はない。冒険なら他のダンジョンでもできる。

 しかし、やはり気にはなっていた。果たしてウィストも、同じ考えなのかと。


「あ、いたいた!」


 再び考え込んでいると、フィネの声が聞こえた。入り口にはフィネの姿があり、一緒にウィストもいた。


「フィネ。今日来たんだね」

「うん。さっき着いたばっかりだから、今日はもう会えないかと思ったよー」


 フィネは本来、僕達と一緒にエルガルドに来る予定だった。しかし急用が入ったため予約した馬車に乗れず、後から来ることになってしまった。だからいつ来るのか分からなくなって不安だったのだが、どうやらすぐに用事を終えたようだ。


「ウィストも一緒だったんだ。どこで会ったの?」

「外地だよ。歩いてたら馬車から声を掛けられたんだ。それよりヴィック、聞いたよー」


 ニヤニヤしながらウィストが言う。


「フィネと付き合ってるんだってー。何で言ってくれなかったのー」

「ごめんごめん。言うタイミングが無くて、言いそびれちゃった」

「そういうのは早く言ってよ。お祝いしたかったんだから」


 ウィストは嬉しそうに祝福してくれている。気にせずに言っておくべきだったかな。


「おいヴィック。そこの二人は誰なんだ?」


 言い争いをしていたはずのオリバーさんだったが二人に気づく。同時にユウとハルトも二人に視線を向けた。


「紹介しますよ。こちらがウィストで僕のコンビです。こっちがフィネで、僕の彼女です」

「彼女?」


 ユウが眉を顰める。じっとフィネを睨んでおり、値踏みするかのようだった。


「そうだけど、どうかしたの」


 ユウは立ち上がるとフィネの前に歩み寄り、右手を突き出す。


 そして、フィネの胸に手を当てていた。


「……へ?」


 突然のことに固まるフィネ。対してユウは平然とフィネの胸に触っている。


 そして、一言呟いた。


「あぁ、あるな。たしかに女だ―――ばぎゃ!」


 ナッシュを殴ったときよりも、強い力で右拳を奮っていた。ユウは壁まで吹き飛ぶが、すぐに立ち上がって大声を上げる。


「なにしやがんだごらぁ!!」

「それはこっちのセリフだ!!」


 負けじと大声で張り合った。


「なに僕の彼女の胸を触ってんだ!? 僕だってまだなのに! ぶっ殺すぞ!」

「女に見えねぇから確かめただけだ! 触ったくらいでごちゃごちゃいってんじゃねぇ!」

「見たら分かるだろ! こんなにかわいいんだから女の子に決まってるだろ!」

「おっぱいがねぇから分かんねぇだろ!」

「無いわけないだろ! 小っちゃいだけだ! そんなこともわかないんだったら冒険者なんてやめちまえ!」

「喧嘩売ってんのか!」

「そっちが先に売ったんだ! 買ってやるよ!」


 ユウが一直線に僕に向かってくる。迎撃しようと構えたが、後ろからオリバーさんに羽交い絞めにされて動きを止められた。


「まぁまぁ落ち着けよヴィック」

「店の中だ。喧嘩は止めろ」


 ユウもハルトに止められている。「はなせ!」とじたばたと動いているが、がっしりと押さえつけられているので逃げそうには見えない。


「それにお前がすべきことはユウと喧嘩することじゃなくて、彼女の心配をすることじゃないか」


 はっと気づいてフィネに視線を向ける。フィネは顔を赤くし、眼を涙で滲ませていた。


「とりあえず、頭を冷やすついでに一緒に外に出たらどうだ」

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