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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第三章 マイルスの冒険者

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2.冒険者の街

「いやー、ほんと強くなったねー」


 右隣に座るウィストは声を弾ませる。終始にこやかな表情で、楽しそうに体を揺らす。どう見てもご機嫌だった。


「昔はあんなに苦戦したミノタウロスを簡単にやっつけちゃうなんて、ほんっと強くなったねー」

「簡単じゃないよ。一つ間違えたら危なかったし」

「そんなこと言ってー。全然焦ってなかったじゃん。楽勝だったんでしょ」

「そこまでじゃないけど、まぁ昔に比べたらやりやすかったかもね」


 アリスさんとの修行に加え、アランさんにも稽古をつけてもらった。あの人の盾の使い方は超一流だ。お陰で以前よりもずっと上手く盾を使えるようになった。それに加え、対人戦の練習も行ったので、人型モンスターの相手も上手くなったと思う。ミノタウロスに勝てたのはそのお陰だ。


 ウィストは嬉しそうににやーっと笑みを作る。


「さっすが、私の相棒だね。言ったことを実現させるなんて、なかなかできるもんじゃないよ」

「ウィストも前より強くなったでしょ。一人で二体も倒したんだから。僕にはできないよ」

「今のヴィックならできるよ。あの盾捌き凄かったなー。エルガルドでも通用するよ」

「••••••なんか今日はよく褒めるね。どうしたの?」

「そう? ••••••うん、そうかも」


 ウィストが嬉しそうにはにかんだ。


「約束を守って会いにきてくれたんだもん。テンションちょー上がるよ」


 三年前と同じ、子供のような笑顔。僕が知る彼女の笑顔と一致する。

 相変わらず、ウィストは冒険を楽しんでいる。未知の洞窟や森を探検したり、見た事のないモンスターと戦って、初めての体験に感動する。何も知らない子供が新しいものに触れるのと同じ感覚を、日々感じているのだろう。

 羨ましいと思うと同時に安心する。冒険者の街エルガルドでも、ウィストは自分を貫き通していた。頑張った甲斐があったというものだ。


「けど、ウィズはこっちに来てもよかったの?」


 僕の左隣に座るラトナが話しかける。


「一緒に帰ることになったけど、依頼主はあっちでしょ。離れてても大丈夫?」


 ウィストの依頼主の馬車が襲われたことで、護衛の冒険者達は怪我を負ってしまった。護衛が減ったことで危機感を抱いた依頼主は、僕達が乗っている馬車と一緒にエルガルドに帰ることとなった。僕達の馬車にも冒険者がいるので、少しでも人手を増やそうと考えたのだろう。だが依頼はまだ継続中なので、ウィストは本来、依頼主の馬車にいるべきなのだが••••••。


「うん、すぐ近くだし。それにこっちにいた方が二人と連携しやすいでしょ。そう言ったら良いって」

「じゃあ安心だねー。久しぶりにウィズと会えたからさ、一緒に話したかったんだー」

「私も。マイルスのみんなのこととか、いろんなこと聞きたいなー」

「そっかそっか。じゃあヴィッキーもあのことも言わないといけないねー」


 ラトナが僕に目配せをする。何のことを示しているのかは推測できた。じきにフィネも来るので、先に言っても問題ないだろう。


「あのことってなぁに?」


 ウィストは興味津々のようで、密着して顔を覗き込んでくる。右半身にウィストの体が当たってしまい、鼓動が早くなる。以前よりも体のいろんな部分が成長しているせいで目の毒だった。


「まぁそれは••••••ベルク達にも伝えないといけないから••••••ねぇ」


 ラトナに話しかけつつ視線を背ける。自然な動作だったので怪しまれなかっただろう。

 そんな思惑を察したのか、ラトナが悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「そだねー。こういうことはさ••••••」


 ラトナが僕との距離をグイッと詰める。起伏の大きい体が僕の左半身に密着する。


「ミラらん達にも言わないといけないからね。みんながいるときに発表しても良いかもねー」


 二年以上一緒にアリスさんの下で修行していたので、ラトナの体に目が奪われることはなくなっていた。だがこうして接触する分には話が別だ。未だに耐性はできていない。心臓の鼓動がさっきよりも早く動いていた。


「なにー、もったいぶっちゃってさー。教えてよー」

「まぁまぁ。あとのお楽しみってことで」


 さらに二人が体を強く押しつけてくる。ラトナはわかっていてやっているが、ウィストは無意識だ。拒めば微妙な空気になってしまいそうでなかなか言えなかった。


 しかし、


「そう言われると聞きたくなるよー。教えてよー」

「どうしよっかなー。ねぇヴィッキー、どうしよっか」

「教えてよヴィックー。相棒でしょー」


 鼓動がさらに早まり、顔も熱くなる。これ以上この状態が続くと心臓に悪い。どうにかなってしまいそうだ。


 ••••••仕方がない。ここは心を鬼にして言わなければ。今後のためにも。


「ちょっと―――」

「お客さん、見えてきましたよ」


 御者が乗客に向かって声を掛ける。その拍子にウィストが体を離し、続いてラトナもスッと離れる。そのとき、ラトナがクスッと笑っているのを見逃さなかった。あとで何か仕返ししてやろう。


 乗客の何人かが馬車の前を見る。それに倣って僕も前方を眺めた。


「あれが冒険者の街、エルガルドだよ」




 エルガルドは大陸の内陸部にある都市だ。人口の半分近くが冒険者に占められており、それ以外の住民も冒険者を相手に商売をしている者がほとんどである。

 そんな街になった経緯は立地のせいだ。周囲にはダンジョンが八つもあり、それ以外の地域にもモンスターが生息する。今回のミノタウロスの襲撃と同じように、他の街に続く道ではよくモンスターが出没していた。


 危険な地域にある街だが、防衛施設は中途半端である。エルガルドは二つの外壁に囲まれている。一つは高くて強固な石の壁、もう一つは石壁よりも外にできた木の柵だ。石壁の中にある街を内地、石壁と柵の間にある街を外地と呼ばれている。

 このように壁が二つあるのは、冒険者達が集まったことで人口が大幅に増加したためだ。内地の既存の施設だけでは冒険者達の居住地を確保することができなかったので、石壁の外に新たな居住区を作ることになった。しかし新たに石壁を建てようとしてもモンスターに襲撃されて建設が進まない。何度も邪魔されたことで諦めてしまい、木の柵で代用することになったとのことだ。


「だから住むなら内地の方がいいよ」


 外地で馬車から降りた僕らは、内地まで続く道を進んでいた。内地までの道は広く、舗装されているので歩きやすい。道沿いには冒険者向けの屋台が多くあり、冒険者達が立ち寄っている。外地でも道具の補充はできるようだ。


「外地でも大丈夫じゃない? お店とかたくさんありそうだし、こっちの方が安いんでしょ。食べ物とか宿泊代とか」

「たしかに外地はいろいろと安いよ。けど内地の方が安全だし、エルガルドに来てすぐの冒険者は安く住めるから」


 エルガルドには冒険者ギルドの本部がある。ギルドの支援により、冒険者は五年間だけギルドが運営する内地の寮に住むことができる。そこは他の冒険者との協同部屋だが家賃は無料だということだ。


「他の部屋も冒険者なら割引がきくから。ベルク達も内地だし、腕の良い職人も多いし、絶対内地が良いよ」

「だったら内地で良いかもねー。ギルドもそっちにあるんなら生活しやすいしねー」

「••••••じゃあそうしよっか」


 しばらく進むと、内地に続く門に着いた。門の近くには警備員はおらず、何事もなく内地へと入った。

 内地に入って気づいたのは、外地よりも圧倒的に人が多いということだ。道いっぱいが人で埋め尽くされていて、真っ直ぐ歩くことが難しい。気をつけないと通行人にぶつかりそうだった。

 そして彼らのほとんどが冒険者だということにも驚いた。冒険者が多いということは知っていたが、道往く人々のほぼ全てがそ冒険者だとは予想外だった。一般人は道沿いの商店の中と、その近くにいる従業員しかいなさそうだ。


「わー、冒険者がいっぱいだねー」


 ラトナも僕と同じように驚いていた。人混みで離れないようにと、僕の袖を掴んでいる。


「慣れたら普通だよ。はぐれないようにしないとね」


 ウィストが僕の左手を握って引っ張って行く。咄嗟のことにまた驚いたが、ウィストは平然としていた。平静を装いつつ、そのまま導かれて付いて行った。


 付いて行った先には大きな建物があった。見慣れた冒険者ギルドの看板がかけられており、そこが冒険者ギルドの本部だと知るのは容易だった。

 ギルドの中に入ると、案の定多くの冒険者達がいる。だが中の設備はマイルスのギルドと同じで、人の多さ意外に違いはなかった。


 受付には多くの冒険者が並んでいた。僕達と同じように他所の街から来た冒険者達だ。彼らの最後尾に並んで長く待つことを覚悟したが、予想外に早く列が進み、あっという間に僕の番になった。


「エルガルド冒険者ギルドへようこそ。冒険者の登録ですか?」

「はい。他の街から来たので、登録変更しに来ました」

「畏まりました。どの街からでしょうか?」

「マイルスです」


 ざわりと、周りの空気が変わった気がした。職員は平然としているが、周囲の冒険者の視線が集まっているのを感じる。

 その眼はハイエナと呼ばれていた時と、同じ種のものだった。

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