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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第三章 マイルスの冒険者

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1.再会

 エルガルドは冒険者の街と呼ばれている。大陸の中央付近にある街で、周囲には八つのダンジョンがあり、その内の七つが中級ダンジョンだ。上級冒険者になるには試験があり、その試験に挑戦するには五つのダンジョンを踏破する必要がある。つまりエルガルドに居れば、他の街を行き来せずに条件を達成できるというわけだ。だから多くの冒険者や、彼らを相手にする商人達が集まってくる。そうした経緯から、冒険者の街と呼ばれるようになった。

 故に人の往来が激しい。その恩恵を受けようと考える御者は多く、いろんな町からエルガルドを行き来する便がある。僕達はそのうちの一つを利用していた。


 馬車には商人や他の冒険者が乗っている。間もなくしてエルガルドに着くので、そわそわしていたり、積み荷の確認をしている。隣に座るラトナも同様だ。もうじきベルク達と再会できるのが嬉しいようで、時折小さな鼻歌が聞こえていた。


「あとどれくらいかな」

「昼には着くっていってたから、もう少しだよ」

「そっか。楽しみだね」


 ラトナと同じ気持ちだった。やっとウィストと再会できることが楽しみで、昨日はあまり眠れなかった。そのせいで朝方はウトウトしていたが、時が経つにつれて楽しみが勝り、眠気から覚めていた。


 ウィストの隣に並ぶために、二年間鍛え続けた。アリスさんをはじめ、アルバさんやアランさんからも指導を受けた。お陰で人型モンスターの相手は得意になっていた。他にもいろんな人達から助言を得たり、一緒に依頼を受けて共闘したこともあった。

 昔に比べたら大分成長しただろう。前みたいに足を引っ張ることも無くなると思う。


 問題は、ウィストとの差をどれほど縮められたのかということだ。


 アリスさんの下で修行することになった理由の一つは、ウィストとの実力差を埋めるためだ。ウィストも冒険を重ねることで力をつけているはずだ。もしかしたら以前よりも差が広がっている可能性もある。そうなっていたらどんな顔をして「チームを組んでください」なんて言えようか。

 いや、そもそもすでに僕よりも有能な人と組んでいるかもしれない。むしろそっちの可能性の方が高い。強くなって戻ってきてくれるか分からない奴より、既に強い奴と組む方が利口で効率的だ。ウィストなら選り取り見取りだし、彼女と組みたがる人も多いはずだ。エルガルドには多くの冒険者が集まる。ウィストと対等に張り合える冒険者もいるだろう。その人を選ばないという保証がどこにあるだろうか。


 考えれば考えるほど、嫌な考えが頭に浮かぶ。さっきまでの高揚感が途端に反転して憂鬱になっていた。ちょっと帰りたくなってきたな……。


「ヴィッキー、大丈夫?」


 ラトナが心配げな顔で僕を見る。考えていたことが顔に出ていたのかと思ったが、外から聞こえる音で勘違いだと気づく。

 遠くで戦闘音が聞こえる。誰かが戦っているようだ。僕はすぐに装備を身に着ける。


「おいおいお二人さん。まだエルガルドには着いてないぜ。気が早いな」

「近くに敵がいます。こっちに気づいて襲ってくるかもしれません」


 話しかけてきた冒険者は不思議そうな顔をする。彼を放っておいて、僕は御者に声を掛ける。


「この先にモンスターが居ます。馬車を止めてください」

「モンスター? どこにもいなさそうですが」


 視界にはまだモンスターの姿は見えない。だが聞こえてくる音はモンスターと、それと戦う冒険者達のものだ。それほど遠くにはいない。


「この林を抜けた先に居ます。ここにいたら見つかりませんが、こっちに逃げてきた人を追っかけてくるかもしれません。確認しますので、ここで待っててください」

「心配性ですね。大丈夫ですよ。この辺の冒険者達は皆腕利きですから、きっと彼らが倒して―――」

「誰かあああああ!」


 突如、前方から男の声が聞こえた。男は冒険者の格好をしていたが、武器を持っておらず必死に走っている。

 そしてその後ろから、三メートルを優に超えるミノタウロスが追っかけてきていた。


「ラトナ!」

「ほいっ!」


 軽い銃声が響く。ラトナが発射した銃弾はミノタウロスの顔面に当たる。衝突した銃弾は破裂し、顔の周りに黒色の煙を撒き散らした。


 ミノタウロスは最初は驚いて硬直していたが、すぐに持っていた武器を落とし、くしゃみをしながら煙を払おうとする。その隙に、僕はミノタウロスに接近して腹部に剣を突き刺した。

 煙を払うのに必死だったミノタウロスは反応が遅れる。反撃してくるが、それよりも前に後ろに回って背中に火杭を打ち込む。一瞬の間の後、爆発音が響いてミノタウロスの背中に穴が空いた。ミノタウロスは悲鳴すら上げられず、その場に倒れこんだ。


 ついてきたモンスターはこの一体だけだった。すぐに逃げてきた人を探すと、その人は馬車の近くでへたり込んでいた。


「大丈夫ですか? 怪我はありますか?」

「あ、あぁ……なんとか……」


 男は格好こそ土や汗で汚れていたが、見た目からしても大きな怪我はしていなさそうだ。おそらく不利と見るやすぐに逃げたのだろう。


「何があったのか話せますか?」

「あ、そうだ。俺達が護衛している商隊が襲われてるんだ! ミノタウロスの集団に!」

「まじかよ。このサイズのがまだいるのか……」


 馬車から出てきた冒険者が呟く。集団で襲ってくるモンスターは、連携ができる上に頭が良い。さらにミノタウロスは筋力があって体が大きい。一筋縄ではいかない相手だ。


「分かりました。ラトナ、行ける?」

「オッケー。もう準備できてるよ」

「おい、何しに行くんだ?!」


 時間が無い。冒険者の問いに、僕は素早く答えた。


「助けに行くんですよ。早く行かないと手遅れになります」

「何言ってんだ! ミノタウロスの集団だぞ! 上級冒険者でも手こずる相手だ! お前らじゃ無理だ!」


 男の意見はとても冷静なものだった。集団のミノタウロス相手に、二人の中級冒険者の援軍を送っても焼け石に水だ。逃げるのが賢く正しい選択だ。


 だけど、


「大丈夫です。倒したことありますから」


 乗り越えられる自信があった。


 ラトナと一緒に林を抜けると、少し離れた場所で冒険者達が戦っていた。地面には二体のミノタウロスが倒れていて、それらの個体よりも一回り大きい一体が残っている。冒険者達はそいつに立ちはだかっているが、息を切らして立っているのもやっとのようだった。


 ミノタウロスが武器を振り下ろそうとする。狙われた冒険者はもう体力が無いのか動作が鈍い。避け切れないのが明らかだった。

 僕はすぐに間に入る。攻撃の軌道を見て盾を構える。力の流れは大きいが素直だ。盾で受けると表面で滑らし、勢いを外に流す。腕にきた衝撃は小さかった。


「もう大丈夫ですよ」


 冒険者に一言声をかけると、安心したのか冒険者はその場に座り込んだ。


「あとは任せてください」


 同時にミノタウロスが再び斧を振り下ろす。さっきよりも動きが速い。だが違いはそれだけだ。受け流すのは難しく無い。

 ミノタウロスの攻撃を再び盾で受け流すと、接近して腹部に剣を突き刺す。ミノタウロスは苦しげな声を上げるが、すぐに斧で反撃してくる。それなりに深傷を負わせたが、簡単には倒れてくれないようだ。


 再び攻め手を考えていると、ふと誰かの視線を感じた。ミノタウロスの後方、そこには一人の冒険者がいた。

 目が合うと、彼女は一直線にミノタウロスに向かった。気づかれないよう、僕はミノタウロスの前で居続ける。あの一撃はやはり効いていたようで、ミノタウロスは僕しか見ていないようだった。


 彼女はミノタウロスに接近すると、背中を何度も斬りつける。突然の攻撃に耐え切れず、ミノタウロスは前のめりに倒れそうになる。その隙に今度は頭部に剣を突き刺した。

 ミノタウロスが小さな悲鳴を上げて地面に倒れ込む。流石に絶命したようだ。動く気配は全く無い。


 僕は彼女に振り向き、声を掛けた。


「久しぶりだね。ウィスト」


 細身の身体、少女のような可愛らしい表情、夕陽と同じ髪色。あの時とほとんど変わらない姿の彼女がいた。


「うん、久しぶり。なんか男前になってるね」


 二年ぶりの声に懐かしさを感じた。安心感が満ちてきて、さっきまでの不安がどこかにいなくなってしまった。

 だから僕は、躊躇なく言うことができた。


「ありがと。で、早速なんだけどいいかな?」

「なに?」


 ウィストが悪戯っぽい顔で聞き返す。かまわず、僕は言いたいことを言う。


「僕とパートナーになってくれない?」


 ウィスとは笑顔で答えた。


「もちろん。こちらこそよろしくね」


 これが、僕達の冒険の始まりだった。


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