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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第二章 後進冒険者

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13.必要な人材とは

「なるほど。たしかに僕なら条件を満たしているね」


 僕達は近くの食事屋に移動して事情を話すと、アルバさんはそう言った。


「僕はアリスちゃん達と対等だし、何度か彼女達の手伝いもしている。それなりの発言権も持っている」


 アルバさんは嘘や誇張の無い、自信満々の発言をする。


「それじゃあ……」

「だけど僕がヴィック君を推薦することは無い」


 僅かに高揚した気分が落とされた。


「な、なんでですか?」

「今回の選挙は危険だからだよ。ホーネットはともかく、ルドルフとアランが危険だ。ルドルフは勝つためなら手段を選ばない相手だ。下手に関わったら君だけじゃなく、君の周りの人間も危険に晒される。その覚悟が無ければ戦わない方が良い。そしてアランは大陸最強の傭兵だ。もし彼との戦いに巻き込まれたら、君の場合大怪我をする危険がある。おまけに人望もあるから、彼の味方から敵視されるかもしれない。そんな危険な戦場に君を送りたくないのが理由さ」

「戦場って……」

「勝たなきゃ全てが否定されるのは、選挙も戦場も同じさ」


 一通り説明すると、アルバさんは紅茶を口に含む。


「そこら辺のチンピラに喧嘩で負ける程度の君を推薦するわけにはいかない。君はまだ発展途上なんだ。焦らずに力をつけなさい」

「けど、それじゃあ遅いんです」

「そうかい? ルドルフ達が冒険者ギルドに手を出す頃には、それなりに力をつけてるんじゃないかな」

「いえ。そのときには僕はマイルスにはいません」


 僕の目標は、ウィストと肩を並べる冒険者になることだ。今ウィストはエルガルドに居る。彼女と共に歩むには同じ場所に居る必要があって、そのために僕はアリスさんの下で修行を受けている。

 修行期間は二年。その間に力をつけてエルガルドに行く予定だ。ルドルフ達が冒険者ギルドに手を伸ばすのが、その後になるかもしれない。

 そうなれば、僕は遠くから皆の成功を願うしかなくなるのだ。


「いずれ僕はエルガルドに行きます。そのときまでに奴らの野望を挫かないと安心できません」

「ヒランちゃん達に任せればいいじゃないか。ヴィック君が気にする必要はない」

「そんなことできません」


 たしかに僕が居なくても、冒険者ギルドには心強い人達が残っている。もしかしたら僕の心配が杞憂に終わるかもしれない。


 だけど僕はルドルフの脅威を知った。候補者の家に火をつけるようなまともじゃない奴が相手だ。心配するなと言われても無理だ。

 それにヒランさんの想いを聞いた今、何もしないで任せるなんてことはできない。


「ヒランさんのために力になりたいんです。それに一緒に働いた冒険者や傭兵達のためにも手伝いたいんです。お願いします」


 僕はテーブルに手をついて頭を下げる。皆の力になるにはこれ以外の手段はない。そう思うと頭を下げることに抵抗はなかった。


 そうして頭を下げ続けていると、隣から動く気配を感じた。


「あたしからもお願いです」


 ラトナが僕と同じように頭を下げていた。


「あたしも、世話になった皆に恩返しがしたいの。そのためなら裏方でもいいから力になりたいんです。だからお願いです」


 ラトナから参加の意志を聞いたのは、これが初めてだった。もしかしたらラトナは乗り気じゃないのかと思ったが、口にしないだけで既に心に決めていたのだ。彼女も僕と同じで、ヒランさん達の力になりたいんだ。


 僕とラトナの懇願に折れたのか、アルバさんが「そうかい」と答える。


「君達は自分のためじゃなく、皆のために力になりたいんというんだね。なるほど、良い志だ」

「じゃあ、推薦してくれるんですか?」

「いいとも。ただ―――」


 アルバさんが一つ息を吐く。


「僕が推薦すれば考慮はしてくれるだろう。だがそれでもヒランちゃんとアリスちゃんが了承してくれるという確信はない。あの二人は頑固だからね」


 そうかもしれない。けどそれ以外に方法がないのだ。ダメもとで当たるしかない。


「あの二人は僕を心配して断ってるのですから、その場合は仕方ありません。その時はまた別の手段を考えます」

「そんな方法があるのかい?」

「……今はまだ……」

「だろうね。なら……」


 アルバさんは得意げな笑みをつくる。


「君の強さを認めさせればいい」




「彼らの参加を認めてくれないか」


 アルバさんが婚約者を家まで送り届けた後、僕達は冒険者ギルドに行った。冒険者ギルドにはアリスさんとヒランさんが居て、それを確認したアルバさんがすぐに推薦してくれた。


 アルバさんの提案なら無下にされないはず。そんな期待を抱いて二人の答えを待ったが……、


「ダメだ。参加は認めねぇ」


 アリスさんの言葉に、ヒランさんも同意する。


「アリスと同じです。わたくしも認めません」

「なぜだい? 戦力は多い方が良いはずだ。二人の参加を拒む理由が分からない」

「あ? お前なら分かんだろ」


 呆れたようにアリスさんが言う。


「そいつらは弱い。モンスター相手ならそれなりに戦えるが、対人戦は勝手が違う。そっちに関してはそこらのチンピラとたいして変わんねぇほどの実力だ。その程度の実力、足手纏いになるだけなんだよ」


 ほぼ予想通りの答えだった。結局はそれが原因だ。僕には圧倒的に実力が足りない。それが拒まれる理由だった。

 どれだけやる気があっても、力が無ければ手伝うどころか足を引っ張るだけ。迷惑をかけながら戦ってしまうのは心苦しい。思いが逸って意志を表明したが、やはりだめなのか。


 気持ちが折れそうになったそのときだった。


「理解できないね」


 アルバさんが呆れたように答えた。


「君達に必要なのは、彼らのような勇敢な戦士達だ。それが分からないのかな? それとも、それすら分からないほどに目が腐ってしまったのかな」

「……あぁん?」


 アリスさんが険しい顔を見せる。僕とラトナは怖気づいてしまったが、アルバさんは微塵も動揺する様子が無い。むしろ、どこか楽しそうにしていた。


「昔の君なら味方に足手纏いがいても関係なしに戦う度胸があった。だが今の君は牙が抜かれたモンスターのように弱腰だ。これじゃあ王子様を夢見るか弱い少女みたいだよ、アリスちゃん」

「喧嘩売ってるのか、アルバ」

「ほら、昔ならそんなこと言わずに手を出していた。やはり弱くなったようだ。これじゃあルドルフに負けてもおかしくない」

「てめぇ……」


 アリスさんがアルバさんに手を伸ばす。それを寸でのところでヒランさんが止めた。


「アルバさん。あなたは何がしたいのですか」

「君達を手伝いに来たんだよ」


 そう言って、アルバさんは僕とラトナの背を押して前に出す。


「現状ヴィック君達のように、弱くても手伝いたい人達はたくさんいる。しかし相手の脅威に怖気づいて、なかなか君達の応援に回れない状況だ。それを変えるためにヴィック君達の参戦が必要だ。弱者が強者に抗おうとする姿は人々の心を動かす。そうなれば支援する人達が増えるはずだ。この二人はそれができる役者になれる」

「ビビって逃げる奴らに何ができるっていうんだ。どうせまた逃げるだろ」

「逃げない。彼ら以上に弱い者達が頑張ってるんだ。どんな形でも力になろうとするはずだ。その勢いは決して消えない」

「理想論です。そんなことはありえません」

「ありえる。この街にはどんな冒険者が居たのか忘れたのかい」

「……」

「モンスターの大群を相手に死ぬまで抗い続けたダイチ・シンドウ。奴らを退けたソラン・クーロン。彼らは絶望の中にあった光だった。彼らを知る者なら、ヴィック君達の戦う姿を見れば奮起するだろう。助けたい、応援したいってね」

「そんなお気楽な奴ばかりじゃない。むしろ弱すぎて不安になるかもしれねぇだろ」

「結局はそこなんだね。そこだけが不安で、それさえ解決できればいいと」

「最初から言ってんだろ。弱いからダメだってよ」

「じゃあそれさえ問題無ければ良いんだね」


 アルバさんがニッと笑う。ヒランさんが何かに気づいた素振りを見せたが、アリスさんはそれに気づかずに答えた。


「あぁ。そいつらが強かったら問題ねぇよ」

「じゃあ勝負しよう」


 間髪入れず、アルバさんが提案した。アリスさんは「あ?」と眉間に皺を寄せる。


「君達と僕達の二対二の模擬戦だ」


 続けてアルバさんが付け加えた。「まさか逃げないよね」と。


 アリスさんの答えは、その場にいた全冒険者達の予想を裏切らないものであった。


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