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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第二章 後進冒険者

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11.同じ火種

更新再開です。

「大丈夫かなー……」


 ギルドを出た後、ラトナがぽつりと呟いた。今日は冒険に出かける気にもなれず、家に帰ることにした。

 昼前なだけあって、通りは多くの人で賑わっていて、皆それぞれ忙しそうだった。


「どうだろうね……」


 僕も不安を抱き、曖昧な事しか言えなかった。

 会議はあの後すぐに終わった。オットーさんは選挙に出ることで家族が危険に晒されると知って辞退したのだ。その意志は固く、皆が説得を試みても揺るがなかった。


 ネルックさんは渋々辞退を認めた後、他の候補者探しと投票者への根回しに行った。このままだと候補者がホーネットだけになり、信任投票で局長に決まってしまうからだ。

 他の出席者も各々の役割を果たすべく動き出した。ただ僕とラトナは何の役割も与えられなかった。「いつも通りにしろ」とアリスさんに言われただけだ。


 危機的状況だというのに、何もできないもどかしさがある。だからといって何をすべきか良いのかも分からない。真っ暗な道を歩いている気分だった。

 このままどうなるのか? 冒険者ギルドは前回の選挙から良い方向に進んでいた。それが今回の選挙でまた変わるのか。せっかく自警団の信用が増し、学校も作ったというのに……。


 学校と言えば、


「クラノさんってどこだろ?」


 昨日、クラノさんは僕達のためにルドルフの手先と戦ってくれた。怪我は無かったと聞いたが、あの時のお礼を言えてない。

 そのことをラトナに伝えると、「学校じゃない?」と答えた。


「講師してるんだし、講義とか準備とかでいるかもしんないよ」


 ということで、冒険者学校に行くことにした。ラトナもお礼を言いたいということで同行した。


 学校の場所は、以前警備中に見つけていた。冒険者ギルドから南に歩いて五分の場所。そこには小さな運動場と二階建ての建物がある。それらは低い壁に囲まれていて、道側に出入り用の門が作られていた。

 学校を見つけると、門の前で何やら様子のおかしい集団を見つけた。よく見ると、大の男三人が見覚えのある子供達の前に絡んでいる。ネロとシンだ。ネロは男達に対して怒鳴っている様子で、弟のシンは俯いていた。


「ネロ、シン。どうしたの?」


 ネロが振り向いて僕に気付くと、シンの手を引っ張って近寄って来て、僕の背後に回った。


「ヴィッキー、ちょっと助けてよ。こいつらしつこいの」


 急な展開に「え」と困惑の声が漏れた。どういう状況なんだ?


「クラノとかいう野蛮人の代わりにそいつに頼るのか」


 男達のうちの二人は知らない顔だが、やけにがたいが良くて傭兵に思える。残りの一人は体が細く、高級そうな服を着ていて身なりが違う。しかも見たことのある顔だった。


「そんな底辺そうな冒険者に頼るとは、貧乏人はやはり不幸な人種だな」


 ミラさんと一緒に入った店で会ったオスカー・マーシェンだ。

 相変わらず、差別的な思考を隠すこともしていない。口ぶりから、オスカーも僕のことを覚えていそうだ。

 前に会った時は、オスカーは冒険者を嫌っているようだった。なのに冒険者学校に来て、そこの生徒に絡んでいる。


「あの……彼女達に何の用ですか?」

「お前は関係ない。さっさと去れ」


 答える気のないオスカーに代わり、後ろのネロが答える。


「こいつら、私達に学校を辞めろって言ってくるのよ。辞めないと酷い目に遭わせるぞって」

「なんだって?」


 僕はオスカーを睨むが、オスカーは平然としていた。


「貧乏人共がこの学校に通っていると邪魔なんだよ」

「邪魔って……あなたには関係ないことでしょ」

「無かったらこんなところに来るわけないだろ。バカが。この施設は邪魔になるから、さっさと潰れてくれないと困るんだ」

「……ルドルフ達と同じ考えですね」

「当たり前だ。私は彼らの支援者だ。そんなことも知らないのか?」


 知らなかった。ネルックさん達も言っていなかったことだ。こいつがルドルフを後押ししていたのか……。


「彼女達の未来を潰そうとするなんて何考えてるんですか? 将来街にもたらす物を考えたら、残すのと潰すのどっちが得か分かるでしょ」

「貧乏人がもたらす物なんて、無意味なものか厄介事くらいだ。それにそいつらが冒険者になっても、早々モンスターに食われて奴らが力をつけるだけだ。そうと考えたら私の言ってることの方が得だと分かるだろ」

「そうならないための学校です。ここで彼らに知識と力をつけさせて、優秀な冒険者になってもらうんです」

「無理だな。教えても無意味だという前例がある」


 オスカーが自信に溢れた表情を作る。その視線はネロとシンに向いていた。


「どんなに親切丁寧に教えても、貧乏人は目先の利益に飛びつく。しかも冒険者ギルドの規則だけでなく、法を破ったうえでの死亡。まさに自業自得と言って良い事例が起こったことを知らないのか?」

「……」

「それにダンジョン管理人のヒランが関わっていたことも知らないようだな」


 馬鹿にしたような顔で、オスカーは二人を見下ろす。だがネロは負けじと睨み返す。


「だからなによ。昔に何があったとか関係ないわ。あの人は今こうして私達が勉強する場所を用意してくれてるのよ。感謝はしても、嫌うことなんてないわ」

「分かってないなぁ。さすが貧乏人だ。どんなに環境が良くても、師が優れていても、君達が馬鹿だと意味がないと言ってるんだ。それが理解できないとは、やはりこの学校は無駄なようだ」


 オスカーが一つ溜め息を吐く。


「特にお前らは救いようがない。他の生徒はまだ物分かりが良かった」

「……どういうことだ?」

「お前もバカのようだな。彼らは学校を辞めたという意味だよ。聞かなくても分かるだろ?」


 ネロ達と一緒に他の生徒がいないと思ったら、彼らはもう辞めていたからか。昨日の襲撃と、こいつらのせいか。

 力のない子供にも手を出すなんて、どこまでやる気なんだ。


「しかもこいつらはあのケイと血が繋がっている。将来どんな冒険者になるか分かり切ってるじゃないか。こいつらに金をつぎ込むのなんて無駄なんだよ」

「あんたがお兄ちゃんの何を知ってるって言うの?!」


 ネロの怒鳴り声にもオスカーは動じず、鼻で笑った。


「なんだ? 話の展開から分からなかったのか? これだから貧乏人は……」


 オスカーの口ぶりに嫌な予感を察した。ヒランさんの事、昔の事例、血の繋がり……まさか。


「ならば教えてやろう。お前らの兄は―――」

「何をしているのですか」


 背後から凛とした声が聞こえた。この街の冒険者なら誰もが知っている声。

 ヒランさんが、僕達の背後まで来ていた。


「ここは神聖な学び舎です。生徒達の邪魔をするなら、早々に立ち去ってください」


 険しい顔つきを見せるヒランさん。対してオスカーは相変わらず強気な表情だった。


「ふん。そんな権利は貴様にはない。むしろ立ち去るのは貴様の方だ。おい」


 オスカーの合図で、傍にいた二人の男が前に出る。


「こいつらは傭兵だ。邪魔をされないために雇ってる。ほら、あいつを追い返せ」


 二人の傭兵がヒランさんに詰め寄る。近づくと体格差がよりはっきりした。男達はヒランさんよりも一回り以上も大きかった。

 あの体格差で殴られたらどうなることか。そう思って助太刀しに近づこうとしたが、その必要は無くなった。


 ヒランさんが、自分よりも大きな相手を投げ飛ばしていたからだ。


 男の手を掴み、体を反転させながら巻き込み、男の体が高く宙に浮く。重力を感じさせないほどの動きに目を奪われていると、男が地面にたたきつけられた音で思考が戻る。あまりにも衝撃的な光景だった。

 カイトさんと同じような、綺麗な格闘術だ。ヒランさんも使えたんだ。


 目の前の光景に感動していると、ヒランさんがもう一人の男に向き直る。また投げ飛ばすのかと思ったが、男は両手を軽く上げているのを見て動きを止めた。


「参った。やっぱあんたには勝てそうにない。降参するから見逃してくれ」


 諦めた風な言葉に、ヒランさんは構えを解いた。


「良いでしょう。では早く立ち去ってください」

「そうしましょう。ほら、立てるか?」

「あ、あぁ……」


 投げられた男が体をさすりながら立ち上がる。あの大音だ。かなりのダメージを受けただろう。

 二人はすっかり戦意喪失気味でお終いムードだ。だが、雇い主であるオスカーは別だった。


「お前ら何をしている?! 一度投げられただけだろ! なに終わらせてんだ!」


 オスカーは納得いかずに憤怒している。まぁたしかに、この時のために雇った傭兵達が早々と降参したら、そう感じるのも無理はないかもしれない。


「無茶言わないでくださいよ。あのヒランが相手だ。武器を持ってないとはいえ、あいつに勝つには人手が十人は必要だ。この辺で勘弁してくださいよ」

「ふざけるな! 何のために雇ったと思ってるんだ! こういう時のためだろ!」

「オスカーさんの安全を守るためですよ。それくらいなら俺らでも問題ありません。それ以外の成果は保証しませんけどね」

「傭兵なら雇い主のために戦え! さっさとあいつを倒せ!」

「無理ですよ。それにもし戦ったら、俺達二人は動けなくなって、あんたは一人っきりになっちまいますよ。それでもいいなら行きますがね」

「くっ……」


 オスカーは悔しそうな顔を見せると、ヒランを一度睨んでから学校前から離れていく。傭兵達もすぐについて行った。


 ひとまず問題は去った。タイミングよくヒランさんが来てくれたお陰だ。


「助かりました、ヒランさん。けど、どうしてここに?」

「学校に用事がありましたので。ヴィックさん達はどういった要件でしょうか?」

「クラノさんに会いに来たんです。昨日助けてもらったことでお礼を言いたかったので」

「そうでしたか」


 簡単に言葉を交わしてから、ヒランさんは学校に入ろうとする。その直前に、「待って」とネロがヒランさんを呼び止めた。


「さっき、あいつが言っていたことなんだけど……」


 ヒランさんの表情に変化はない。だがそれは無表情を装っているように見えた。動じていないと思わせるように。

 オスカーの話を推測するに、ケイさんはあることに手を出していた。それが真実なら、家族としては決して見過ごせないことだ。


「……ああいう輩の言葉をいちいち気にしていたら体がもちません。忘れてしまうのが一番です」

「大事な家族の事と聞いて無視できません。それならヒランさんから聞きたいんです。お兄ちゃんが慕っていたヒランさんから」


 無表情を装っていたヒランさんが、小さく息を吐いた。どこか悲し気な表情だった。


「ケイは良い冒険者でした」


 ヒランさんは小さな声で話し出した。


「家族思いで、素直で、優しくて、気遣いが出来る良い子でした。才能の有無はともかく、努力家だったので将来はそれなりに稼げる冒険者になれると見込んでいました。いつか師になったことを誇れると思えるような少年でした」


 昔を懐かしむような声だった。僕達はその声を静かに聞いた。


「しかし、時期が悪かったんです」


 だが、声に冷たさが戻った。


「依頼は少なく、碌に稼げない環境でした。わたくしの師が死んだことで、残っていた冒険者は貧窮していました。特に若く経験の浅い冒険者は、その日の食事すらできないほどでした。だから彼らの中に道を踏み外す者がいても、わたくしは責められませんでした」

「……その人達は、何をしたんですか?」


 ネロの質問を、ヒランさんが聞き返すように答えた。


「ゴクラク草をご存知ですか?」

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