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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第二章 後進冒険者

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2.昔との変化

「少しはこの家に慣れたかい?」


 朝食時、カイトさんに尋ねられた。今日の朝食当番はカイトさんで、白米、味噌汁、焼き魚といった和食がテーブルに並べられていた。

 僕は口に入れていた味噌汁を飲み込んだ。


「うん。大分ね」

「それはいい。いつまでもお客様でいたら気が休まらないでしょ」

「そうだね。けど色々と良くしてもらってるから、すごく有り難いよ」


 退院してから一ヶ月、僕はベルク達の家に住んでいた。退院直後から入居し、空いている部屋を使わせてもらっている。一人部屋は初めてだったので最初はどう過ごせばいいのか分からなかったが、今ではゆったりと寛げている。

 みんなとの共同生活もそうだ。ベルクとミラさんはムガルダンジョンの踏破後に隣町へ移ったため、今は僕とラトナとカイトさんの三人暮らした。ベルクとミラさんがいたときは賑やかだった食卓が、二人がいないと静かになっていた。だけど気まずいというわけではなく落ち着いた雰囲気で、心安らぐ時間であった。


「有り難いのは俺達もだ。ヴィックが居なければ、ここの家賃を二人で払わないといけなくなる。四人なら楽だけど、二人だとちょっと負担が大きいから」

「ミラらんのお陰で安くなってんだけどさー、家に住むのにこんなにかかるなんて知らなかったよー」


 そういえば、二人は良いところの家庭で生まれたんだった。お金の心配とかしたことが無さそうだ。


「そう言われると遠慮する必要が無くなるね。もっと気楽に過ごさせてもらうよ」

「あぁ。ついでに家事も頑張ってくれ。明日の朝食は任せたよ」

「もちろん」


 朝食を終えると、カイトさんは私服で家を出て行った。ベルクとミラさんが居ない今、一人でダンジョンに行かずアルバイトで稼いでいる。

 僕とラトナは支度を済ませ、冒険者ギルドへと向かう。仕事場に向かう人々の流れに乗り、ラトナと話をしながら歩いていた。


「今日は依頼とダンジョン探索、どっちにする?」

「探索だけど、ついでにこなせる依頼があったら受けよう。目標があったら、こいつを早く使いこなせるかもしれないし」


 左腕につけた盾をラトナに見せる。先日のドグラフ討伐作戦後、その報酬で改良した品だ。正面から見たら普通の盾だが、裏側にある細工を拵えていた。


「まだ慣れない感じ?」

「うん。使い方は覚えたんだけどね……」


 腕に沿うように装着した鉄筒『杭撃砲』。手の方には僕の腕よりも一回り小さい穴が空いていて、真ん中から逆側にかけては発射装置がついている。側面には装置を作動するトリガーがあり、筒に入れたものを発射できるようになっている。

 筒に入れるのは、主に『火杭』と呼ばれる爆発性のある杭だ。発射装置で杭を発射して敵の体に刺し、その後に爆発して体の内部と外部にダメージを与える。当たればどんなに装甲の硬い敵でも仕留めることが可能となる。

 ただし、当てられればの話だ。


「発射までのタイムラグと、射程距離がとても短いから、かなり接近しないと当たりそうにないんだよね。かと言って近づきすぎたら相手の攻撃を喰らっちゃうし……」

「ヴィッキーも苦戦中かー。あたしもそんな感じだねー」


 ラトナが新調した武器を取り出した。銃口が大きくて銃身が短いピストルで、信号銃に似ている『短錬銃』。射程距離が短く、威力も小さい。いろんな銃弾が使えるという利点があるが、それを活かしきれていないようだった。


「ししょーもさ、何で薦めたのか教えて欲しいよねー」


 僕とラトナの武器はどちらもアリスさんが薦めてくれたものだ。だが使い方を教えてくれず、それどころかすぐに実践に放り込まれてしまった。向かった先が幸いにもレーゲンダンジョンではなくマイルスダンジョンだったが、使い勝手が分からない武器のためピンチに陥って死にそうになった。今になってやっと慣れてきたが、未だにこの武器を有効活用できていなかった。


 適当にだべりながら歩いていると冒険者ギルドに着いた。ギルドに入るといつものフィネの元気な挨拶が聞こえた。


「おはようございます!」

「おはよう、フィネ」

「おっはよー」


 挨拶を交わした後に掲示板に向かう。マイルスダンジョン用の依頼はいくつかあって、ちょうど良さそうなものを見つけた。マイルスダンジョンに生えている薬草の採集依頼だ。

 それを取って受付に持っていこうとすると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「おう、ヴィック。調子はどうだ?」


 上級冒険者のノーレインさんだった。


「おはようございます。いつも通りですね」

「そっかそっか。良い調子なんだな」

「ノーレインさんほどじゃないです」


 ふと視線をノーレインさんから外す。いつもはネグラットさんとよく一緒にいるが今日はおらず、代わりに見かけない冒険者が居る。しかも真新しい装備で身を固めた、一目で新人だと分かる五人の少年少女だ。さらに容姿や体格から、僕よりも年下のように見える。

 冒険者としてギルドに登録できるのは十六歳からのはず。にもかかわらず、彼らは装備を身につけてギルドに来ている。童顔なだけか、それとも依頼者なのか。


「あの、彼らは?」

「あぁ。こいつらは次代の名冒険者になれる逸材達だ。今日は講義の一環でここに来たんだよ」

「講義?」


 冒険者の講義なんてあったのか? 知っていたら真っ先に受けに行っていたのだが……。

 同じ疑問をラトナも抱いていた。


「何か学校みたーい。あるなんて知らなかった」

「そりゃそうだ。一ヶ月前にできたばっかだからな」

「出来立てなんだー。じゃあその子達は皆そこの生徒なの?」

「おう。全員が武器を握ったばかりの素人だ。お前らの後輩になるんだから優しくしてやれよ。な?」

「それは、かまいませんけど……」


 とりあえず承諾すると、ノーレインさんの眼がきらりと光った気がした。


「じゃさっそくなんだけどさ、その依頼、こっちに回してくれない? ちょうど良いのが他に無さそうでな」


 迂闊な返事はすまいという教訓を得た瞬間だった。




「はい! じゃあ『フォラック狩猟』の依頼ですね! ……はい、確かに受付しました!」


 薬草採集の依頼の代わりの依頼を受付に持っていくと、フィネが元気な声で受付処理をしてくれた。先輩に、しかも後進の育成という大義名分がある相手にはなかなか断れなかった。


「ま、三匹なら今日中に終わるっしょ。がんばろーね」

「そうです! お二人ならできます! 頑張ってください!」


 二人に励まされ、ちょっとだけ元気が戻る僕。よし、頑張ろうか。

 気合を入れ直して依頼に向かおうとしたとき、「お二人ともおはよー」とリーナさんが声を掛けてきた。


「今日も一緒にダンジョン攻略? 仲いーねー」

「そだよー。ヴィッキーとラブラブデート攻略でーす」

「楽しそーじゃん。けどダンジョンで浮かれ過ぎちゃダメだからね。嫉妬に狂ったモンスターが襲ってくるかも」

「人の恋路を邪魔する奴は、ラトナちゃんの正義の弾丸で撃ち抜いちゃいます」


 テンションの高い二人の会話を聞き流す。この会話に混ざってしまうと疲れてしまうので、話しかけられない限りは喋らないことにしていた。フィネはどうしようかと手持無沙汰のようだった。


「あとさ、さっきのはごめんねー。ノーレインのあれ」


 依頼を受け渡したことを言っているようだった。僕は「大丈夫ですよ」と答える。


「見たところ他に新人向けの依頼が無かったみたいですし、僕達は他の依頼でも問題ありませんから」

「お、ヴィッキーおっとなー」

「茶化さないでよ」

「そうかな?」


 リーナさんが笑みを浮かべていた。


「前に比べたらさ、余裕とかゆとりを持てるようになってると思うよ。去年のヴィックなら、依頼を譲るなんてしなかったんじゃない?」

「……あの時は必死でしたから」


 以前は強くなることに必死で、他人に遠慮する余裕は無かった。確かにその時に比べたらマシかもしれないが。


「けど学校が出来てたなんて知らなかったです。アリスさんはそんなこと教えてくれなかったから」

「ま、アリスちゃんは学校には関わってないからねー。主導して作ったのは局長とヒランちゃんだから。講師も二人の伝手で集めてるみたい」

「じゃあ結構な数が集まってるんじゃないですか?」

「うむ。講師志望が多すぎて困るくらいだよ」


 と言いつつも、リーナさんの顔には笑みがあった。嬉しい悲鳴というやつだろう。


「今は冒険者学校って言って冒険者志望の子だけ集めてるんだけど、いずれは傭兵や兵士志望の子も集めて、対モンスターに特化した訓練学校にする予定なの。そのためにも、生徒を大事に育てたり、根回しもしないといけないから、いろいろ大変なんだよねー」

「そんなこと考えてるんですね。すごいなー……」


 僕は素直に感心していた。普段の業務をこなしつつ、将来のための投資も忘れない姿勢は素晴らしいと感じていた。


 どうすればそんなに頑張れるのだろう。そう考えていると、リーナさんが話してくれた。


「けど昔のヒランちゃんなら、こんなことは絶対にしなかったなー」

「絶対って……」


 「大げさな」と言いそうになったが、リーナさんが話を続けた。


「だって以前はすっごい自分勝手で、自分と身内のためにしか動かない子だったんだよ。今と比べたら別人格が入ってるんじゃないかって思うくらいに」

「……そんなに違うんですか?」

「昔の冒険者に聞いたら教えてくれるよ。ノーレインとかネグラットとか」


 リーナさんは僕の知ってる人の名前を挙げた。冗談でないことが窺える。


「じゃあどうしてヒランさんは今みたいになったんですか?」


 リーナさんが寂し気な顔を見せた。


「……ヒランちゃんにはね、師匠と弟子がいたの。その二人のお陰かな」

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