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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第一章 弟子入り冒険者

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21.犬の戦い方

 そこは見晴らしのいい草原だった。木々は無く、背の低い雑草が生い茂っている。見つかったら隠れる場所が無い反面、奇襲受ける心配がない比較的安全なエリアだった。ベルク達が配置されたのは、そういった利点があったからだ。

 しかし僕らがそこに着いた時には、その利点が意味をなさない状況に陥っていた。


 草原には数十頭ものドグラフがいる。奴らは何かを取り囲むように動いていて、その包囲網に隙間は無い。戦わずに逃げることが無理だと一目で分かるほどである。

 その中心にいるのが、ベルク達だった。

 ベルク、カイトさん、ミラさんは互いに背を合わせるように固まり、その中心にラトナが居る。近接武器を持つ三人が、遠距離武器を持つラトナを守りながら戦っているようだ。無暗に手を出さず、向かってくる敵だけを相手にしているため、彼らの体に怪我はない。しかし、あれでは時間の問題だ。


「師匠」

「わーってるよ。来い!」


 彼らの下に向かって、アリスさんが走り出す。僕はその後に続いた。

 ドグラフ達の包囲網に、アリスさんが切り込む。


「どけやごらぁああああ!」


 大声を出しながら攻め込み、包囲網の端にいたドグラフに斬りかかる。僕らの存在を察したドグラフ達が振り向き、一斉に跳びかかる。しかしアリスさんの双剣捌きに、奴らは一太刀で地に伏せた。

 派手な声と動きに、近くにいたドグラフ達が注目する。すると奴らは襲い掛かってこず、むしろ道を空けるように身を引いた。やはり、アリスさんのことを知っているらしい。危険だと察して下がったんだ。


 空いた道を進むと、難なくベルク達の下へとたどり着く。彼らはアリスさんの姿を見るとホッと息を吐いた。


「ししょー! ヴィッキー!」


 ラトナが最初に、その後にベルク達が僕達に気付く。彼らはホッと息を吐いていた。


「おまたせ」

「よしお前ら、よく耐えたな」

「助かります。ギリギリだったんで」


 近くで見ると、彼らの体はボロボロだった。装備は血や土で汚れ、武器は刃こぼれしている。肩で息をし、顔には疲労感があった。もう少し遅かったら、最悪の事態になっていたかもしれない。


「オレがこいつらを惹きつける。お前らはその間に一息つけ。ヴィックはそいつらを守れ。ラトナは周囲の警戒とヴィックの援護」

「はい!」


 四人を守るという大任に、僕は躊躇いなく承諾した。

 不安はある。ドグラフに囲まれた状態から、皆を守り切るのは至難の業だ。だけど恐がっていたら、皆を危険な目に遭わせてしまう。


 そんなことはさせない。

 来るなら来い。だけど全部倒してやるぞ。


「じゃあ……任せたぞ!」


 アリスさんがドグラフの群れの中に突っ込んでいく。先ほどまで逃げていたドグラフ達が、アリスさんに一斉に跳びかかる。

 四方からの逃げ場のない攻撃。アリスさんは前方に突っ込みながらドグラフを切り落とす。そしてすぐに身を反転させ、襲い掛かってきたドグラフ達に双剣の刃を浴びせる。

 一秒にも満たない時間で、四頭のドグラフを切り伏せた。見惚れてしまうほどの手際だった。


「もっと来いよドグラフ共。まだまだ暴れ足りねぇんだよ!」


 アリスさんの長所は、どんな状況においても生き残れる生存力の高さだ。どんなに敵の数が多くても、強大な敵でも、不可思議で未知数な敵でも、必ず勝ち筋を見つけ勝利する。何度かアリスさんの戦いぶりを見てそう感じていた。そして今でも、その力を発揮していた。


 再び襲い掛かるドグラフ達。今度は機動力を封じようとして、二頭のドグラフが足元から攻める。他に二頭のドグラフが左右からタイミングをずらして攻めかかった。

 アリスさんはその場で右回転を始める。再び正面に向いたとき、右足を上げ、踵でドグラフの側頭部を蹴り砕く。隣にいたドグラフが巻き添えを喰らって吹き飛んでいく。回転の勢いを止めないまま、右から跳びかかってきたドグラフの顔を右手の剣で切り裂く。残り一頭のドグラフが背後から襲い掛かるが、跳びかかったタイミングでアリスさんがしゃがんで回避し、ドグラフが着地した隙を狙って詰め寄り、背中に剣を突き刺した。


 囲まれていても、まるで背中に目がついているかのような反応。あの視野の広さがアリスさんの生存力を上げている要因の一つ。加えて、その戦闘スタイルも後押ししていた。

 敵の動きを観察して見極め、弱点や隙を徹底的に攻め立てる。その際、傷口を広げるかのように敵の被害を拡大させて、敵にまともな判断をさせない間に、更に痛めつける。アリスさんは、徹底的に後の先を極めた戦い方をしていた。


 アリスさんは、ソランさんの様な圧倒的なパワーや、ヒランさんの様な唯一無二の技を持っていない。そんな二人と肩を並べられるのは、二人を凌駕するほどの経験と知識を持っており、強くなるための最適な努力をし続けたからだと聞いたことがある。すべての冒険者にとっての理想形でもある、と。


 アリスさんの戦い方は、どの冒険者にも参考になるものだ。弟子になって嫌なこともあったが、やはりこの判断は間違えていなかったんだ。

 目の前に理想のお手本があるのだ。これ以上の修行があるものか。


「グォウ!」


 一頭のドグラフの声で、大勢のドグラフが動き出す。数十頭のドグラフがアリスさんの方に向かい、少数が僕達の方に向かってくる。同時に攻め、アリスさんの気を逸らせようとしているのか。はたまた、事を急いての判断なのか。


 このエリアから信号弾は上がっている。時間が経てば援軍がやって来るはずだ。それまでに持ちこたえれば逆にチャンスになる。大量のドグラフを討伐できる絶好の機会なのだからだ。

 僕の仕事は、それまで皆を守ること。その時まで耐え続ければ僕らの勝ちだ。


「来いっ……」


 二、三……四頭のドグラフが向かってくる。正面左、正面右、左端、右端の順で僕との距離が短い。

 四頭なら……、


「援護はいらない! ラトナは警戒してて!」

「うんっ!」


 ラトナに指示を出してから盾を構えた。

 正面の二匹が、タイミングをずらして跳びかかって来る。僕は前傾姿勢で盾を持ち、正面左のドグラフに突っ込みながら盾をぶつけた。その攻撃に、左端のドグラフも巻き込んだ。

 盾をぶつけたドグラフ達を押し飛ばして距離を作る。その間に振り向くと、右端にいたドグラフが間近に迫っていた。僕の顔を目がけてきた跳躍に対し、左手の剣を振り下ろす。顔を縦に裂くと、すぐに体を右に九十度回転させる。正面から跳んで僕への攻撃を外したドグラフが、再び攻撃しようと迫っていた。再び跳躍してくるが、左手の剣は間に合わない。その場で盾を構えて衝撃に備える。ドグラフがぶつかる瞬間、腕が痺れるほどの衝撃があった。だが耐えられないほどじゃない。不十分な体勢だったが、何とか踏ん張って耐えきると、衝突してきたドグラフが地面に下りる。その隙を逃さずに、今度こそ剣を刺して仕留めた。


「次は……」


 残り二頭の攻撃に備えたが、奴らは距離を取っていた。警戒して迂闊に攻めるのを止めたみたいだ。助かったが、少々拍子抜けだった。

 体の調子が良い。これなら援軍が来るまで持ちこたえられそうだ。


「良い動きだね」


 カイトさんが僕の近くに寄って来る。息は乱れておらず、いつもの余裕のある表情があった。まだ救援に来てから一分くらいしか経ってないが、もう体力は回復したそうだ。


「他の二人は?」

「大丈夫だ。すぐに復帰できる」


 視線をベルク達に向ける。カイトさんの言う通り、先程よりも疲労感が薄れている顔色だ。


「あと少し耐えれば体制を整えれる。頑張ろう」

「はい」


 ベルク達が戦えれば、助かる可能性がさらに増す。希望の光がさらに大きくなった。

 もう少し頑張れば―――


「おっと……」


 足元がふらついた。すぐに地面を踏み直し、体勢を立て直した。

 意識はしっかりしている。目眩や立ちくらみではない。……気のせいか?


 再び、足元がふらつく。踏ん張って体勢を保つ。今度こそ、意識がしっかりしているという自信があった。何か起こってるのか?


「カイトさん、あの……」

「……ヴィックもかい?」


 カイトさんの顔が険しい。どうやら僕と同じで異変を感じたようだ。ベルク達は……。

 皆の様子を確認しようと振り向くと、同時に地面が大きく揺れる。何かがぶつかるような衝撃だ。

 揺れに耐えながら、皆の様子を確認する。僕とカイトさんだけじゃなく、ベルク達も驚いている。さらに、僕らを囲むドグラフ達も動けずにいた。


 アリスさんはどうなのか。まだ動けているのか。不安になって視線を向けると、アリスさんはドグラフの群れの中から出ていた。

 無事なことに安堵したが、アリスさんの表情は険しい。


「そこから逃げろ!」


 直後、今までで一番大きな衝撃が発生した。地面の揺れはすぐに収まらず、むしろ徐々に悪化する。


 何かが崩れる音が聞こえると同時に、足元が崩れ始めた。


「あ、あ、あ……」


 崩れゆく地面から逃げようと足を懸命に動かす。しかし予想外の事態に動揺し、思ったように動かない。這ってでも逃げようとしたが、それよりも崩壊の方が早かった。

 じきに、地面の感覚がなくなる。背中から落下し、空が遠くなる。何かに掴まろうともがいても、手にあるのは空気の感覚だけだった。


 僕が下に落ちるのと入れ替わるように、何かが下から飛び上がる。その特徴的な姿を見て、この現象の原因が分かった。

 危険指定モンスター、ケルベロス。僕の代わりに、奴が地上に降り立とうとしていた。


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