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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
最終章 普通の冒険者

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7.一筋の光

 デッドラインへの挑戦まで後三日。僕の環境は再び変化していた。


「ようヴィック。今日も頑張ってるな」

「応援してますよ」

「期待してるぞ」


 冒険者ギルドに訪れると、応援の声をかけてくる冒険者が増えてきていた。まだまだ僕に対して批判的な声が多いが、少なくても応援してくれる人がいるという事実は励みになっていた。

 この要因となったのが、多くの冒険者と接してきたフィネの提案によるものだった。


「実はヴィックを応援してる人って結構いるの。けど批判的な人が多いから声を出して応援できないみたい。だから応援できる空気にしたらどうかな。そしたら活動しやすくなると思うんだ」


 なぜ彼らが僕を応援したいと思ったのかは分からないが、利用できるものは利用したい。だから方針を少し変えることにした。

 今までは僕の評価を下げるように悪評を流してもらっていた。凡人で特別な人間ではないヴィック・ライザーが、デッドラインを制覇できるわけがないと。だがこれからは、凡人のヴィック・ライザーが制覇できるということは、同じ凡人である自分達も良い成績を残せる。自分達も戦えるという期待を煽るように仕向けるようにした。マイルスでの傭兵ギルドの選挙の時と同じで、凡人の僕の行動により周囲のモチベーションを上げることを狙った。その効果が出てきたことで、僕への応援がしやすくなっているようだった。


 少々のトラブルはあったものの、計画は順調に進んでいる。襲撃もあの日以降は遭っていない。仲間が増えたことと、僕に肯定的な声が増えたことから警戒心を高めているのだろう。だとすればもう少し仲間を増やした方がいいのかもしれない。仲間が多い方が相手も手を出しづらくなるし、皆の負担も減るだろう。


 ダンジョンから平屋に帰るとカリヤさんとミラさんが待機していた。ベルク達は買い出しや装備の修理に出かけていたので平屋には僕を含めた三人しかいなかった。

 二人は資料を並べたテーブルを挟むように向かい合って並んでいる椅子に座っている。僕が「ただいま」と二人に声をかけると、カリヤさんは「おけぇり」と返事をしてくれたが、ミラさんは僕を見ないまま資料を眺めていた。集めてきた情報を整理しているようだった。

 今回の作戦の発起人は僕だが、指揮をとっていたのはミラさんだった。デッドライン攻略に必要な情報の収集、対策が必要なモンスターの取捨選択、僕の評判の操作のための工作員の用意等々、それらのほとんどをミラさんが指示していた。元々そういうのが得意なのか、親の教育の賜物なのか、それらの指示は的確であったことから、なんらかの提案をするときはミラさんを通すことを第一としていた。


「ミラさん、提案があるんだけど」

「なに?」


 ミラさんは僕を見ず、資料に目を通しながら返事をする。マイルスにいた頃と変わらずそっけない。


「皆の負担を減らすために仲間を増やすのはどうかな? 人が増えれば交代で休むことができるし、この前みたいな襲撃も無くなるんじゃないかな」

「却下」


 一秒も考えることなくダメ出しされた。判断が早すぎる。


「えっと、なんでダメなの? 今なら僕達を手伝ってくれる人がいると思うんだけど」

「そいつらってどんな奴らよ」

「そりゃあ、僕を応援してくれる人で……」

「名前は?」


 聞き返されて僕は戸惑った。応援してくれた人達の顔は覚えている。だが僕は彼らの名前を聞いてなかった。

 僕の反応を見たカリヤさんが「キヒヒ」と笑う。


「スパイを入れるのには絶好のチャンスになるな。もしオイラが敵だったら喜んでお前さんを褒め称えて仲間になるぜ。腹の中で舌を出しながらな」

「そういうこと。今回の計画は絶対に失敗が許されない。私達の行動があんたを良く思わない奴らに漏れたら、妨害されることも十分にあり得る。そのためにあんたの支援者を装って情報を得ようとする輩がいてもおかしくないわ。だから今回の計画は信頼できるメンバーで実行するべきなのよ。なのにあんたは、名前も知らない奴を仲間に入れたいの?」


 上司から説教される部下のような気分になった。ミラさんの言ったことはもっともであり、反論の余地がない。思わず畏まって「すみませんでした」と謝罪してしまった。


「浮かれてんのかもしれないけど、気を引き締めなさいよ。まだあんたの目的は何一つ達成されてないんだから。あんたはデッドラインで生き残ることだけを考えなさい。それ以外は全部こっちがなんとかしてあげるから」


 厳しくも頼り甲斐のある言葉だ。今回の計画のためには情報収集や工作員を雇うためにある程度の資金が必要だった。そのための資金を一旦肩代わりしてくれてるのがミラさんだ。いずれ返すとはいえ、ミラさんの実家が裕福だとはいえ、負担がかかるはずだ。

 なのに何故、嫌いな相手であるはずの僕に手を貸してくれてるのか。いくら仲間が協力してるからと言っても、ミラさんのやってることはその範疇を超えていた。


「ミラさんは何で僕を助けてくれるんですか?」

「……なに。不満でもあるの?」

「そうじゃなくて、ただ純粋に気になってしまって。僕のこと好ましく思ってなかったから……」


 ミラさんは資料から目を離さず、手を止めたまま答える。


「……あんたにはカイト達を連れ戻してくれた恩があるからね。あっちでラトナを助けてくれたみたいだし、これくらいはしてあげようと思ったのよ」

「義理のためにしては、けっこう頑張りすぎな気がしますけど」

「それに、まぁ、なんていうかね……」


 ミラさんは明後日の方を向きながら、たどたどしく言う。


「今はまぁ、あんたのことはそんなに嫌いじゃないからね。あんたがやろうとしていることも、良いことだと思ってるし。私もウィストのことを何とかしたいなって思ってたから」

「ミラさんもウィストのこと気にかけてくれてたんですね」

「まぁ友達だしね。それに最近のあの子は窮屈そうに見えてたから。あんなつまんなそうにしてるの、あの子らしくないからさ。かといってやめそうな気配も無いから、丁度良いって思ったのよ」

「利害が一致したからってことですか?」


 するとミラさんが僕の方を見て、「そうよ」と肯定する。


「だから絶対勝ち切りなさい。負けたら一生嫌い続けてやるから。覚悟しなさいよ」

「勝ったら友達になってくれるってこと?」

「調子に乗らないの。……ヨシ」


 ミラさんが一枚の資料を手に取って僕に見せる。そこには三十体分のモンスターのリストが記載されていた。


「これがデッドラインに出てくるモンスターよ。これでほぼ確定よ」

「本当に?!」

「えぇ。カリヤの持ってきた情報のお陰で絞り込めたわ。外れても二、三体くらいよ。それもこいつらの対策をしとけばデッドラインを攻略できるわ」


 デッドラインの難しさはどんなモンスターが出てくるか分からないところにある。その問題が解消できれば、難易度はグンと下がる。あとはこのリストの中で戦ったことのないモンスターの対策をするだけだ。

 リストの中をざっと見ると、僕が戦ったことのないモンスターは五体だけだった。しかもそいつらはエルガルドの近くに生息しているモンスターばかりだ。デッドラインまでに間に合う。


「ありがとう。ミラさん、カリヤさん」

「これくらいお安い御用さ。後は勝つだけだな」

「そうね。しっかり頑張りなさい。応援してるわよ」


 暗闇の中に、一筋の光が見えた気がした。


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