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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第五章 再起する冒険者

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19.カイトのために

 武士達に捕らえられた僕達は、不本意な形でキョウラクに入ることとなった。キョウラクの中心には大きな城があり、その城を囲うような塀が建てられていた。キョウラクの中に入るといくつもの建物があったが、建物の数に比べて道を行き交う人の姿が少なく見える。多くの住民がヤマグイを恐れて避難したのだろう。


「前に来たときよりも随分と寂しいなぁ」


 同じ景色を見てドーラがぼやく。僕だけじゃなく、あの場に居た皆が捕らえられていた。ドーラとギンはトウジさん相手に一歩も引かなかったが、後から来た援軍に押さえこまれて捕まっていた。流石の二人も突然の物量作戦で迫られたらどうにもできなかったようだ。


「随分と呑気だな。捕らえられたというのに」

「こいつはそういう奴だ。俺達と同じだと思わない方が良いぞ」

「そのようだな」


 ハルトとギンが親し気に話をしている。僕達と別れた間に交流を深めていたようで仲良くなっている。別れる前から意気投合していた性格の似ている二人だ。息も合うのだろう。


 思ったよりも危機感のない三人に対し、ラトナは意気消沈していた。ほとんど喋らずにじっとしてて、見るからに落ち込んでいる。カイトさんを連れ出せなかったチャンスを不意にしたことが余程ショックなのだろう。カレンは物珍しそうにきょろきょろとしている。あまり物怖じはしていないようだ。

 両手両足を縄に縛られたまま馬車で運ばれた僕達は、城内の敷地に入っていく。そして建物の周囲を回って奥に進むと頑丈そうな窓の無い建物の前で降ろされた。足の縄だけを解かれて、歩いてその建物の中に入った。中には鉄の柵で囲まれた部屋がいくつもあり、牢屋だということがすぐに分かった。

 僕達は牢屋の奥に進んで地下に移動する。地下には広めの牢屋があり、僕達はそこにまとめて入れられた。幸いにも手を縛っていた縄を外してくれた。


「ナギリ様の恩情だ。しばらくは大人しくするんだな」


 そう言って、僕達を連れてきた武士達は出て行った。地下には僕達以外だと、少し離れた場所にいる看守しかいない。とても静かな空間だった。


「いったいこれからどうなるんだ」


 湧いてきた不安を口にする。こんなところに閉じ込められてしまっては、カイトさんを連れ戻すところかエルガルドに帰ることすらできない。やはり逃げるべきだったか。


「アンドウ家の人間を誘拐しようとしたからな。ちょっと閉じ込めておこう、というわけではないだろう。数年は牢屋暮らしだろうな」

「牢屋暮らしって……」


 目の前が真っ暗になりそうになった。数年も牢屋に居てしまっては、出たときには三十歳近くになる。そんな歳でブランクのある冒険者が碌に稼げるだろうか。

 何とかして早く出られないか。そんなことを考えてると「安心せい」とドーラが言う。


「チャンスがあれば吾輩が逃がしてやる。貰うものは貰うがな」

「また血が欲しいのか」

「うむ。貴様の血は美味いからな。それくらいで済めば安いものだろ」


 たしかに前回と同じ量程度の血を飲ませるだけならば、脱獄できることに比べたら安いだろう。あのときは気を失って変な夢を見てしまったが、あれくらいは我慢しよう。

 脱獄の手立てがあることが分かると少しだけ落ち着いた。逃げることは可能だ。後はカイトさんのことだけだ。しかし、


「ラトナ、どうする?」


 ラトナはふっと顔を上げた。


「どうするって?」

「まだカイトさんを助けるかってことだよ」


 ラトナが目を丸くして僕を見た。僕がこんなことを言うなんて余程意外だったのだろう。僕もこんな状態にならなければ言う気は無かった。だがもう、カイトさんのことを気にかける余裕はない。


「カイトさんの意志は固い。あの調子じゃあ強引に連れ出しても抵抗されて、その間にまた捕まってしまうのがオチだ。次捕まったら、流石にただじゃすまないと思う」

「じゃあヴィッキーは、カイっちをほっといて逃げた方が良いって言いたいの?」

「そういうことも考える段階だと思う」

「……嫌だ」


 小さいが、はっきりとした声でラトナは言った。


「ぜっっっっっっったいに帰らない。カイっちを連れ戻せなきゃここまで来た意味がない。ミラらんとも約束したもん」

「けどこれ以上踏み込んだら僕達が危ない―――」

「あたしが嫌なの。カイっちと離れるなんて嫌。カイっちは……」


 ラトナの眼に涙が浮かぶ。すぐに拭ってまた僕を見た。


「カイっちのお陰で冒険者になれたんだもん。カイッチが一番冒険者になりたがってたんだもん。カイッチが一番、冒険が好きだったんだもん。だから、だから……」


 再びラトナの眼に涙が溜まる。悲しそうな顔をして、だけど強い意志を感じるその眼を見て、僕はもう何も言えなくなった。カイトさん以上にラトナも頑固だ。


「けどどうするの。カイトさんを連れ出そうにも、どこにいるのかも分からないんだよ。見つけてもエルガルドまで逃げ切れる保証なんてない。現実的に難しいよ」

「そんなの、何とかするしかないよ」

「なんとかって……」


 つまり現状は無策だということだ。流石に策も無しに行動に移すのは無謀である。それをラトナも分かっているのか、今は何も言わずに考え込んでいるようだった。

 とはいっても長い時間をかけれない。既にヤマグイはキョウラクの近くに来ている。明日、もしかしたら今すぐにでも、またキョウラクに向かってくるかもしれない。そうなればカイトさんが戦場に出てしまう。あれほどの相手だと命を落としても可笑しくない。カイトさんがヤマグイと接触する前に助けないと手遅れになるだろう。僕も本音を言えばカイトさんに助かって欲しい。だがその手段が思い浮かばなかった。


 どうすればいいのかと考えていると、地下に降りて来る二つの足音が聞こえた。その後看守と話す声が聞こえると、また足音が聞こえて僕達の居る牢屋の前で止まった。そのうちの一人はカイトさんの兄のカリヤさん、もう一人は着物を着た若い女性だった。女性の容姿はカイトさんやカリヤさんと似ていた。


「キキキ。辛気くせぇ顔をしてやがんな。もう諦めムードか」


 挑発的な口調のカリヤさんに対して苛立ちが募る。こいつはカイトさんの兄でありながら、カイトさんを連れ戻して冒険者を辞めさせ、戦場に出そうとしている人物の一人だ。今すぐにでも殴ってやりたかった。


「何をしに来たんだ。捕まった僕達を笑いに来たのか」

「そんな暇はねぇよ。大事な話をしに来たんだ。なぁ、妹」


 隣にいた女性が「はい」と返事をする。やはりカイトさんの妹だったか。以前、妹がいるということを言っていた気がする。


「私はナギリ兄様とカリヤ兄様の妹、アヤメと申します。ギン様とドーラ様以外の方々とは初めましてですね」


 アヤメは丁寧に頭を下げる。綺麗な所作に育ちの良さが窺えた。だがそれよりも気になることを耳にした。


「ギンとドーラとは会ったことがあるの?」

「はい。お二人には以前ここに来たときにお願い事をしましたので」

「もしかして、あの依頼のこと?」


 最初に会った時、ドーラとギンは依頼されてカイトさんを探していると言っていた。二人に訊ねると、「そうだ」とギンが答えた。


「俺達はこの方に頼まれてナギリを探していた。ナギリを捕まえて、ヤマビから出すことが依頼の内容だった」

「貴様らも同じ目的だったら早いうちに協力できたのだがな。用心深いのは良いことだが、今回は裏目だったな」


 たしかにあのとき、僕達がカイトさんを連れ戻しに来たと言っていたら協力できただろう。慎重すぎたが。今回の僕は行動が悉く裏目に出る。

 あまりのツキのなさに嘆きそうになったが、それよりも先に聞くことがある。


「ヤマビから出すって、どういうこと?」


 アヤメの隣にいるカリヤさんは、カイトさんをヤマビに連れて行った人だ。なのにその妹は逆に出国させようとしており、しかもその逆のことをしたカリヤさんと一緒にいる。そしてドーラ達に依頼した内容について全く誤魔化そうとしていなくて、カリヤさんもそれを平然と聞いている。まるでこのことを最初から知っていたかのように冷静だった。

 いったいどういう状況なんだ。何が起こっているんだ。


 訳が分からず頭を抱えてると、それを察したのかアヤメが「詳しいことは今から話しましょう」と切り出した。


「このままだとナギリ兄様は確実に命を落とすことになります。その運命を避けるために依頼をしたのです」


 たしかに現状だとカイトさんは危険な戦場に出ることになる。だが確実にというのは言い過ぎじゃないのか。


「確かに危険だけど、確実ってことは無いんじゃない? それにカイトさんはアンドウ家っていう将軍家の一人なんでしょ。そんなに危ないことはしないんじゃぁ……」


 将軍家ほどの地位の高い人ならば、戦場に出たとしてもそれなりに安全な場所に居そうな気がする。少なくとも一般の武士に比べたらマシな配置になるんじゃないか。

 だがアヤメが「いえ」と否定する。


「絶対です。むしろナギリ兄様はそれを望んでヤマビに戻って来ています」

「どういうこと?」


 アヤメが一息吸って答える。その口から聞こえた言葉は、到底信じられないものだった。


「なぜならヤマグイは、アンドウ家の者が殺されることで撃退できる、呪われた生物だからです」


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