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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第一章 弟子入り冒険者

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14.環境の違い

 ギルドに戻ったときには、すでに陽が暮れていた。何人かの冒険者達が食堂で飲み食いする中、僕らは疲労困憊の状態で帰還していた。ラトナも口数が減り、顔に疲労感を滲ませていた。


「ったく、だらしねぇな。あんだけ走ったくらいでこんなんになるなんてねぇ」


 師のアリスさんは、当然のように平然としていた。


「何で疲れてないんですか。あんなに走ったのに……」

「たった四十キロくらいだろ。疲れる方がおかしいんだよ」

「無茶苦茶ですね……」


 野外戦闘の経験は、僕らは少なかった。モンスターと戦うのは主に狭いダンジョンの中であり、だだっ広い場所で戦うことは限られている。あったとしても、襲ってこない草食モンスターや、半年前のミノタウロスくらいである。そのため、野外戦での戦闘には慣れていなかった。だけどダンジョン内ではそれなりに戦えてきたので、何とかなるだろうと思っていた。

 だがその認識は、とてつもなく甘いものだと気づかされた。


「あいつらすっごく動き回ってたじゃないですか。僕よりも足が速い奴らを追いかけながら戦うって……正気じゃないですよ」


 ドグラフは広大な野外を存分に活かして戦っていた。視界から外れるほどまでの位置を取り、複数方向からの攻撃。これだけならまだしも、こっちが反撃しようとするとすぐに逃げるのだ。僕の攻撃が届かないほど遠くまで。そのせいで、僕の攻撃は全くと言って良いほど当たらなかった。

 このときのために遠距離攻撃用の武器を持つアリスさんとラトナがいたのだが、アリスさんはともかくラトナの攻撃が当たらない。広さが限定されていたダンジョン内ならば相手の動きを予測しやすかったが、限りが無い野外だとどこにでも動けられるため予測が外れることが多かったとのことだ。そのせいで一回ごとの戦闘時間が長引き、その分疲労も増した。援軍が来てくれなかったら、今回の仕事は完遂できていなかっただろう。


「野外には野外の、ダンジョンではダンジョンでの戦い方があるんだよ。それが分かってよかったじゃねぇか」

「それはそうですけど……」

「もういいじゃねぇか。とりあえず飯でも食え。奢ってやるよ」

「ほんとですか?!」


 思わず大声で反応してしまった。だけどアリスさんは大声に驚くことなく、「おう」と快く返事をした。


「けっこう大変な依頼だったからな。褒美だよ」


 テーブル席に着くと、アリスさんが適当に料理を注文する。それは普段ならば、資金的に考えて絶対に頼めないほどの量であった。


「残さず食えよ。冒険者は体力が資本だからな。食うこともトレーニングだ」


 アリスさんはそう言ったが、言われなくてもそのつもりであった。僕とラトナは料理を味わいながら、運ばれてくる料理を次々と口に運んだ。どれも美味であり、幸せだった。


「今日はお疲れさまでした」


 まだ半分ほど料理が残っているときに、ヒランさんが現れた。今はギルド職員用の制服を着ている。


「さて、状況はどうでしょうか」

「とりあえず街道付近のドグラフは全部狩った。しばらくは警戒して出てこないはずだ。そっちは?」

「調査は完了しました。ただ、調査結果を踏まえた今後の話し合いが必要です」

「うげっ。最悪なパターンか」

「最悪なパターンです」


 アリスさんがあからさまに嫌な顔を見せた。


「調査って何ですか?」


 ラトナが二人の会話に入り込んだ。


「今回の騒動の原因調査で、こいつにレーゲンダンジョンの近くを調べさせたんだよ。どうしてドグラフが出てきたんだ、ってな」


 モンスターがダンジョンから出てくることは少ない。マイルスダンジョンを除けば、ダンジョンはいわばモンスターにとって外敵を排除するための城の様なものだからだ。

 そのため、今回の様に大勢を引き連れて人間を襲うことは滅多に無い。あるとすれば強力な外敵に襲われてダンジョンから逃げ出したか、餌を求めて狩りに出たかのどちらかである。


「この後に会議を始めたいのですが」

「分かった。……ちょうどいいや」


 アリスさんが僕とラトナを見た。


「こいつらも連れていく。いいだろ?」


 まだ噛み切れていない肉を飲み込んでしまった。せっかくの肉がもったいない……じゃなくて。


「いいんですか? そんな大事な会議に参加させて」

「問題ねぇ。オレの下で動くんだからな知ってた方がいいだろ。なぁ」

「そうですね。かまいませんよ」


 ヒランさんは平然と了承していた。


「アリスから働きぶりは聞いてます。わたくしの目から見ても、あなた方は信頼に足りうる冒険者であると認識しています。是非出席してください」


 胸がじーんと温かくなった。僕はヒランさんから一度失望されていた。それだけに、信頼していると言われて嬉しかった。


「分かりました。すぐにでも食べ終えて出席します」

「ゆっくりでかまいません。まだ出席者は集まっていませんのでのんびりしていてください」

「あ、はい」

「他に誰が出席するんですかー?」


 諭されて落ち着いた僕に代わり、ラトナが発言した。


「冒険者ギルドからはわたくしと局長です。冒険者からはソランや警備隊の分隊長数名、そしてあなた方です」

「一般の冒険者からは集めないの?」

「はい。今回の任務は緊急性が高いうえに、公的機関からの依頼とあって重要度が非常に高い。そういった任務には、ギルドが選抜した冒険者以外は参加させません」

「言っとくが、あいつらはダメだぞ」


 アリスさんがラトナに忠告した。「あいつら」とはベルク達のことだろう。


「あいつら、腕は悪くねぇが経験が少ねぇ。野外での戦闘はあまりしたことねぇだろ」

「馬車隊の護衛とか、何回かやったことあるよ」

「相手が違う。そいつらはドグラフと戦ったことないんだろ? 慣れてない場所で慣れてないモンスター、しかも超重要な依頼だ。参加させるわけねぇだろ」

「……そーですよねー」


 ラトナは少し残念そうにした。アリスさんと行動を共にして三ヶ月は経っている。その間、ベルク達と一緒に活動はしていない。これほど離れるのは初めてなのだろう。寂しそうにしているのが分かった。

 できることなら一緒にさせてあげたい。しかしアリスさんの言葉にも説得力はある。準備不足なままで参加させては怪我をする可能性があり、下手すれば命を落とすこともある。ベルク達なら大丈夫かもしれないという信頼がある一方で不安もあった。ドグラフの脅威を知っているラトナは、だから最後には同意したのだ。


「それでは後の会議でまた会いましょう」


 ヒランさんがそう言い残して去っていく。僕達は残っていたテーブルの料理を口に運ぶ。


「そういえば、最悪のパターンって何なんですか?」


 最初の方の会話を思い出し尋ねた。あの時アリスさんはかなり嫌そうな顔をしていた。


「ん、あぁ。まぁモンスターがダンジョンから出てくる理由は少ない。前に説明したが、餌探しに出たか、他のモンスターから逃げたかってとこが普通だ」

「今回もそのどっちかですよね」

「そうだったら会議するまでもねぇんだよ。いつも通りダンジョンに潜って調べりゃ終わりだ。そうじゃねぇから問題なんだ」

「何がですか?」

「タイミングだよ」


 アリスさんがムカついた顔をして料理を口に入れた。


「昨日のオレ達の仕事を忘れたのか。この騒動はあれが原因なんだよ」


 僕の顔も若干歪んでいた。

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