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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第五章 再起する冒険者

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16.欲しいもののためならば

 次に着いた町はナンラク町だった。キョウラクの南側に位置する町だからというのが町名の由来だそうだ。僕達はそこで人攫いを奉行所に突き出し、事情聴取を受けてから町を探索した。

 奉行所に人攫いを連れて行く際、ラトナは同行しなかった。


「あたしは不法入国しちゃってるからさ、もしばれちゃったらやばいんだよねー」


 僕達より先にヤマビに来ていたラトナは、正規の方法で入国していなかった。正式に入国するには関所を通らなければならず、関所を通るには入国許可証が必要で、入国許可証の取得には時間がかかる。だが今回は悠長に許可証を貰うのを待っていられないので、不法であることを承知でヤマビに入ったそうだ。

 関所を通らなければ入国許可証は必要ない。しかしもし許可証無しで入国したことばばれた場合は重い処罰が下されることになる。そして外人はヤマビでは非常に目立つ。だからラトナは髪色を黒に染めていた。髪色がヤマビの人間と同じならば、一見外人には見えないからだ。


 だが人攫いの眼はラトナの偽装を見抜いた。人攫いは僕達と同じようにラトナを誘き出し、捕まえて売ろうとしていた。ラトナは最初すぐに逃げ出そうとしたが、行先がキョウラクだったことと協力できそうな人が捕まるのを待っていたため行動を控えていた。そして僕達が来たことを機に動くことを決めたというわけだ。


「まさかヴィッキーが来るとは思わなかったけどねー」

「僕もあんな形で合流できるとは思わなかったよ」


 黒髪の女性がラトナだと気づいたのは、僕が行動に移す前だった。カレンが僕のサインに気づくか確かめているときに、ラトナが僕にサインを送ってきたのが切っ掛けだった。そのお陰で僕達は被害を出さずに人攫い達を倒すことができた。

 その後は人攫いの馬車を奪い、キョウラクの隣町であるこのナンラク町にまで来て他に捕まった人達を解放して今に至る。


「ヤマグイが出る時期になると、ああいう人攫いが多くなるんだって。いくつもの村や町が壊滅して人もたくさん死んじゃうからさー、その騒ぎに乗じて攫ってるらしいよ」

「だから街道を見回りしてるのか。本来ならヤマグイだけに専念したいはずなのに、武士達も大変だな」

「ヤマグイに対応するのはー、基本的にはキョウラク付近の武士だけなんだってー。それ以外は避難誘導とか救助に専念してるってさ」

「最終的にキョウラクに来るって言ってたから、それまでは無暗に戦って戦力を失わないようにするためかな」

「そうみたい。各個撃破が一番やばいからねー」


 奉行所を出た後、ラトナとカレンと一緒に町を歩いていた。今まで得た情報をラトナと共有している間、カレンはあまり口を開かずに僕達の会話を黙って聞いていた。カレンは人見知りする性格なので、馴染みのないラトナとは話し辛いのだろう。

 ナンラクは今まで訪れたなかで一番大きな町だった。そのためナンラクに到着した昼頃から夕方まで歩き続けても、町の隅々まで探すことが出来ずに終わった。なので日が暮れ始めた頃合いから夕食を取り、明日以降の食料を調達してから宿に戻った。

 部屋は三人用の部屋を一つ取った。最初は男女で別れられる宿にしたかったが、ラトナが不法に入国しているために目立つことを避けたかった。なので人の出入りが少ない宿を探していたら、既に夕方でほとんどの宿に空きが無かったことともあり、三人用の部屋だけ空いている宿しか見つからなかった。


 宿の施設にあった浴場を利用してから部屋に戻ると、部屋にはラトナだけがいた。カレンはヤマビの風呂が気に入ったらしくまだ入っているそうだ。

 ラトナは宿で用意されていた浴衣を着て、畳の上に座っていた。薄い布地のせいで大きく実りのある乳房が非常に目立っている。マイルスにいたときはよく行動を共にしていたおかげで慣れてしまっていたが、久々に二人っきりになった事もあり意識が向いてしまう。


「キョウラクに着くのって、あと二日なんだよね」


 誤魔化すためにも適当な会話をすることにした。ラトナは「うん」とすぐに返事がきた。


「明後日の昼頃には着くと思うよ。けどキョウラクは警備が厳重だから、あたしはばれないように入らないとねん」

「今頃ヤマグイに備えてるんだろうね」

「そのはずなんだけどねー。昔に比べたら少ない気がするんだー」

「昔?」

「うん。前に言ったっしょ。ヤマビに来たことがあるって。あれってたしか、前のヤマグイが現れる少し前だったの。まだヤマグイが出て来る前だったけど、あのときの方が今より武士の数が多くて警備も厳しかった気がするなー」


 さらに「昔のことだから間違ってるかもしんないけどね」とラトナは言う。それが間違ってなければ、今ヤマビは以前よりも少ない戦力でヤマグイと戦おうとしているということだ。前回は戦力の消耗が少なかったそうだから、以前と同等かそれ以上の戦力を用意できるはずだ。なのにヤマグイが出現している現時点の戦力が前回よりも少ない? それともただのラトナの勘違い?


「あんま悩まなくていいよ。対策してるのは変わりないし、やり方を変えただけかもしれないしね」

「それはそうかもしれないけど……」

「それよりもさ」


 ラトナが僕の隣に着て座り直す。湯上りのせいか良い匂いがした。


「来てくれてありがと」


 優しい声でラトナが言った。


「ヴィッキーだって大変なはずなのに、危険を承知で来てくれたことに凄く感謝してるよ」

「……お礼を言われることじゃないよ」

「じゃあ何でヤマビにまで来てくれたの? カイっちを連れ戻したいか、あたしを助けたいか、どっちかの理由が無かったらヴィッキーは来なかったんじゃないの?」

「なりゆきだよ。ハルトに連れられて来ただけだよ。僕の意志じゃ、ない」


 元々、来るつもりは無かった、というより迷っていた。カイトさんを止められなかった僕が行ってもどうしようもできない。その考えがあったから足踏みをし、一歩踏み出せなかった。ここまで来たのはハルトに巻き込まれたせいであり、僕は何も決めてない。


「けどここまで来たなら手伝ってくれっしょ。カイっち連れ戻し作戦に」

「そりゃ、ここまで来たらやるけどさ……」

「さっすが、あたしの愛しの兄弟弟子ヴィッキーだ。お礼に揉ませてもいいよ、どう?」


 ラトナが浴衣の胸元を曝け出そうとする。一瞬だけ視線を向けてしまったがすぐに逸らす。


「や、止めなってば。そういうことを簡単に言わないで」

「誰にでもは言わないよ。ヴィッキーにだけだよ。一緒にアリスさんの下でしごかれた仲だからねー。サービスサービス」

「それ、カイトさんの前でも言えんの?」

「言ったらヴィッキーがカイっちに殺されちゃうからねー……って、それってどういうこと?」


 ラトナが不思議そうな笑みを僕に向ける。もしや、気づいてなかったのか?


「言っとくけど気づいてるよ。ラトナがカイトさんのこと好きだってことくらいは」

「……マジで?」

「マジ。僕だけじゃなくてベルク達も気づいてると思うよ。ウィストもフィネだって」


 ラトナは誰にでも人当たりが良くてスキンシップが激しいが、ベルクとカイトさんにだけは体の接触はない。ベルクにはミラさんのことがあって遠慮しているのだろう。そしてカイトさんには、異性として意識しているせいで他の人と同じようにボディタッチをしないのだろう。その他にも、よくカイトさんのことを気にかけたり、分かりづらい変化を見逃さないことが多かったのが判断の理由だった。


 僕の言葉が意外過ぎたのか、ラトナはぽかんとした顔を見せている。その表情がちょっと間の抜けた感があって面白かった。


「言っておくけど、ラトナと一緒に居た期間はウィストよりも長いんだよ。それに不法入国してまでカイトさんに会いに行く時点で友達以上に思ってるって誰でも考えるよ」

「そ、そっかー。いやー、一本取られたね、うんうん」

「だからさ、好きな人が居るんだから、そう易々と体を触らせない方が良いよ」

「それはそうだね。うん、反省反省。けどさ……」


 ラトナの声が少し落ち着いた。


「体で釣ってでも、ヴィッキーの力が必要なんだよ。カイっちを連れ戻すためなら、どんな手を使ってでも連れ戻したいから、やれることは何でもやるつもりなんだ」

「けどあんまり良い手段じゃないと思うよ。カイトさんに知られたら滅茶苦茶怒るだろうし」

「ヴィッキーならばれないじゃん。言わないでしょ? カイっち、怒ったらちょー恐いの知ってるじゃん」


 マイルスに居たときのことを思い出して背筋が凍る。あのときのカイトさんは、ラトナが止めなければ僕を斬っていたかもしれない。それほどの殺意があった。


「欲しい物を手に入れるためなら手を尽くしたい。そう思うのって冒険者なら普通じゃん。ヴィッキーだってそうだったでしょ」

「僕も?」

「そうじゃなきゃ、あたしと一緒にアリスさんの修行を受けないじゃん」


 たしかにあの頃は、ウィストに相応しい相方になろうと必死だった。そのためならどんな手も使おうと思っていた。


「ヴィッキーが一生懸命頑張ってたってことは、一緒に修行を受けてたあたしがよく知ってる。だから諦めちゃったのも仕方がないかなって思ってる。夢ってさ、全部叶うわけじゃないからさ」

「……ラトナは僕がウィストとチームを解散したことに何も言わないの?」

「うん。だって解散ってさ、あんなに頑張ってたヴィッキーが一番嫌だったはずじゃん。なのに受け入れてるんだからさ、もうあたしが言うことは無いよ。あたしが出来るのは慰めることくらい。ぎゅってしよっか?」

「いや、いい」

「一途だねぇ。だからさ、あたしもあたしが出来ることを何でもやるつもり。最後まで欲しいものを目指して最後まで足搔く。もう我慢とか、誰かに譲るとかするつもりないもん。なんたってあたしは冒険者だからね」

「冒険者だから、か」


 ラトナの言葉を何気なく呟くと、「そうだよ」とラトナが肯定した。


「だからヴィッキーも、欲しい物は欲しい、やりたいことはやりたいって言うべきだと思うなぁ」


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