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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第一章 弟子入り冒険者

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13.二つの来襲

 翌朝、僕は冒険者ギルドへと訪れていた。昨夜は泊めてもらったので、ベルク達も同じだった。


 皆と共にギルドに着いた後は、ベルク達は依頼板へ向かい、僕とラトナはアリスさんを待つために食堂のテーブル席に座る。ここで適当な飲み物を頼み、アリスさんを待つのが日常であった。

 アリスさんは意外と勤勉で、いつも大体同じ時間帯に来ている。依頼を受けようと多くの冒険者が来て、彼らが出て行って人が少なくなった頃にやって来る。

 しかし今日は、僕らが席に着いた直後にアリスさんがギルドに来た。しかも僕達が座る席に来ず、ギルドの受付の方に向かっている。


「どしたんだろ」


 ラトナもアリスさんの異変に気付く。アリスさんは険しい顔をして、受付のリーナさんと話をしていた。

 気になって、ラトナと一緒に受付へと向かう。近づくにつれて聞こえてきたアリスさんの声は、表情と同じくらい険しさを感じさせた。


「伝えたとおり、これは緊急依頼案件だ。さっさと冒険者と傭兵を集めろ。遅くなるほど被害は増えるぞ」

「分かったって。じゃあアリスちゃんは先に現場に向かって。傭兵ギルドとヒランちゃんへの連絡はこっちがするから」

「任せた。……お、来てたか」


 アリスさんが僕達に気付く。挨拶をすると、間髪入れずに「じゃあいくぞ」と連れていかれた。


「今日は依頼を受ける。というか、受けてる。それをやるぞ」

「さっきリーナさんと話していた件ですか?」

「聞いてたか。その通りだ」


 歩きながら会話し、依頼の詳細を聞いた。


「依頼はドグラフの討伐だ。ただし、場所はレーゲンダンジョンではなく東の街道付近だ」

「ダンジョンの外ですか? ドグラフってレーゲンダンジョンのモンスターじゃ……」

「そいつらが外に出た。しかも群れ単位でだ」


 危機感が沸き起こる。あのドグラフが外に出た? しかも数頭の群れで複数も?


「今朝方、マイルスに向かってきていた商人が襲われた。何とかマイルスまで逃げ切れたが、命からがらの状況だったって話だ。だが道から逸れた場所に誰もいない馬車があったってことから、もう被害が出ているらしい」

「じゃあ今は街道付近にドグラフが徘徊してるってことですか?」

「多分な。見てねぇから断定はできねぇけどよ、それに近い状況だろう。そのせいでマイルスの東門は閉門して、商人達が立ち往生してるってことだ。だが隣町から来てる商人達はこのことを知らない。さっさと安全を確保しねぇと、さらに命を落とすことになる」


 ドグラフは群れで狩りをするモンスターだ。奴らの狩猟能力は高い。護衛のない商人の馬車ならあっという間にやられてしまう。


「わかりました。どう動きますか?」

「奴らの足は速い。見つけた群れを確実に潰すため固まって動く。お前が前に出て、できるだけ多くのドグラフをひきつけろ。その間にオレとラトナが討伐する」

「了解」「はい」


 返事をした直後、アリスさんは町を走っていた乗り合い馬車を捕まえ、僕らはそれに乗って東門へと急行した。東門付近に着くと、普段よりも多くの馬車や人が門の内側で留まっていた。


 馬車から降りると、アリスさんが人込みを乱暴に掻き分けながら門へと進む。僕とラトナはその後に続いた。


「おう。何か情報はあったか」


 東門の衛兵にアリスさんが尋ねる。年が若そうな衛兵が、アリスさんを見て安堵した顔を見せた。


「お待ちしてました、ガミアさん。モンスターを討伐してくれるんですね」

「そうだ。だからさっさと教えろ。ドグラフの数、動き、被害状況、分かったこと全部だ」

「はい」


 衛兵がアリスさんに説明を始める。僕も話を聞こうと近づいて耳を傾けた。


 確認できた被害者は三組。それらは城壁上から確認できた馬車のみの数だ。もっと多くの被害があるかもしれないらしい。

 そしてドグラフの数は、少なく数えても五頭の群れが二つ。これも城壁から確認できた数に限った話だ。ドグラフから幸運にも逃げ切れた商人は、逃げるのに必死で詳細な情報は分からなかったとのことだ。生き延びた者の話から分かったのは、街道近くの森から突然出てきたことと、威嚇するように吠えながら襲ってきたということだけだった。


 それらを聞いたアリスさんは、「分かった」と返した。


「とりあえず、オレらは奴らを追っ払いながら街道を進む。後から来た奴らには街道付近で警戒をしろって伝えておいてくれ」

「は、はぁ。それだけでいいんですか?」

「あと馬を貸してくれ。一頭で良いから」

「分かりました。早速準備します」


 衛兵はが門から離れていく。その姿を見送った後、アリスさんは僕らの方を向いた。


「つーことだ。街道を進みながらドグラフを退治するぞ。荷物は馬に乗せとけ」

「はーい」

「一頭だけでよかったんですか? 僕は一応乗れますけど」

「じゃあ十分だろ」

「……僕のためですか?」

「お前らのためだ。どっちかが負傷したら、残った方がそいつを乗せてマイルスに帰れ」

「師匠はどうするんですか?」

「ドグラフで死ぬわけねぇだろ。自分の心配をしとけ」

「ししょーったらツンデレだね」

「黙れ。馬が来たらすぐ行くぞ」


 僕達は人ごみから離れた門の横で、衛兵が馬を連れてくるのを待った。立ち往生している人達は、しばらくの間は門が開くのを待っていたが、衛兵達からモンスターが街道に現れたことと討伐には時間がかかるということを知ると、次第に人が減っていった。説明を聞いても居続ける人はいて、それらは皆商人のようだった。マイルスの東門からの道は、貿易都市ディルアンに繋がっている。それに関係しているのか。


 そうして彼らを眺めていると、その人ごみの中から数人が出てきて、僕らの方に近寄ってくる。出てきたのは五人。そのうちの四人は武装を固めていて、一人の男性を守るように囲んでいる。護衛されている男性の姿を見て、スッと息を呑む。


 ミラさんの父親、ナイルさんだ。


「こんなところで会うなんて奇遇だね。ヴィック君と言ったかな」


 突然の登場に驚き、返事がなかなかできなかった。返事ができたのは、アリスさんに足を軽く蹴られてからだった。


「お前の知り合いか?」

「あ、はい。ミラさんの父親です。えっと……こんにちは」


 ぎこちない挨拶をした僕に対し、「あぁ、こんにちは」とナイルさんは余裕たっぷりの態度で返された。


「えっと……どうしてここに?」

「東門が閉鎖されていると聞いてね。立ち往生に遭っている者の中には私の知り合いもいるものだから、心配で現地に来てみたというだけの話だ」


 ナイルさんはディルアンの領主だ。そちらに向かう人達の中に知り合いがいるのも不思議ではない。


「それで、君はなぜここにいるんだい?」

「えっと……街道にいるモンスターの討伐に来たんです。師匠達と一緒に」

「なるほど。あなたがそうですか?」


 ナイルさんがアリスさんの方に向く。


「おう。アリス・ガミアだ。冒険者兼傭兵だ。名字の方で呼んでくれ」

「そうしましょう、ミス・ガミア。さて、モンスターの討伐はあなたに任せても大丈夫ですかな?」

「安心しろ。今日中に邪魔な奴らは蹴散らしておく」

「それは頼もしい。知り合いにもそう伝えておこう」

「どうせならもっと大人数に知らせてほしいな。街道のドグラフ共はすぐに片付くから安心しろってよ」

「初対面だというのによくそこまで要求できるものだ」

「権力者の言葉なら説得力があるからな。あんたほどならその効果は絶大だろ」

「ふ。なかなか興味深い女性だな、君は」


 ナイルさんの口角が僅かに上がる。意外にも気に入られたようだ。


「知り合いに伝えておこう。ミス・ガミアとその弟子の二人が早急にドグラフを追っ払ってくれると」

「あぁ。任せときな」

「では頼んだよ。ミス・ガミア、ヴィック君、それに……君の名前は?」


 声が出そうになって、すぐに口を閉じた。

 先日会ったときは、ナイルさんはラトナを知っているような口ぶりだった。あぁもこき下ろすのだから、顔くらいは見たことあるはずだ。しかし本人を前にして尋ねるあたり、僕の隣にいるラトナに気づいていない。


 当のラトナは少し面を喰らっていたが、すぐに笑顔を見せた。


「もー、忘れないでくださいよ、ナイルさん。ラトナですよ、ラ・ト・ナ」

「……あぁ、君か。よく見たら確かにあの頃の面影がある」

「ま、気づかなくても仕方ないっしょ。めっちゃ見た目とか変わってるからねー」

「そうだな。だが君の姿を見れてよかったよ」

「え、そう? ナイルさん、この姿気に入っちゃった?」


 普段通りの陽気な態度を見せるラトナ。反して、ナイルさんは目を細めた。


「落ちぶれた人間がどうなるのか、ということがよく分かったからね。実に良い勉強になったよ」


 氷の様な言葉だった。一瞬にしてラトナの顔が凍り、明るい笑みが張り付いた仮面のように変貌する。


 あの時はほぼ身内だけでの発言だったが、ナイルさんは本人を前にしても言い放った。隠す気などさらさらないのだ。しかも、アリスさんがいるこの場所で。


「そろそろ私も失礼する。ラトナもせいぜい頑張り給え。せめて囮役でもいいから役立てることを祈ってるよ」

「囮役は僕です。ラトナは有能ですから安心してください」

「なるほど。彼女程度で有能な部類に入るのか。冒険者稼業というものは、意外と簡単な仕事のようだな」

「そんなわけな―――」

「うるせぇ」


 言い切る直前、アリスさんに頭を叩かれる。ゴンと脳内で音が響き、猛烈な痛みに悶絶した。


「こんなところで騒ぎを起こすな」

「け、けど、ありすさん……」

「名前で呼ぶなクソガキ。もう一発殴るぞ」

「すみません。師匠」


 これ以上殴られるのは堪えるため、大人しく謝罪した。

 その姿を見て、ナイルさんが「ふ」と笑う。


「弟子を育てるのは大変なようだ。好き勝手する者と出来の悪い者。二人も問題児がいたらさぞ苦労するだろう」

「まぁな。物覚え悪いし、素質もねぇし、動きも鈍い。毎日頭抱えっぱなしだよ」

「そうだろうな」

「けどま、こんな奴らでもやる気はあるんだよ。才能とか能力とかよりも重要なもんだ」


 アリスさんは、眼を鋭くしてナイルさんを睨んだ。


「少なくとも、お前の護衛なんかよりよっぽど役に立つぜ」


 護衛達それぞれの顔が険しくなる。ナイルは顎の角度を上げ、アリスさんを見下ろした。


「ほう。私の目で選りすぐったこの者達よりも、そこの二人の方が役に立つと。親バカ、いや師匠バカというやつかな」

「贔屓目なしの評価だよ。まぁ見てろよ。いずれはあんたの目が節穴だったって証明してやるから」


 アリスさんは「じゃあな」と言って、いつの間にか連れてこられていた馬を引いて門に進む。ラトナはすぐに追いかけて、嬉しそうな顔を見せた。


「師匠、師匠」

「なんだ」

「師匠ってやっぱツンデレですよね」

「黙れ。さっさと行くぞ」


 明るさが戻って一安心した。僕もアリスさんの下へと駆け寄ろうとする。

 その直前に、「ヴィック君」とナイルさんに足止めされた。


「君も、彼女達が役に立つと思うのかな?」


 考えることなく、僕は答えた。


「はい。ラトナは良い冒険者です」


 聞いて、ナイルさんは軽く頷いた。


「そうか。では君も討伐頑張り給え」


 そう言い残して、ナイルさんは護衛達と一緒に離れて行った。


 なぜわざわざ僕に聞いたのか、その理由は不明だった。それを考えようとしたが、アリスさんに呼ばれたのですぐに駆け付ける。

 腹の中に、得体のしれない気味悪さが残っていた。

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