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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第一章 弟子入り冒険者

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12.師と友の顔

「随分と満足気だな」


 調査を終え、馬車に乗ってマイルスへと帰還する道中のことだった。


 長時間の仕事で疲れ果てた僕とラトナは、ぐったりと馬車の椅子に腰かけている。誰が見ても疲労困憊であると思わせる状態だ。

 だというのに、アリスさんの言葉はそれに否を唱えるものだった。


「そう見えますか」

「侮んな。顔がにやけてんぞ」


 感情が顔に出ていたようだ。やはりアリスさんは目聡い。少しの隙も見逃さない。


「結局、一群も倒せなかったのにな。何が嬉しいんだか」


 小馬鹿にした口ぶりだが、言った本人もどこか楽しそうな顔をしている。


「そうですね。最終的には助けられてばかりでした。まだまだ努力が必要ですね」

「あぁ。ワーウルフを含めた群れを倒すには、まだ時間がかかりそうだな」

「僕もそう思います。やっぱ強いですね。あいつがいるせいで攻めきれない感じです」

「そうだな。やっぱ七階層の奴らはちょっと早かったな」

「えぇ。あとちょっと時間が必要ですね」

「あぁ……」


 少しの沈黙の後、アリスさんがくつくつと笑い出してにやけた顔を作り出す。上手く事が進んだと言いたげな表情だった。


「じゃあ、あれがいない階層は問題ないな」

「はい。確実にと言えるほどじゃないですけど、油断さえしなければいけます」

「言ったな。もし助けを求めてきたら破門すっぞ」

「えぇどうぞ」

「はっ、生意気な」


 会話の中、アリスさんは笑みを崩さなかった。どうやらこういう態度が好みらしい。そういえばグーマンさんもこんな風にしていたかな。


「けど、さすがに疲れました。途中からは襲撃が減りましたけど、その分警戒してしまいましたし……」

「そこらのモンスターと比べて賢いからな。一体一体はそれほどじゃないが、ダンジョン中のモンスターが組織立って襲ってくるのが今のレーゲンダンジョンだ。そのせいで《難易度詐欺ダンジョン》って呼ばれてる」

「詐欺ですか……」

「中級モンスターがほとんどなのに、下手な上級ダンジョンよりも踏破が困難なとこがそう言われる。同じような詐欺ダンジョンはあと二つあって、そのうちの一つがエルガルド付近にある」

「そこはどんなダンジョンなんですか?」

「行ってみてのお楽しみだ。自分で調べろ」

「良い師匠ですね」

「今頃気づいたか」


 皮肉も通じず、アリスさんは上機嫌だった。余程、今日の成果が良かったのだろう。


 あの後、仕事は無事に終えることができた。

 僕とラトナが試した戦術は、最初こそ上手くいかずに助けられた。だけど徐々に精度が上がり、調査終了前には一群を追い詰めるまでに向上した。深追いはしないという制約で逃げられることが多く、殲滅できなかったという課題は残ったが……。


 それはともかく、本来の目的はモンスターの脅威を図ることで、それに関しては成し遂げられていた。十分な数のモンスターと戦闘して強さを知ることができ、調査を無事に終えた。帰り道はモンスターの襲撃が無かったので、怪我をすることもなく帰られる。

 最高とは言えないが、十分な結果だと思う。怪我をすることなく帰還でき、そのうえ今後の方針を得て、手応えを感じた。


 今日は弟子入りしてから一番実りのある日となった。明日からはいつも通りの調査兼修行の日々に戻るが、目指すべき道を見つけたおかげで今までよりも充実した日々を送れるかもしれない。

 仕事を終えてへとへとだというのに、もう明日の仕事を楽しみにしている。


「なぁにニヤニヤしてんだよ。気持ちわりぃ」


 そう言って、アリスさんもにやりと笑っていた。




 マイルスに帰ったときには辺りが暗く、人通りが少なくなるほどの時間になっていた。馬車は通りを進んでギルド前で止まり、そこで降りるとそのまま解散になった。


 アリスさんとアルバさんはそれぞれの家へと帰宅する。僕はギルドの食堂で食事を取ってから帰ろうと考えていたが、生憎営業時間は終わっていた。その辺で食料でも買おうかと考えたが、ギルドと同じようにすでに閉められていた。

 この空腹をどうしようかと考えていると、ラトナが僕に提案した。


「うちで来なよ。ご飯あるから」


 あまりの空腹に断ることは考えなかった。即断でラトナの家に行くことにした。


 家に着くと、リビングの窓から明かりが点いている見えた。この時間でも誰かが起きているらしい。おそらくラトナの帰りを待っていたのだろう。玄関ドアを開けると、案の定、中からすぐにベルクが顔を出した。


「おう。遅かったな」

「たっだまー。心配かけちゃてごめーんね」

「ヴィックも一緒か」


 ついてきた理由を説明すると、予想通りベルクは断ることなく中に入れてくれた。

 リビングに入ると、テーブルには一人分のコップしか置かれていない。ミラさんとカイトさんはいないようだった。


「カイトさんとミラさんは?」

「寝てる。自室だ」


 少し意外だった。二人もラトナを待ってると思っていた。


「今はくじょーだと思った?」

「え?」


 心を見透かされたような言葉だった。どきりとしてラトナの方に振り返る。


「今日は遅くなるー。師匠達が一緒だから安心していーよ、って言ってるから。ヴィッキーが思ってるのとは違うんよ」


 事前に帰宅が遅くなることを伝えていて、二人はそれを理解して休んでいたようだ。


「つーか、ベルっちが心配性なだけなんよ。ちょっとは信頼してほしーなー」

「万が一ってことがあるだろ。ほら、座っとけ。飯は作ってやっから」

「わーい。サンキュー、ベルっち。けど先にお風呂に入ってくるー」


 そう言って、ラトナは部屋から出て行った。部屋にはソファーに座る僕と、キッチンで料理を始めたベルクだけになった。


「今日は遅かったんだな」


 食材を切りながらベルクが言った。


「うん。七階層まで行ったからね。時間かかっちゃった」

「行き帰りだけで大変だからな。オレらも六階層まで行ったが、帰ってきたときはもう真っ暗だったからな」

「ムガルの最下層まで行ったの?」

「あぁ。まだ最深部には着いてないが、行くには時間はかからなさそうだ」

「そっか……」


 ムガルダンジョンは全六階層のダンジョンだ。広さがマイルスダンジョンよりも狭いので、モンスターに邪魔されなければ踏破は難しくないそうだ。ベルク達ならそう苦労はしないだろう。


「モンスターとの相性も悪くない。マイルスダンジョンではお前より後だったが、今度はオレらが先に踏破できそうだぜ」

「うん。ベルク達ならできるよ」

「まぁな。そっちはどうだ? 今日も疲れただろ」

「いつもよりね。けど、一番充実してたよ。アリスさんとアルバさんにいろいろ教えてもらってね、けっこう手応えがあったんだ」

「アルバって……傭兵の人か?」

「そう。お陰であと少しで、ドグラフやワーウルフに勝てそうなところまでいったんだ」

「……へぇ」

「傭兵ならではの考え方や戦い方とか参考になったし、アドバイスをもらえたんだ。とても勉強になったよ」

「…………そうか」

「アリスさんのこともいろいろと知れたんだ。普段はムカつく人なんだけど、なんだかんだで大役を任されてる人は違うなーって思い知らされたよ。まだちょっと怖いけど、あの人の下でなら頑張れそうだって―――」

「わりぃヴィック」


 唐突に、ベルクが話を遮った。


「ちょっと料理に集中するから、少し静かにしてくれないか」

「あ、うん」


 素直に黙ると、ベルクは静かに料理を再開した。


 ベルクと一緒だと話が進む。初めての同性の友達なだけあって口が軽くなってしまう。

 もう少し話したかったけど、料理をするのなら仕方がない。ソファーに体を預けて料理の完成を待つことにした。


 真剣に作ってるのか、ベルクの顔に笑みは無かった。

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