25.父の相方
「当時の私は特定の拠点を持たず、様々な土地を巡りながら冒険をしていた。旅をするのが好きだったという理由もあるが、人脈を作るためでもあった。このときから将来はクランを作ろうと考えていたからだ」
「ジークと出会ったのはマイルスの冒険者ギルドだった」
「依頼を受けようとしたところ、あいつは私と同行することを頼み込んできた。人手が欲しかったので私は快く受け入れた」
「その後何度も依頼に同行することがあり、気が合ったことからチームを組んで冒険することとなった。いろんな街を訪れ、いろんなダンジョンへと向かった」
「ときに笑い、ときに悲しみ、ときに怒り、ときに喜んだ。あいつとはとても楽しい旅をしたものだ。あの度は一生忘れられないだろう」
「ジークと別れることになったのは、このエルガルドでだ」
「エルガルドに来たのは上級冒険者になるための昇級試験を受けるためだった。共に冒険に出て腕を磨いていたのだが、あいつはとある商店の女性と出会った」
「君の母親、メリー・ライザーだ」
「メリーが働いていた店は、お世辞にも流行っているとは言えなかった。品揃えが悪く価格も高い。私達がその店に訪れたのもただの気まぐれで、そうじゃなければ入店することは無かっただろう」
「あいつは何度もその店に通った。一目惚れでもしたのだろう。何度も足しげく通って口説き、とうとう結婚することとなった」
「だがそれは、奴が冒険者を辞めるきっかけとなった」
「メリーは体が弱かった。長い間働くことが出来ず、一日中ベッドから出れない日があるほどだった。医者の話によると、肺が弱く、エルガルドの空気がメリーに合わないことが原因だった」
「だからジークは、自然が多く空気が良い地元でメリーと暮らすことを決めた。それがジークが冒険者を辞める理由であり、私達のチームが解散することになった理由だ」
「それから数年間、私はエルガルドで、奴は生まれ故郷でメリーと一緒に日々を過ごした。その間私達は出会うことは無かった」
「……」
「奴が死んだと聞いたのは、チームを解散してから六年後だった」
「メリーと一緒にいたところにモンスターに襲われて死んだそうだ。子供を一人残して、親戚が引き取ったということも聞いた」
「……」
「奴が子供を残して死んだと聞いて、君を引き取ることを考えた。長い間苦節を共にした相方だ。そいつの子供に情くらいは移る。だが生まれ育った地で過ごすのが幸せかもしれないとも思い、結局は何もしなかった。私達はもう二度と会うことは無い。そう思っていた」
「だから君の名前を聞いた時は、心の底から驚いたのさ。かつての相方の子供と会うことになろうとは思っていなかったからな」
「最初はこのことを打ち明けようか悩んだ。だが今の君の姿を見て思った。苦悩する君をジークが見たらどうするか、助けてやるんじゃないかと」
「私は何度もジークに助けられた。私はその恩をいつか返そうと思っていたが、ジークが死んだことでできなくなったと思っていた」
「だが今は君がいる。君を育てることで、その恩返しをさせて欲しい」
「一緒に、ウィストの隣に相応しい冒険者になろうじゃないか」
「ヴィックー! 大丈夫だった?!」
「あー、良かった! なんか大丈夫そう! 心配したんだよ、もう!」
「え、なんか歩いてたらヴィックが闘技場にいたって話が聞こえたんだ。しかも怪我してたかもって言ってたからさ、急いで来たんだよ」
「で、本当に大丈夫? 怪我してない?」
「……そっかそっか。たいした怪我はしてないんだね。良かった良かった」
「けど明日は念のため休みにしよっか。頭怪我したらヤバいっていうし、ここんところ毎日冒険してたから、たまには休日も入れないとねー」
「ということだし、もう遅いからそろそろ帰るね。ヴィックも夜更かししないで早く寝るんだよ」
「……え、話がある? どうしたの急に?」
「……」
「体験入団? 『英雄の道』に? 私とヴィックが?」
「え、どういうこと? なんでそういうことになってるの?」
「……」
「……」
「……」
「……そっか。ヴィックのお父さんとロードさんが昔の仲間だったんだ。そんなに大事な仲間だったんなら、そう思うのかもしれないね」
「けどヴィックはいいの? クランに入ったら今までと同じように冒険できないかもしれないよ」
「……うん、そのための体験入団ってことは分かるよ。実際にクランでの活動を体験してみて、それで良さそうだったらちゃんと入団しようってことでしょ」
「『英雄の道』に入ったらいろんな依頼が受けれるし、知識も技術も身につけられる。今より強くなれると思うよ」
「だけど……」
「……」
「……」
「……ごめん。ヴィックもいろいろと考えてそう決めたんだよね。思い付きで否定するべきじゃないよね」
「うん、わかった。私も入るよ。明日、『英雄の道』に行って手続きすればいいんだよね。休みにするつもりだったから丁度良いね」
「じゃあ明日の朝、ギルドで待ち合わせてから一緒に行こっか」
「うん。じゃあまた明日。お休みー」
「……」
「ちゃんと寝て、身体を大事にしてよね」
「またね」
翌日、ウィストがギルドに来ることは無かった。




