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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第四章 寄生冒険者

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23.闘技場

「お前、何しにここに来たんだ?」


 闘技場の受付前に並んでいると後ろからユウに声を掛けられた。ユウはあまり部屋に戻らないため最近会っていなかったが、特に変わった様子はなく元気そうだった。


「ここはただモンスターと戦うだけの場所だぜ。冒険好きのお前が来るところじゃねぇぞ」


 ユウが鋭い目つきで僕の様子を窺っている。今まで闘技場に興味が無い素振りを見せていたので怪訝に思うのも無理はない。


「ただ戦うためだけに来たんだよ。強くなるためにね。ユウと同じさ」

「……まじか」


 意外そうな反応を見せた後、ユウの表情が綻んだ。


「いいじゃねぇかいいじゃねぇか! やっぱ強くなるには闘技場だよな! 分かってんじゃねぇか」


 ユウは上機嫌に僕の肩を何度も叩く。表情にも笑みがあり、子供のように無邪気に喜んでいる。


「ここだったら外に出ずに何回も戦えて効率が良いんだ。色んな奴と戦えるのも良い経験になるしな。最悪ギブアップもできるから雑魚でも安心して戦えるぜ」

「詳しいんだね」

「そりゃそうだ。オレ様はここのチョーレンだからな。もう千回くらいここで戦ってるぜ」

「チョーレンじゃんくて常連でしょ」


 千回は数を盛っているだろうと思ったが、僕の質問に対してスラスラと答えを返してくれる様子から闘技場に慣れていることは確かだと思った。


 闘技場には様々な種目の競技があり、そのなかで挑戦者一人で行える競技は三つある。『クラスバトル』、『レース』、『デッドライン』だ。

 クラスバトルは挑戦者が指定したレベル帯のモンスターと一対一、または一体複数の勝負を行う競技だ。シンプルで分かりやすい種目のため、初めて闘技場に来る冒険者の大半はこの競技に挑戦する。レースは闘技場が指定した様々な種族のモンスターと順番に戦い、最後のモンスターを倒したときの時間で他の挑戦者と勝負する競技だ。様々なモンスターと連続で戦い、さらに速度が求められるので戦闘能力が試される。そして最も難しく、最も人気のある競技のデッドライン。ただこれは危険な競技のため、初めて闘技場に来た者は参加できないことになっている。


 僕が参加できるのはクラスバトルかレースだ。初挑戦なのでクラスバトルが無難だが、時間帯と挑戦者の状況次第では同日に二回以上の挑戦が出来ない場合が多い。クラスバトルを選べば今日は一回戦っただけで終わってしまう可能性が高い。せっかく実践的な鍛錬をしに来たというのに一回だけでは物足りない。となると、選択肢は一つだ。

 受付の順番が回ってきた僕は、参加する競技を伝えた。


「レースに挑戦します」


 今回のレースに指定されたモンスターは一体を除いて知っている相手で、しかもその相手は下級だ。負けそうになったらギブアップも出来る。分の悪い勝負ではないと思った。

 受付を終えると出番が来るまで控室で待機することになった。ユウも僕と同じようにレースを選んでおり、僕の後に挑戦するようだった。


「初挑戦でレースを選ぶとかやるじゃねえか。他の奴らはビビってクラスにするのによ。ま、オレ様もレースだったけどな」


 今日のユウは機嫌が良い。控室には先に僕が入りその後にユウが来たのだが、僕を見つけるとすぐに駆け寄って話しかけてきたほどだ。特に何かしてあげた記憶は無いのだが……。


「レースの方が都合が良いから。ユウは何度も挑戦しているんだよね。何か気を付けた方が良いことがあったら教えてくれない?」


 いつもなら断られそうだったが、ユウは「良いぜ!」と気持ちいい返事をした。


「大事なのは観察力と時間配分だ。雑魚にあんまり時間をかけてたら他の奴に負けちまうからな。だから手際よく倒して時間に余裕をつくって、やばい相手に時間をかけても良いようにすることだな。だが雑魚でも油断すれば粘られたり反撃されて怪我することもあるから、ちゃんと見る必要もあるぜ」


 失礼だがユウの口から出たとは思えないほどの適切なアドバイスだった。ちょっとした話題提供のつもりだったが、大いに参考にすることにした。


「ありがとう。なんか今日のユウは優しいね。何か良いことでもあったの」

「あ? ねぇよそんなの。調子に乗んな」


 言葉こそ冷たいが声と表情は明るい。ここまで上機嫌だと逆に不気味である。受付で話しかけられた時はそうでもなかったのに、何が理由でこうなった。


 その後しばらく話をしていると、闘技場のスタッフが来て僕を呼んだ。次が僕の番なので出入り口の手前で待機してほしいとのことだった。控室から出ようとしたとき「頑張れよ」とユウが励ましの声を掛けてくる。ここまでくると何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。終わったら改めて理由を聞いてみようと決心した。

 出入り口は大きくて重そうな両開きの扉だった。この先にモンスターと戦う場所であるフィールドがある。扉は全面が鉄でできているので、モンスターの攻撃を受けてもちょっとやそっとじゃ壊れ無さそうだ。だが窓が付いてないのでフィールドの様子は見えない。スタッフは離れていったので、何も無いところで出番が来るまで一人で待つことになった。さっきまで騒がしかったので、この静かな時間が少し落ち着かなかった。


 扉の前で待機していると、突然大きな歓声が聞こえてきた。そのあと少ししてから扉が開いて挑戦者が出てくる。怪我をしていないようなので挑戦者が勝ったのだろう。フィールドを見ると動かなくなったモンスターを運び出すスタッフの姿が見える。その後すぐに他のスタッフが扉が閉めて「次に扉が開いたら入ってください」と言った。それまで再び待つことになったが、もうじきだと思うと先程よりかは気持ちは楽だった。

 そして十分ほど経過した後、扉の奥で人が動く気配を感じた。そろそろだと思い息を整える。フィールドの周りには千人を軽く収容できそうな階段状の大きな観客席がある。先程フィールドを覗き見たときには半分ほど埋まっていた。大勢の人に見られながら戦うのは初めてだった。


 もう一度大きく深呼吸していると扉が開き始めた。ひと一人通れるくらいまで開いたところでフィールドに進む。少し急いじゃったかなと気にしたが、そんな些細な反省点はすぐに頭から消し飛んでしまった。

 フィールドに入った直後、満員の観客席からの歓声が聞こえてきたからだ。


「さぁついに、シーズン最終日を迎えたレースの最初の挑戦者が入ってきました!」


 音を大きくする『拡音石』から発生した声が闘技場に響き渡る。闘技場には競技を盛り上げるために、競技を盛り上げるためのスタッフもいる。競技の展開を伝える実況者と展開を詳しく説明する解説者だ。


「最初の挑戦者はヴィック・ライザー! なんとエルガルドに来て早々遠征に参加し、更には邪龍体の捜索に貢献していたと言われており、さらには邪龍体を討伐したウィスト・ナーリアの相方として活動している冒険者です!」

「これはかなり期待できそうな挑戦者ですね。展開によっては現時点での最速記録の更新もありえます」

「ヴィック・ライザーは王都マイルスの冒険者ギルドの出身です。以前までマイルス出身の冒険者の評価は低かったのですが、近年はその評価を改めるほどの活躍ぶりを見せています。今回はその真価が明らかになるかもしれませんね」


 さらに大きな歓声が観客席から発せられる。声に体が押しつぶされそうだった。人の声はここまで重くなれるのか。

 胸が苦しい。息が重い。いつもどんなふうに呼吸をしていた?


「それでは早速、対戦相手となるモンスターに登場してもらいましょう! まず一体目のモンスターはこちらです!」


 フィールドを挟んだ反対側の扉は、僕が入って来た扉よりも二回り、いや三回りも大きい。その扉が横に滑るように、左右に分かれて移動して開き始める。その扉が半分ほど開いてから、僕の相手であるモンスターが大きな檻に入った状態出てきた。


「一体目は下級モンスターのグロベアだ!」


 グロベアは今回の相手として出てくるモンスターの中で一番やり易い相手だ。マイルスに居た頃に何度も戦った相手だ。

 緊張していた体が少しだけ解れる。さっきの状態で他のモンスターと戦っていたら一体目で負けていたかもしれない。だが初戦からグロベアなら勝ちの目は十分にあるし、終わった頃には緊張も解けているだろう。


 予想外の環境に戸惑ったがツキはある。改めて気合を入れ直し、開始の合図を待った。

 檻の横には鍵を開けようとするスタッフがいる。スタッフが観客席の近くに視線を向けると、そこには審判と呼ばれるスタッフがいる。彼らが競技の開始や終了といった判断をする役目だ。審判はスタッフの状況を確認すると実況席に視線を送り、実況者がそれを確認した。


「それではそろそろ競技を開始いたします」


 審判が僕に視線を送り、その後右手を上にあげる。


「レース……開始!」


 審判が右手を振り下ろすと同時に、檻の鍵が開いてスタッフは檻から離れた。その後、モンスターが檻から出てきてフィールドに入って来て僕に近づいてくる。僕は剣と盾を構え、グロベアに向かって前進する。


 グロベアとの、レースの競技が終わったのはその十分後だった。


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