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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第四章 寄生冒険者

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18.蹂躙する者達


 我々は家畜だった。鼻の大きな二足歩行のモンスターに飼われ、産まれたときから奴らに食べられるためだけに生きていた。多くの同胞と共に木と岩で囲まれた場所に隔離され、歯向かうことも逃げることもできなかった。


 何故なら我々は、この地で一番弱い生物だったからだ。


 奴らに歯向かっても一方的に嬲られる。逃げようにも囲いを超えることも壊すこともできない。もし逃げられたとしても他の生物に倒されるのが目に見えている。つまり大人しくこの場所に居続けることが、最も長生きできる方法だった。

 若い頃はこの環境に怒りを覚えた。我々を閉じ込めている奴らに憎しみを抱き、何度も殺してやろうと思った。だが奴らとは圧倒的な体格差があり、それを覆す術もない。そして大人達がすでに諦めている現状を見て、それが不可能だと気づきつつあった。

 何もできない。やっても何も変わらない、と。

 同時期に生まれた同胞は、既にその境地へと至っていた。この牢獄から逃げることを諦め、ただ怠惰に日々を過ごしている。いずれ自分も、自分よりも若い同胞も同じようになる。そうなるのだけは嫌だったから、せめてどうやれば逃げられるかを考えることだけは続けていた。


 実行できない脱走計画を考え続けていたある日、我々の住処にある物が落ちてきた。それは黒く輝く石のような物体だった。だがそれは石ではなく食べられるものであり、この世の物とは思えない異質な物体であることを直感で察した。

 さらにこれが、意思を持った生物であることも。


 住処に落ちてきたそれを、最初は誰も触れられなかった。だが最年長の同胞がそれに触れ、何度か触ったときにそれを食した。「食べろ」という意志を受けたからと同胞は言っていた。

 そしてそれを食べた瞬間、同胞の雰囲気が変わった。毛が黒く、体が大きくなり、我々とは異質な存在になったことを肌で感じた。

 同時に思った。こいつなら奴らにも勝てるんじゃないかと。


 変化した同胞も同じことを考えたのか、同胞は異変を感じ取って入って来た奴らに襲い掛かった。その速度は同種とは思えないほどの速さで、確実に奴らの不意を突けた攻撃だった。同胞の勇気のある行動に、自分も続こうと思っていた。

 だがその機は訪れなかった。


 同胞の襲撃は成功した。だがそれは最初だけであり、同時に入って来た奴らの仲間によってあっけなく捕らえられ、その場で滅多打ちにあった。何度も何度も叩きつけられ、終には動けなくなってしまった。


 呆気なかった。反乱の芽はすぐに潰され、我々が現況を打破する最初で最後の機会を失った。もう我々は、ここから出られない。一生この場所で過ごし、奴らの餌となって死ぬ。そのことを自分だけではなく、多くの同胞がそれを理解した。

 奴らは殺した同胞を我々の近くに投げつけた。そこはいつも奴らが我々の食事を置いている場所だった。そして奴らは醜い笑みを浮かべて何か言った後に囲いから出て行った。


 奴らが何を言ったのか、何で笑ったのか、奴らの言葉を知らなくても理解できた。その瞬間、体の奥底で眠っていた感情がぐつぐつと沸き起こった。

 憎悪。奴らに対して抱いていた、だけど失いかけていた感情だった。勇気を持って戦った同胞を侮辱されたことで、再びその感情が蘇った。他の同胞も同様だった。若い同胞だけではなく既に諦めていたはずの同胞も、奴らがいる囲いの向こうを鋭い眼で睨んでいた。

 そして一同の想いが一つになった瞬間、途端に誰かに呼ばれたような気がして同胞の死骸を見た。完全に息絶えており、ピクリとも動かない同胞の体。共食いの習慣は無い我々だが、それを見た瞬間、自分だけではなくすべての同胞が同じ想いを抱いた。


 食べたい、と。


 つい先程までは全く思わなかった。同胞の死骸を食べることを嫌い、食べるならいっそ食事を抜こうかと思ったほどだった。だが今は無性に食べたくなった。否、食べないといけないと思った。

 我々はすぐに勇気ある同胞の死骸を食べた。だが独り占めする者はおらず、皆一口食べただけで死骸から離れて他の者に食べさせた。全員が食べられるように、全員に彼の体が行きわたるように。


 仲間を食べる我々を奴らは囲いの上から笑いながら見ていた。腹を満たすためならば同胞すらも食べる我々を卑しく哀れな存在だと思ったのだろう。だが我々全員が彼の体を食べ、彼と同じ存在に変化した後、奴らの顔から笑みが消えていた。

 我々は囲いを跳び越え、眼に見える全ての奴らに襲い掛かった。彼だけでは何もできずにやられてしまった。だが同胞と協力すれば奴らは的を絞り切れずに後手に回る。その間に奴らの動きを封じて喉を引き裂き、顔を食い千切った。他の同胞も同じようにして奴らを狩った。


 奴らを殺し尽くすのに時間はかからなかった。我々は勝利の雄たけびを上げた。そして今まで我々を散々虐げてきた奴らを、今までの憎しみを晴らすかのように一つ残らず食い尽くした。だが復讐を果たし、胃袋を満たすほどの食事をしたにも関わらず、我々の感情が満たされることは無かった。

 その疑問はすぐに解けた。


「まだだ。我々はまだ復讐を終えていない。我々を侮辱した奴らはまだ残っている」


 この地は多くの生物が生息している。そいつらは我々を侮辱し見下している。奴らがいなくなるまで、我々が満たされることは無い。

 全ての同胞が同じ答えに至った。この地にいる全ての生物を狩り尽くす。そのために我々は道行く生物全てを狩っていった。我々よりも遥かに大きな生物も、我々よりも多い群れをつくる生物も、我々よりも賢い生物も、我々は悉く食い尽くした。


 今宵も同じように食い尽くすつもりだった。そいつらは手で物を持ち、囲いの中に住んでいる二足歩行の生物だった。我々を飼っていた奴らに似ていたこともあり、そいつらに対して強い怒りを抱いていた。

 我々はいつも通りにそいつらに襲い掛かった。他の生物同様にそいつらは我々の襲撃に碌な反撃が出来ずに受けに回り、その隙に別方向から同胞が囲いの中に侵入した。後は囲いの中と外で暴れまわって相手を混乱させて、隙を見せた獲物を狩るだけだった。


 自分は中に侵入して暴れまわる役目だった。未だにこの状況に対応できていない獲物を攻撃し、怪我を負わせて弱らせていたときだった。だが突然同胞の血の匂いを嗅ぎ取って、匂いのする方へと駆け付けた。同じ志を抱く同胞を減らしたくなかった。

 駆け付けた場所にはすでに多くの同胞が着いていた。同胞達が見ている先には二つの生物がいる。そいつらの前には腹を裂かれた同胞の姿があった。

 奇しくもあの時と同じだった。勇気ある同胞が殺されたあの時と。


 我々の怒りは頂点に達した。体中に力が漲り、言葉を交わさなくても狙いが一致した。何よりも優先してあいつらを殺すと。

 今まで以上の速度と力で、我々は奴らに襲い掛かった。怒りで頭に血が上っていても我々は過去最高の連携が出来ていた。しかも我々の毛皮は、多くの生物の牙や爪を通さないほどに分厚くて硬いものになっている。もし反撃されようとも耐えきれる自信があった。

 だというのに……、


「ばか、な……」


 なぜ我々が狩られているのだ?






 マイルスに居た頃、演劇を見たことがあった。依頼の報酬に演劇の招待券が含まれていて、興味もあったため見に行った。

 演目は忘れたが動きが多かったことを覚えていて、特に印象に残ったのは主役の戦闘シーンだ。それは息つく間もなく襲い掛かって来る敵を、主役が次々と斬り倒している様に爽快感を抱き、その動きに感嘆したからだ。


 彼の動きには迷いが無くて正確で、それ故に美しかった。おそらく何度も練習したのであろう。彼の動きには迷いが無く、堂々としていた。僕もあんな風に動いてみたい。そう思えるほどの演技だった。

 そして今、そのときと同じような光景を目にしていた。

 十頭ほどのグルフがエギルとウィストに襲い掛かる。眼にも止まらぬほどの速度の突進が多方向から、しかも時間差で二人に向かっていた。普通なら避け切ることも受け切ることもできないはずだ。だがウィストはそれらをすべて回避し、エギルは湾刀で捌き切る。視野の広さと反射神経が無ければできない芸当だ。背中に目が付いているのではないかと思ってしまった。

 続けざまにグルフが二人に襲い掛かるが、二人はほぼ同じタイミングで反撃を始める。二人は跳びかかって来るグルフを回避し、すれ違いざまに剣を振るう。するとあの硬い毛皮で覆われた体から血が噴き出て、斬られたグルフは着地できずに転倒していた。


「凄まじいな」


 いつの間にかロードさんが隣に来ていた。調査の時と同じように武装しているが、戦った形跡が見られない。今準備を終えたばかりなのだろう。


「ここに来た冒険者は皆強者だ。彼らは並大抵の困難に直面しても難なく対応できるだろう。そんな彼らが苦戦する相手を、あの二人は圧倒している。まるで雑魚を相手にするかのように……」


 くつくつと笑いながらロードさんは言う。


「これでは、苦戦している私達は雑魚以下ということになってしまうな」


 自分を卑下した発言だが、嫌味を言っているようには聞こえない。むしろ喜んでいるように見える。あの二人の戦いぶりを見て嫉妬すらもしないのは大人の余裕なのか、それともすでに諦めているから他人事のように見ているのか。

 僕は二人との差を痛感しているというのに。


「この場は二人に任せた方が良いだろう。私達はここの補助員が襲われないように警戒して―――」


 突如ロードさんが一歩踏み出し、僕に向かって剣を振るう。ロードさんの剣は僕の首を捉えており、予想外のことに反応が遅れてしまった。だがロードさんの剣は僕の首を切る直前で止まり、その直後に後ろから生暖かい液体が首にかかった。振り向くとグルフが目の鼻の先にまで接近していた。


「音もなく近づいてくるとは、冷静なモンスターだな」


 ロードさんはグルフに刺さった剣を抜き取った。あれほど硬い毛皮を貫けたのは装備の違いか。それとも腕の差か。


「あの、どうやって斬れたんですか。こいつの毛皮、すごく硬いのに」


 思い切って聞いてみるとロードさんは躊躇うことなく答えた。


「なんとなくだ」

「……なんとなく?」


 少し考えて意図を察した。正解を教えてくれる気は無いということを。

 がっくりと肩を落とすと、ロードさんは続けて言った。


「何十頭何百頭ものモンスターを討伐していると、過去の経験と培ってきた勘で分かる。このモンスターはここを攻撃すれば良い、ここを狙えば良いと。モンスターの特徴が分かれば理屈で説明できるが、初見のモンスターにはそうやって対応している。これは私に限らず、経験豊富な冒険者なら誰もができることだ」


 嘘ではないことに安心して、同時に納得した。今回のグルフはともかく、似たような経験があったからだ。初めて見るモンスターに対して攻めきれないときに、過去の経験を思い出して攻略したことに。ロードさんほどの境地には至ってないが、僕も同じようなことをしていた。

 それと同時に、また二人との差を実感した。


「つまりあの二人は、ロードさんと同じようなことをしているんですか?」

「その通りだ」


 再び躊躇うことなくロードさんは言った。


「数年、いや十年以上の経験によって得られる技を、あの二人は既に獲得している。努力や環境では埋めれない、圧倒的なほどの才能をあの二人は持っている。おそらく私達とは違う世界が見えているのだろう」


 十頭近くいたグルフは、今や二頭しか残っていない。その二頭も怪我をしていて今にも倒れそうだ。じきに決着が着くだろう。対してウィスト達には疲労が見られない。まだまだ戦えそうなほどの余裕がある。僕達があれほど苦戦した相手に。


 昔はグルフを相手取るのは僕の方が得意だった。だけど彼女はその弱点を克服し、今や圧倒するほどになっている。本来なら喜ばしいことなのに、なぜかそんな風に思えず悔しがっていた。


 そんな風に彼女に気を取られていたから、僕は気づいていなかった。

 強烈な邪龍の気配を持つ生物が、小拠点に近づいていたことに。


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