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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第四章 寄生冒険者

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15.小拠点

「上だ!」


 僕が叫ぶと同時に、ウィストは上を見ずに後方に跳ぶ。その直後にさっきまでウィストがいた位置に、上からモンスターが降って来る。ワンキーと呼ばれる獣人型のモンスターだ。顔はドグラフに似ているが、体つきはエンブに近い。前脚を手のように使って木を上ったり、鋭い爪や牙を駆使して攻撃して来る。体格は僕よりも小さいが、その分軽いので立体的な動きをするのが特徴だ。

 すばしっこいうえに鋭い武器を持つワンキー。それが二十匹ほど集まった集団に僕達は襲われていた。


「くそっ。ちょこまかと動きやがって」


 オリバーさんが悪態を吐く。無理もない。初動こそいきなり襲い掛かって来たワンキーを三匹ほど返り討ちにできたが、その後は警戒して迂闊に攻めかかって来なくなった。僕達を逃がさないように囲んで、プレッシャーを与え続ける作戦を選んだようだ。そのせいでこちらから攻めかかっても退かれ、その際に跳びだして来た味方を他のワンキー達が攻撃されてしまう。その結果攻め続けられなくなり、再び膠着状態に戻ってしまう。そのパターンが何回も続いていた。


「パワーが無いからな。速度と数でじっくりと仕留めるつもりなんだろね。モンスターにしちゃ頭の良い作戦だよ」

「ワンキーは知能が高いモンスターだからな。これくらいの戦術は使えてもおかしくない」


 普段は後方で指揮をしているロードさんも、この場では剣を握っている。派手な装飾が付いた直剣だ。刃も綺麗で上等なものだと推測できた。

 完治したばかりの僕も武器を構える。だがワンキーは相変わらず遠巻きに僕達を見ているだけ。僕達が動かない限り手を出しては来ない。完全に僕達を待ち構えて、持久戦を徹底するつもりのようだった。

 長引けは数の多いワンキーが有利になる。無理矢理にでも打開するしかないが危険だ。下手に突っ込めばワンキーに袋叩き似合うだろう。


「全員で突撃しますか? 全員で固まって動いたらお互いを守り合えると思いますが」

「そうだな。それが一番被害が少ないだろう。どうする、エギル」

「くだらねぇ」


 エギルが呆れた顔をしていた。


「こんな下級程度のモンスターになにビビってんだ。適当にあしらえば楽勝だろ」

「ワンキーは中級だよ。それに場所が悪い。こんなに障害物が多い場所だと上級並みに厄介よ」

「だからお前らは雑魚なんだよ。おい、ウィスト」

「……なに」

「俺様が突っ込む。そしたら猿共が集まって来るからその後に来い。他の奴らは遠くにいる猿を片付けとけ」

「そんな勝手に―――」


 ウィストが言い切る前にエギルが突入する。その速さに対応できない一匹のワンキーがエギルの湾刀によって切り伏せられた。その直後、四方八方からワンキー達がエギルに跳びかかった。

 エギルはワンキーの攻撃を回避しつつ反撃する。流石に数が多いせいか、攻撃よりも回避の方に専念しているようだ。周囲のワンキーの数は一向に減らない。それでも一撃も喰らわないで躱し続けるのは流石だが。


 そして周囲のワンキーがエギルの近くに集まったとき、ウィストが「もうっ」と呟きながら走り出す。ウィストの援護に一匹のワンキーが気づくが、その直後にウィストの双剣に斬りつけられた。そのときのワンキーの悲鳴で周囲の同族がウィストに気づいたが、その瞬間にエギルが湾刀を振るう。ワンキーがウィストに気を取られた隙を狙った反撃だった。

 エギルの反撃にワンキー達が戸惑い始めた。その隙を突き、ウィストも双剣を振るう。別方向からの攻撃に混乱し、統率が取れていたはずのワンキーの動きに乱れが生じ始めた。


 いくら数が多くても、一匹一匹はたいした強さを持たない。混乱状態に陥れば、地力のあるウィストやエギルを押さえつけられるわけがない。ここからは一方的な展開になるだろう。


「おい、ヴィック。あたしらもまだ仕事はあるぞ。あっちにも残ってんだからな」


 ウィスト達の反対側にもワンキーがいる。仲間の様子を見て慌てているようだが、落ち着くのを待つわけにはいかない。逃がしたら他の場所にいる仲間を呼ばれる可能性もあるので、早急に仕留めたかった。


 僕はルカ達と一緒に残りのワンキーを片付けに行った。そうすることで少しでも気を紛らわせたかった。

 ウィストが隣に居ないことを忘れるために。




 調査が始まってから一ヶ月半経った。最初こそモンスターが生息する土地のど真ん中で長期間過ごすことに不安はあった。しかし今ではこの生活にも慣れ、グループ外にも話し相手ができた。僕個人の生活は順調だったが、捜索は少し難航していた。

 二体目の邪龍体討伐以降、他の邪龍体が見つかっていないのだ。当初予定した捜索範囲を毎日調査したが、姿どころか痕跡すら発見できていない。それどころか邪龍体の気配すら感じ取れない。これは近くに邪龍体が居ないことを示していた。


 邪龍体を逃がしてしまえば、いずれ邪龍に成長して人々を襲いに来る。今回の遠征はそれを未然に防ぐのが目的だった。それが失敗すれば多くの人々が犠牲に遭うだけじゃなく、参加した冒険者達への責任の追及は待逃れない。そのため、進展が無いことに焦る者が現れていた。


 焦りや不安を口にする者が目に見えて増え始めた頃、この閉塞感を脱するためにロードさんが手を打った。それは新たな調査拠点をつくり、捜索範囲を広げるというものだった。

 今までは陽が落ちる頃には調査拠点に戻っていたため、捜索できる距離に限界があった。全員の調査結果を得られるうえに十分な補給ができていたが、邪龍体が捜索範囲の外側に居た場合は見つけられない。そして拠点付近には邪龍体がいないことを確認した以上、捜索範囲を広げるしかなかった。そのために新たな拠点が必要だった。


 いくつかのグループをまとめて二十名前後の新たなグループを三つつくり、そこに補助員となる料理人や看護師等が加わって三十人ほどになった。そして指定された場所に行くと生活に必要な施設を作って新たな拠点、小拠点を作った。今まで生活していた本拠点に比べたら狭いうえに設備も少ないが、最低限の生活は出来た。

 そして小拠点から捜索を始めて一週間、ようやく新たな兆候を発見した。


「やっぱりなんか変ですね」


 ワンキーの群れを壊滅させた後、ルカがロードさんに言った。


「ワンキーは好戦的だけど賢い。戦力に差があると判断すれば逃げ出すことができるモンスターです。しかし今回は全滅するまで戦った。あんなにも力の差を見せつけられたのに……」

「戦わなければ理由があったのだろう。そういう場合はいくら知能が高くとも戦わざるを得なくなる」

「戦わないといけない理由……」


 僕は近くに倒れているワンキーを見た。僕に胴体を切り裂かれた個体だ。しゃがんで体を触ったり、両手で持ち上げたりしてみた。

 同じくらいのサイズのモンスターを触ったことはある。そのときよりも少し軽いように感じた。


「……もしかしてお腹が減っていた、とか?」

「その通りだ」


 ロードさんがそう断言した。


「このワンキー達は今まで見てきたワンキーよりも細い。そのうえ今回は動きも鈍かった。おそらく腹を空かして体力が無かったのだろう。だから持久戦を仕掛けたのだと考えられる」


 あのときのワンキー達が僕達を囲んで待ち構えていたのは、突っ込んできた僕達に反撃するためだと思っていた。だが実際は積極的に攻撃する体力が無いから、動きを少なくして体力を温存していたということだ。ロードさんはそれを見ただけで看破していた。流石『英雄の道』の団長である。経験と知識量が段違いだ。


「この土地には食料が多い。それでも食料を得られなかったという事は、それらを別のモンスターに奪われたという事だ。しかも生態系を乱すほどに」

「つーことはこの辺にいるんだな。邪龍体が」

「その通りだ」


 エギルの質問に、ロードは断言して答えた。するとエギルはニヤリと笑った。


「幸先良いな。さっさと始末して本拠点に戻ろうじゃねぇか」


 小拠点には本拠点にあったような休憩所は無い。そのうえ酒も少ないためエギルはこの生活に不満を募らせていた。捜索中、その愚痴を何度も聞かされた。だから本拠点に早く戻るため、邪龍体の捜索には積極的になっていた。


「けどそんなに食べるモンスターが居るんですね。邪龍体になったせいなのかな」


 ウィストが疑問を口にすると、ルカが「少し気になるね」と返す。


「ワンキーは雑食だ。モンスターを狩れなくてもそこら辺にある果物や木の実も食う。直接的な原因は邪龍体じゃないのかもしれないね」

「同じワンキーの群れに襲われて、縄狩りから追い出されたんじゃねぇのか。そいつらは邪龍体に追われて元の縄張りから逃げ出してきた奴らとか」


 オリバーさんも加わって見解を述べると、ウィストが「なるほどねー」と呟いた。


「最初に縄張りを奪われた群れが別の縄張りを占領して、そこから追い出されたのがこの子達ってことか」

「そうかもしんないね。そうなると一番気になるのはその邪龍体だね」


 ルカが真剣な顔つきで言った。


「数十匹の群れで生活しているワンキーを縄張りから追い出した。それができるモンスターは、未開拓地でもそうそういないはずだからね」


 その言葉の意味を察すると、僕は聞こえないように溜め息を吐いた。分かってはいたが、改めて思い直す。

 邪龍体に楽な相手はいないということに。


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