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冒険者になったことは正解なのか? ~守りたい約束~  作者: しき
第四章 寄生冒険者

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12.足手纏い

 「受けるのが得意」と言った言葉に嘘は無い。盾役としての鍛錬を積んできたので、防御には自信があった。

 だが恐怖心が無いと言ったらそれは嘘だ。四メートル近くの巨体が高速で跳んでくるのだ。恐くないわけがない。


 それでも、前に出なければいけない。


 火杭が杭撃砲に装填されていることを確認してからウィストに声を掛ける。


「ウィスト! こっちに誘導してくれ!」


 ウィストはニャガの攻撃を難なく回避すると、「分かった」と返事をする。そしてニャガに一太刀入れると僕の方に向かって走り出した。

 ニャガはウィストを見た直後、その先にいる僕にも視線を向ける。そしてウィストが僕の横を通り過ぎて後ろに向かった後は、手前にいる僕の方から目を離さなくなった。これで照準は僕に向いた。


 ニャガが体勢を低くする。跳びかかる構えだ。まともに受けたら致命傷だ。

 だからこそ上手く受ける。それができたら僕達の勝ちだ。


 盾を構えた僕に対し、ニャガが一瞬だけ体勢を更に低くする。その直後、ニャガが前脚に力を入れたのが見えた。

 それを見て、反射的に杭撃砲の砲口をニャガに向ける。するとほぼ同時に、ニャガが右前脚を突き出しながら僕に跳んで来た。


 タイミングは完璧。後は照準だけ。空中では身動きができない。だから落ち着いて撃てば当てられる。問題は、そのために用意された時間が一秒にも満たないことだ。

 砲口を構える。まだ遠い。照準が体を捉える。これじゃあ止められない。ニャガの右前脚が近くなる。今撃てば脚に当たる。


 ならば!


 一歩体を右にずらす。目の前にニャガの顔が見えた。今撃てばニャガの顔に、外れてもその近くに当たる。そして回避する最後のチャンスでもあった。


 知るか!


 狙いを定めて火杭を撃った。顔から狙いは外れたが、首の付け根辺りに命中する。その光景を見た直後に、体に大きな衝撃が走った。


「ぐっ―――」


 ニャガの突進。予想していたとはいえ呻き声は抑えきれない。僕の体は宙を飛び、勢いを殺せぬまま地面に転がった。


「ヴィック!」


 遠くからウィストの声が聞こえた。全身に痛みがあり、意識も朦朧としている。だが生きているということは実感した。


「まだ、だ」


 僕がやったのは足止めだけ。止めを刺すのはルカとオリバーさんだ。その瞬間を見るまでは戦いは終わらない。


 朦朧とした意識を起こしてニャガの姿を探す。ニャガは地面に転がっており、苦しそうに悶えている。地面には血が流れていた。致命傷にはならなかったが、ちゃんと火杭が命中して爆発したようだった。

 そしてニャガの近くには、今こそ止めを刺さんとするルカとオリバーさんの姿があった。


「よくやったぜ、ヴィック」


 ルカが大剣を振り下ろし、オリバーさんが槍で突き刺そうとする。邪龍体を討伐できることに一安心したその直後だった。


「シャアアアアアア!」


 ニャガが大声を出しながら前脚を振るう。死に物狂いのあがきが偶然にも二人の武器を弾き飛ばし、続けて二人を殴りつける。体勢が不十分だったとはいえ、体格差のあるニャガの攻撃を喰らった二人は大きく飛ばされてしまった。

 そしてニャガが立ち上がり再び距離を取る。決して軽くは無いはずの負傷はさせたのだが、まだ動けるようだ。しかも眼に宿る殺意は消えていない。


 止めを刺せず、中途半端に怪我をさせてしまった。おそらく、この後は怒りに身を任せた攻撃を仕掛けてくる。そうなれば僕達だけではどうしようもできない。


 ここまでか……。諦めが頭によぎった瞬間、頭上から木の枝が揺れる音がした。見上げるとウィストが木から飛び降り、同時に左手首から何かを射出させた。それはかぎ針のような形をしていて、根元からは細い線が伸びていた。その線はウィストの左手首に着けられた装置と繋がっている。


 『ワイヤーアンカー』。ウィストがエルガルドで手に入れた道具だ。アンカーと呼ばれる針にワイヤーを結び、それを射出して対象に刺して移動することができる。主に崖を飛び越えたり、モンスターを逃がさないために使う。

 アンカーがニャガに刺さると、ウィストはワイヤーを巻き取りながらアンカーに引っ張られるように移動する。そしてニャガの背中に剣を突き刺した。


「シャアアアアアアアアアアア!」


 ニャガが悲鳴のような声をあげる。その間にも、ウィストは何度も何度もニャガの背中に剣を刺す。ニャガは暴れまわってウィストを振り落とそうとするが、そうはさせないとウィストはしがみつく。

 このままでは振り落とせないと勘付いたのか、ニャガはウィストを背中と地面で圧し潰そうとして転がろうとする。その直前、ウィストはアンカーをニャガから外して真上に跳び上がる。そしてニャガは転がったことで、がら空きになった喉元を天に晒す。跳び上がっていたウィストが、着地すると同時に剣で喉を突き刺した。


「にゃ、が、が……」


 小さな悲鳴を上げると、ニャガの体が動かなくなった。ウィストは再び一刺しして、本当に動かなくなったことを確認するとニャガの体から下りた。その顔には、少しばかりの疲労が窺えた。


「ウィスト、怪我は、っ……!」


 立ち上がった瞬間に再び全身に激痛が走り、最後まで言い切れなかった。


「私は大丈夫。ヴィックこそ平気?」


 僕の様子を見て、ウィストが駆け寄ってきて言う。見たところ、確かにウィストは怪我をしてそうには見えなかった。ニャガと一対一で敵対していた時間は一番長かったはずなのに。改めてウィストの凄さを再確認した。


 ということは、だ。


「これで十分だよね」


 この戦いを離れて見ていたエギルに言った。


「ウィストの実力、十分に分かったでしょ。もうウィストにつっかかるなよ」


 エギル無しで邪龍体を討伐した。しかもウィストは無傷で止めを刺した。これで不十分なんて言わせない。それとも無理矢理いちゃもんをつけてくるか……。


「あぁ。十分だ」


 しかしエギルは意外にも素直に認めた。


「そいつから一撃も喰らわず、終始危なげなく戦い続けた。しかも足手纏いを連れたうえで、死者も出さずに。合格だよ」

「足手纏い?」

「お前らのことだ。自覚が無かったのか。こいつ一人でも倒せてたぞ」


 エギルが真剣な顔つきをしながら歩いて来る。そのとき、僕とルカ、オリバーさんに視線を向けた。


「バカとノロマとグズ。チームの足を引っ張る奴らを介護してなかったらもっと早く倒せただろうな。だが一人だけで戦ったら、弱い奴らから狙われる。だからこいつらを守るために、バランスを取って力を抑えていた。そうだろ?」

「違う!」


 瞬時にウィストが否定する。


「私は全力で戦った! みんなもそう! 精一杯やってくれて、そのお陰で勝てた。足手纏いなんかいない!」

「嘘を吐くんじゃねぇ。お前には見えてたはずだ。何をすれば勝てるか。どうすれば殺せるか。一人でやれる道を見つけていたはずだ。俺様と同じように」

「……っ見えてない! 勝手なこと言わないで!」


 大声でウィストは否定する。その表情は怒っているのか、それとも焦っているのか、どちらにもとれるような顔をしていた。


「うるせぇ声を出すんじゃねぇ。別に俺は追及してるわけじゃねぇ。むしろ同情してんだ」

「同情? そんなの……」


 エギルがウィストの前で立ち止まった。


「お前は何度も感じた筈だ。なんで動いてくれないんだ。なんでそんな動きをするのか。なんでこれができないのか。そういう不満が溜まってんじゃねぇのか」

「そんなのない! 頑張ってくれてる皆に、そんなこと思わない!」

「俺様ならできるぞ。お前の考える最高の動きがな」


 エギルはそう断言して続けて言った。


「だから俺様の女になれ」


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