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7.地下の都

 地下道を老婆に連れられて、てくてくと歩いていく。

 老婆もヴァンパイアだ、けっこう足が早い。


 5分ほどで、周りの雰囲気が明らかに変わってくる。

 壁から電灯がなくなり、ろうそくが備え付けられているのだ。


 壁も段々と近代的なコンクリートから苔むしたレンガになってくる。


「ここは大昔に造られ、埋められた道じゃ……大地震で旧市街が捨てられた後、再発見されたのじゃよ」


「なるほど~……遺跡みたいな?」


「そういうことじゃな。張り巡らされた地下道のそこかしこに、古代の遺跡があったのじゃ」


 そして、中心地は高層ビル街に移っていったわけだ。

 残された旧市街は、モンスターが徘徊するスラムと化した。


 わたしは、なんとなくぺたぺたとレンガに触ってみる。だいぶ前に体験した、ヨーロッパ古代遺跡ツアーVRと同じ感じだ。


「相当、古そうだね……」


「姉さん、壊しちゃだめですよ」


「壊さないってば!」


 さらに数分行くと、ひときわ大きな空洞に出くわした。

 周囲の壁にはびっしりと黒塗りで華美な棺が並べられた空間だ。


 中央に教壇があり、白布の女性が立っていた。軽くフードを被っておりーー真紅の瞳が人目を引く美女だ。


「ようこそ、夜の同胞よ。私の名前はエバンナと申します。今回は同志ボーナの命を救っていただき、本当にありがとうございました」


 深々とエバンナが頭を下げる。

 ぴしっとしたお辞儀で、こちらが恐縮してしまう。


「いえいえ……困ったときはお互い様ですよ!」


 わたしの言葉に、エバンナが微笑んだ。

 青白い人なのでなんだか儚げに見える。


 そこからは軽い自己紹介をした。

 名乗り終えるとエバンナが頷きながら、


「私たちはあなた方を心より歓迎いたします。……しかし、驚きました。あなたには不思議な力があるようですね……」


 お、来た!

【固有スキル】を教えてもらえる!


「近くへ寄ってくださいませんか?」


「わかりました……!」


 隣に移動すると、エバンナが手をかざす。

 わたしが発するのと同じ青い光に、身体全体が包まれる。


「あなたの血には、秘められた力があります……それを明らかにしましょう……」


 ぱあっと青い光が弾け、宙に舞う。

 きらきらと粉雪のように青い光が散ると、エバンナが厳かに宣言をした。


「あなたの力はーー名付けるなら【イモータル・テイスト】ですね。何かを飲むと、飲んだものに応じて短時間強くなれるようです」


「なるほど~……それで……」


 ぽん、とわたしは手を打つ。

 シャルの血を吸ったから、パワーが出たのか。

 それならシャルがユーミルの血を吸っても何にもならないはずだ。


「姉さんにぴったりの力だね」


「そうだね、飲み物には思い入れがあるし……」


 リアルでの本業はVR飲料のデザイナーだ。

 心の奥底が形になったのが【固有スキル】なら、わたしにはぴったりだろう。


【チュートリアルを終了しました】


 おお、寄り道しまくったけれど、やっとチュートリアルを終えられた!

 さっきの地下道のお店やらで買い物が出来るみたいなので、ここを拠点に色んな冒険をしていくことになる。


 あ、ついでにエバンナがいるうちに聞いておこう。

 さっきもボーナが調べてるって言ってたけれども。

 ちょこんと手を上げて、質問してみる。


「……闇の世界って何でしょう?」


「闇の世界……それは大昔に力あるヴァンパイアが作り出した異界と言われています。人間に敗北したヴァンパイアが、身を潜めるための世界ーーそれが闇の世界です」


「隠れ家、ということね……」


 なんとなく、ここと同じなのかな。

 そんな風に考えていると、エバンナが首を振る。


「いえ、彼らは私たちの世界への干渉を止めていません……。人をさらって奴隷とし、モンスターを放って悪行を働いているのです」


「地上のモンスターも、その闇の世界のヴァンパイアのせいってこと?」


「そうです、そしてーーここ数ヵ月、あまりにも頻度が多くなっています。いまや、私たちでさえ地上は安全な場所ではなくなっています」


「……そうみたいだね」


 さっきのスカルドラゴンを思い出しながら、わたしは呟いた。



 ◇



 礼拝堂を後にして、わたしたちは地下道へと戻る。相変わらず熱気が凄い。


「南米からの横流し品だよ! 極上の拳銃だ!」


「刀剣、ヌンチャク! 東方の武器ならお任せ!」


 ……全部、怪しい。闇市だから当然だけど。他のプレイヤーらしき買い物客も、大勢いる。


「お金ないんだけど、買うにはどうするの?」


 ユーミルが左右の店を見ながら、答える。


「モンスターの素材を売るとか、クエストをこなすとお金がもらえるよ~」


「わりと普通だね」


「でもモンスターの素材はアイテム作るのに使うっぽいから、クエストをやる方がおすすめかなぁ?」


 そうだよね~、というところでわたしはシャルが眠そうにしているのに気がついた。


 シャルは一回自分のチュートリアルをやってから、わたしに付き合っている。


 さすがに情報量が多くて、疲れたのかも知れない。

 シャルのさらさらの髪を撫でながら、


「……シャル、一回休もっか? ここは街だから、ログアウトもできるだろうし」


「んむ、姉さん…………」


「ボクも色々あって疲れましたね~……」


 ユーミルも気を使ってくれる。でも最初にレイスに追い回されてたから、嘘じゃないと思うけど。


 むにゃむにゃとシャルは、ゆっくりと頷く。


「……うん、ちょっと休む……」


「キリもいいしね、ここまでありがとう」


 むぎゅうとシャルを抱擁する。


「ユーミルもありがとう、またパーティー組もうね」


「……! もちろんです!」


 次に集まる日時を決めて、ログアウトする。


 というわけで、初めてのログインはこんなところで終わったのだった。

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