表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6.アンダーグラウンドへ

 崩れるスカルドラゴンから飛び降りると、広場は大盛り上がりだった。


「うおおおお!! 倒したぞ!!」


「やった……10回死んだけど、やったぞおおお!!」


 ……おおう、10回も死んだ人が……。

 ほんの少し同情していると、広場の何人かが近寄ってくる。

 20台半ばの青年が、感極まった声を出す。


「あんた、凄いな! スカルドラゴンの頭に乗って、アクションスターかと思ったぜ!」


「いえいえー、皆さんが引き付けてくれたおかげでして……」


「腕が光ってたけど、どうやるんだ!?」


「あ、あれは腕に意識を集中させてーー」


 軽く話をするけど、わたしには任せているシャルとユーミルがいる。

 わたしは仲間がいると言って、すぐその場から離れた。


 皆、手を振って送り出してくれる。

 ほっこりしながら歩くと、近くにシャルとユーミルがいた。


 シュッシュッとシャドーボクシングをやっていた。

 青の光がパラパラと出始めている。


「お待たせ~!」


「姉さん、大丈夫だった?」


「うん、待たせてごめんね~!」


 うりうりとシャルを抱き締める。

 シャルもぐりぐりと顔を押しつけてくる。


 ユーミルも、ちょっと胸を張りながら近づいてきた。

 ぽんぽんと頭を撫でてみる。


「ユーミルもありがとう……!」


「ふぁ……どういたしまして!」


 驚きながらも嫌がられなかった。

 よしよし、可愛いなぁ……。血を吸いたい気持ちはあるけど、我慢しよう。


 今度こそ気を取り直して、チュートリアルクリアに向かうのだ!



 ◇



 廃墟を飛び越えると、少しだけ雰囲気の違うところに出た。

 ぽつんと高級邸宅があるけるど、周囲の明かりが消えている。


 2階建てで、壁はぼろぼろになっていた。

 闇が濃い旧市街でも、不気味な建物だ。


 建物から物音は聞こえない。そろりそろりと敷地内に入るとーー銃撃音がした。

 2階からだ。


「んっ!? 間に合わなかった……!?」


 慌ててわたしは、扉を蹴破る(一度、やってみたかった)

 そのまま階段を駆け上がるとーー銃を持った老人が壁を背に、撃ちまくっていた。


 老人の視線と廊下の先には、闇に溶け込んだ黒い狼がいた。

 この狼が普通じゃないのは、一目でわかる。頭に角が一本生えているのだ。


 体長も1メートル以上ある。牙を剥き出しにして、飛びかからんばかりだ。


 状況が飲み込めないでいると、老人がわたしに切迫した声をあげる。


「君は……同胞か!? 助けてくれ!」


「あ、あいつらは……?」


「闇の世界の獣だーーくそっ、当たらん!」


 銃弾が狼に触れる直前で、すっと消えている。

 老人の銃撃は無意味なようだった。


 ずいっと一歩前に出て、わたしは宣言する。


「なるほど……とりあえず、攻撃!」


 吠えながら、ヴァンパイアと同じように音もなく狼が突撃してくる。

 リアルではあるけれどーーさっきのドラゴンみたいな脅威は感じない。


 体長的には下方向なので、殴るのは難しい。

 力を込めて、迫る狼に足を蹴り出す。


 いわゆるローキックだ。タイミングはぴったし!


 手応えは、ない。

 ただ、ばさぁ……と黒い霧が散る。

 倒したのかな?


【ブラックウルフの角を入手しました】


 どうやら、敵は倒せたようだ。


「ま、チュートリアルだしね……!」


 老人に向き直ると、ぜいぜいと息を吐いている。


「助かった、感謝する……。私の名前は、ボーナ。闇の世界を探っていたのだがーーこの有り様だ」


「……闇の世界?」


「最近、ここらに得体の知れない怪物どもがいるだろう? そいつらの故郷だ」


「ほうほう……逆に悟られて襲われた、と」


「そういうことになる……やれやれだ。ここも引き払うしかないな……」


 老人は頭を振ると、ポケットからカードを出してくる。クレジットカードのような、黒いカードだ。


「……君には助けられた。このカードはホームへの招待状だ。近くに来たら、ぜひ立ち寄ってくれたまえ」


【アンダーグラウンド・マーケットのカードを入手しました】

【アンダーグラウンド・マーケットに入場できるようになりました】


 あ、これがさっき言ってた闇市ね!

 老人は再度、御礼を口にすると階段を降りて立ち去っていった。


 シャルとユーミルが、入れ替わりに2階に上がってくる。


「終わったね、姉さん。これで闇市に行けるよ~」


「闇市ね……そこで武器も買えるんだっけ」


「そうですよ~……そこまで行くと、チュートリアルは終わりですねっ」


 最初のお買い物までやったら、本番ということか。


「よし、じゃあパッと終わらせようか!」


 ステータス画面を見るとすぐ近くの地面に光るポイントがある。

 建物から出て、ちょっと歩くとーーポイントは地下道の入り口みたいだった。


 ……青い光の膜がある。

 すっと腕を出すと、そのまま通り抜けた。


 さっきのイベントでフラグが立ったからかな?

 シャルとユーミルは慣れたものか、構わず入ってくる。


「……アンダーグラウンド、そのまんまだ……」


 完全に営業が終わってる雰囲気の地下だ。

 石造りの階段は、ところどころ欠けている。


「敵の気配はないね……ふぁ!」


 そこは、小さな灯りに囲まれた地下道だった。昔は地下のショッピング通りだったのだろう。


 ……なのに、ボロ布をまとった人たちでごった返していた。

 スラム街の地上とは熱気も違う。あそこは、まさにゴーストタウンだった。


 ここは、たしかに人が生きている街だ。

 やかましく、無秩序、綺麗でもないけれど。


 まさにボロの市場、闇市らしいごった煮の雰囲気だった。


「いらっしゃ~い……アンダーグラウンドへ。ヒッヒッヒッ……!」


 いかにもなローブをまとった老婆が声をかけてくる。

 ちょっと後ずさってしまう。


「……すごく怪しい!」


「ヒッヒッヒッ……それはお互い様じゃろ。夜の同胞よ」


 見回すと潰れた店舗のスペースを使って、それぞれ勝手に店を開けていた。

 どこから手に入れたか、缶詰やインスタント食品を売る店やスクラップーー他には銃っぽいものを並べてる店もある。


 老婆が、手招きしてくる。


「さて、ついてきなされ……礼拝堂へな。ヒッヒッヒッ……!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ