6.アンダーグラウンドへ
崩れるスカルドラゴンから飛び降りると、広場は大盛り上がりだった。
「うおおおお!! 倒したぞ!!」
「やった……10回死んだけど、やったぞおおお!!」
……おおう、10回も死んだ人が……。
ほんの少し同情していると、広場の何人かが近寄ってくる。
20台半ばの青年が、感極まった声を出す。
「あんた、凄いな! スカルドラゴンの頭に乗って、アクションスターかと思ったぜ!」
「いえいえー、皆さんが引き付けてくれたおかげでして……」
「腕が光ってたけど、どうやるんだ!?」
「あ、あれは腕に意識を集中させてーー」
軽く話をするけど、わたしには任せているシャルとユーミルがいる。
わたしは仲間がいると言って、すぐその場から離れた。
皆、手を振って送り出してくれる。
ほっこりしながら歩くと、近くにシャルとユーミルがいた。
シュッシュッとシャドーボクシングをやっていた。
青の光がパラパラと出始めている。
「お待たせ~!」
「姉さん、大丈夫だった?」
「うん、待たせてごめんね~!」
うりうりとシャルを抱き締める。
シャルもぐりぐりと顔を押しつけてくる。
ユーミルも、ちょっと胸を張りながら近づいてきた。
ぽんぽんと頭を撫でてみる。
「ユーミルもありがとう……!」
「ふぁ……どういたしまして!」
驚きながらも嫌がられなかった。
よしよし、可愛いなぁ……。血を吸いたい気持ちはあるけど、我慢しよう。
今度こそ気を取り直して、チュートリアルクリアに向かうのだ!
◇
廃墟を飛び越えると、少しだけ雰囲気の違うところに出た。
ぽつんと高級邸宅があるけるど、周囲の明かりが消えている。
2階建てで、壁はぼろぼろになっていた。
闇が濃い旧市街でも、不気味な建物だ。
建物から物音は聞こえない。そろりそろりと敷地内に入るとーー銃撃音がした。
2階からだ。
「んっ!? 間に合わなかった……!?」
慌ててわたしは、扉を蹴破る(一度、やってみたかった)
そのまま階段を駆け上がるとーー銃を持った老人が壁を背に、撃ちまくっていた。
老人の視線と廊下の先には、闇に溶け込んだ黒い狼がいた。
この狼が普通じゃないのは、一目でわかる。頭に角が一本生えているのだ。
体長も1メートル以上ある。牙を剥き出しにして、飛びかからんばかりだ。
状況が飲み込めないでいると、老人がわたしに切迫した声をあげる。
「君は……同胞か!? 助けてくれ!」
「あ、あいつらは……?」
「闇の世界の獣だーーくそっ、当たらん!」
銃弾が狼に触れる直前で、すっと消えている。
老人の銃撃は無意味なようだった。
ずいっと一歩前に出て、わたしは宣言する。
「なるほど……とりあえず、攻撃!」
吠えながら、ヴァンパイアと同じように音もなく狼が突撃してくる。
リアルではあるけれどーーさっきのドラゴンみたいな脅威は感じない。
体長的には下方向なので、殴るのは難しい。
力を込めて、迫る狼に足を蹴り出す。
いわゆるローキックだ。タイミングはぴったし!
手応えは、ない。
ただ、ばさぁ……と黒い霧が散る。
倒したのかな?
【ブラックウルフの角を入手しました】
どうやら、敵は倒せたようだ。
「ま、チュートリアルだしね……!」
老人に向き直ると、ぜいぜいと息を吐いている。
「助かった、感謝する……。私の名前は、ボーナ。闇の世界を探っていたのだがーーこの有り様だ」
「……闇の世界?」
「最近、ここらに得体の知れない怪物どもがいるだろう? そいつらの故郷だ」
「ほうほう……逆に悟られて襲われた、と」
「そういうことになる……やれやれだ。ここも引き払うしかないな……」
老人は頭を振ると、ポケットからカードを出してくる。クレジットカードのような、黒いカードだ。
「……君には助けられた。このカードはホームへの招待状だ。近くに来たら、ぜひ立ち寄ってくれたまえ」
【アンダーグラウンド・マーケットのカードを入手しました】
【アンダーグラウンド・マーケットに入場できるようになりました】
あ、これがさっき言ってた闇市ね!
老人は再度、御礼を口にすると階段を降りて立ち去っていった。
シャルとユーミルが、入れ替わりに2階に上がってくる。
「終わったね、姉さん。これで闇市に行けるよ~」
「闇市ね……そこで武器も買えるんだっけ」
「そうですよ~……そこまで行くと、チュートリアルは終わりですねっ」
最初のお買い物までやったら、本番ということか。
「よし、じゃあパッと終わらせようか!」
ステータス画面を見るとすぐ近くの地面に光るポイントがある。
建物から出て、ちょっと歩くとーーポイントは地下道の入り口みたいだった。
……青い光の膜がある。
すっと腕を出すと、そのまま通り抜けた。
さっきのイベントでフラグが立ったからかな?
シャルとユーミルは慣れたものか、構わず入ってくる。
「……アンダーグラウンド、そのまんまだ……」
完全に営業が終わってる雰囲気の地下だ。
石造りの階段は、ところどころ欠けている。
「敵の気配はないね……ふぁ!」
そこは、小さな灯りに囲まれた地下道だった。昔は地下のショッピング通りだったのだろう。
……なのに、ボロ布をまとった人たちでごった返していた。
スラム街の地上とは熱気も違う。あそこは、まさにゴーストタウンだった。
ここは、たしかに人が生きている街だ。
やかましく、無秩序、綺麗でもないけれど。
まさにボロの市場、闇市らしいごった煮の雰囲気だった。
「いらっしゃ~い……アンダーグラウンドへ。ヒッヒッヒッ……!」
いかにもなローブをまとった老婆が声をかけてくる。
ちょっと後ずさってしまう。
「……すごく怪しい!」
「ヒッヒッヒッ……それはお互い様じゃろ。夜の同胞よ」
見回すと潰れた店舗のスペースを使って、それぞれ勝手に店を開けていた。
どこから手に入れたか、缶詰やインスタント食品を売る店やスクラップーー他には銃っぽいものを並べてる店もある。
老婆が、手招きしてくる。
「さて、ついてきなされ……礼拝堂へな。ヒッヒッヒッ……!」