5.スカルドラゴン
「うっわ……ドラゴンのブレス攻撃ってやつかな」
わたしが騒ぐ横で、シャルが険しい目つきをしていた。
「……最序盤の敵なんでしょうか、あれが。どんどんプレイヤーが灰になっては復活しているような……」
上から見ると、本当にアリと象の戦いだ。
スカルドラゴンの攻撃が直撃すると、一発アウトらしかった。
もう何回も、灰になる人たちを見ている。
「まぁ、かなり強そうだよね~」
とはいえ、わたしはのんびりしたものだった。
空を飛ぶユーミルに捕まっていれば、ドラゴンの横をすり抜けていける。
スカルドラゴンは広場を通せんぼしている形だけれど、戦いたくなければ迂回すればいいだけなのだ。
「ユーミルは、あんな大きいモンスターと戦ったことある?」
「ないですよ~。せいぜいレイスみたいに、背の高い人レベルのモンスターだけです。あんな桁外れの大物は、はじめて見ました!」
建物を普通に超えるーー怪獣レベルの大物だ。
そんなにほいほい出てきても、困るか。
そんなことを話している間にも、スカルドラゴンとの距離は近づいていく。
「あ……モンスターのHPバーが出てきた」
視界の端に【灰に至りし白骨竜】という名称と緑のHPバーが表示される。
今のHPがどれだけ残っているか、視覚的にわかるようになった。
見るとHPバーはかなり目減りしている。
ざっと残り20パーセントくらいだ。つまり、けっこうなダメージを負っていた。
そして、今もじりじりと減少している。
「レイドボスみたいなものかな……。てか、もう終わりそうだったんだね」
わたしは根気強いほうだけど、いまは他にシャルとユーミルがいる。
しかもチュートリアルクエストを終えていない。
だけど……ドラゴン! 心躍る、骨だけど!
「じゃあ、他の人に任せて迂回しますねっ!」
「待って!」
ぎゅううとつかまっているユーミルの腕に力をこめる。
「はうあ!? な、なんですか!?」
「せっかくだし、ちょっと戦いたい……」
「……姉さん、また?」
「そうだよ、シャル……沸きあがる闘争心を抑えることは、わたしには難しい」
ドヤ顔しながら、答える。
ユーミルを見上げると、なんだこの戦闘民族……みたいな顔をしていた。
「1回だけ、1回だけだから!」
ゆっさゆっさ。
わたしはアピールの為に、ユーミルの腕を揺らした。
「揺らさないでくださーい!」
「べ、べつに止めないから! 止めないから、姉さん!」
おう、やったぜ。
やや強引ながら、わたしはまたもや許可を得た。
後でちゃんと埋め合わせはしよう。
ちなみに、マナはもうけっこう回復しているのだ。
「で、どうするんです……?」
「スカルドラゴンの頭の上に、落として」
「はい? 姉さん?」
「下からは危険だと思うんだよね~。どう考えてもリーチが違いすぎるし」
正面攻撃を仕掛けている人への反撃は、的確にして苛烈だ。
ブレスも前足の攻撃も、範囲が広い上かなり素早い。
後ろは見えないけれど、多分尾の攻撃があるんじゃないかな。
しかし、わたしはすでにスカルドラゴンの動きの癖を見抜いていた。
「見てよ、頭はそんなに動かないでしょ?」
黒の蒸気は降り注ぐように、3階の高さから地面までカバーしている。
もちろん、いきなり上から吹きかけられると避けるのは難しい。
ブレス攻撃はそれだけ危険だけれど、激しく頭部を動かして撃つものでもない。
少なくても今見える範囲では、頭は上下せずスライド移動しているのだ。
シャルも、じーっとスカルドラゴンを見ている。
「前足とブレス以外は、あまり動かないですね……」
「そうなんですか? ボクもあんまり速く動けないけど、それなら…………」
「……よし、じゃあーーよろしく!」
ユーミルはそのまま、上昇していく。
そういえばさっき聞いたけど、あまり上空には飛べないらしい。
今だと建物の10階分が限界のようだ。
今だとわたしたちがぶら下がっているので、6階分くらいらしいけど。
とはいえ、スカルドラゴンを上から襲うならそれでも十分すぎる。
真上に来ると、シャルが心配そうに視線を送ってくれる。
「……仇はとるから」
「いや、大丈夫だからね!」
ぱたぱたと手を振って、いざわたしはスカルドラゴンの頭の上にダイブする。
こういうときは、ぱっと行くに限るのだ。
「とおりゃゃゃ…………!」
足に力をこめてーー青い光を突き抜けていく。
どすん、とスカルドラゴンの頭蓋骨の上に着地した。
「……10点!」
どうでもいい自己採点をする。
スカルドラゴンの頭は、多少揺れるだけだーーいきなり振り落とされはしない。
「ふむ……狙い通りかな?」
ただーー前足がぐわっと頭をかこうとしてきた!
巨大な骨が迫ってくる。
「うおっ!?」
わたしは、ぎりぎりで伏せることで前足を避けた。
危ない、落とされはしないけど攻撃がないわけじゃなかった。
のんびりしているヒマは、あんまりなさそうだ。
どのみちスカルドラゴンのHPもそんなに残りがある訳じゃないしーー。
「とりあえず、殴ってみよう……かな!」
腕に力を集中させる。
ぎゅぅぅと青い光が放出され、拳へと凝縮されていく。
そのまま、下にあるスカルドラゴンの頭部へと拳を振り下ろす。
がつん、と衝撃が走りーーわたしのマナがふたたび大きく減る。
「……どうだ!?」
ほんのちょっと、スカルドラゴンのHPが減っているような?
もともと膨大な体力を持つからか、いまいちよくをからなかった。
「じゃあ、これはっ!?」
両腕に、力をこめる。
なんだかグローブをつけている気分だ。
片膝をついてそのまま、連打連打連打。
ぼこぼこぼこ。
衝撃が腕に伝わる。
マナがものすごい勢いでなくなり続けて、あっという間にゼロになる。
同時に、青い光も消えてしまった。
「ふむ……全力だと10秒くらい? マナって消耗激しいね~」
その間にも、スカルドラゴンの腕がぶおおっと通りすぎる。
当たれば、叩き落とされて即死確定だ。
だけど、動体視力と反応を鍛えているわたしには遅い。
余裕で左右に転がりながら、避けていく。
回避はいいとしても、攻撃は素手でそのまま殴るーーしかない。
ぼこぼこぼこ!
「あれ、HPの減りが……早い!」
まさか、わたしの素手が!
「……そんなわけないね。わたしに気を取られてるから、他の人が攻撃しやすくなっただけだし」
冷静なわたし。
誰だって頭の上に人がいれば、気になるよね。
「さて、そろそろだ……!」
むしろ、回避に専念したほうがいいかもだったがーースカルドラゴンのHPがついにゼロになる。
瞬間、大音響が広場を包んだ!
「グルァァァ…………!」
骨なのに、どこから叫んでる?
なんて気にしてはいけない。
きっと、タコ殴りにされたスカルドラゴンのソウルが叫んでるのだ。
そのまま、ゆっくりとスカルドラゴンは崩れ去るーー。
「ふぅ、いやぁ……スカルドラゴンは強敵だったね」
最後に参加したほうだけど、カッコいいことを言ってみちゃう。
一応、即死攻撃を避けまくったので、自己評価は高めだった。
あ、なんかシステムメッセージがある。
どれどれ……?
【スカルドラゴンの頭蓋骨を入手しました】
【スカルドラゴンの牙を入手しました】
【スカルドラゴンの魔石を入手しました】
ふむふむ、よくわからないアイテムだけどーーとりあえず、ゲットだ