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3.固有スキル

 シャルーーもとい、美香はたまにこんなことを言う。

 聞いても詳しくは教えてはくれないので、スルーしよう。

 うん、本人も言うように、深くは考えないほうがいいんだ。


「すごく強いんですね! ボク、レイスを倒した人ってはじめて見ました!」


 ユーミルの目がきらきらしている。

 なんか、こそばゆい。

 右ストレート一撃で倒しただけで、すごいことはしてないのだ。


「……マナを出しながら殴れば、倒せると思うけど」


「どうやって右腕からそんなに出すんですか?」


「え……? い、いや……なんかこう、気合いと集中力で……!」


 ちょっとだけマナを出すように、しゅしゅっとジャブを打つ。

 きらきらと、少しだけマナが光る。


「……姉さん、私もマナはそんなに出ないの」


「はえっ!? そ、そうなの?」


 シャルもしゅしゅとジャブを打つ。

 ……なんにも光らない。


「で、でも足からは出たよね?」


「移動に必要な足からは、出やすいみたいですけど……腕から出せる人は、はじめて見ました!」


「おおう……まじですか……」


 これ、運動系VRで体得したコツなんだけれど。

 どうやら、ふたりともさほど運動系VRはやっていなかったらしい。


 ユーミルは、わたしを見上げながら続けて言った。


「あとは【固有スキル】の力もあるかもしれませんね……」


「……こゆーすきる?」


 ゲーム用語っぽいけど、全然わからん。


「姉さんはまだ、チュートリアルを終わらせてないの。まだ知らないわ」


「うえっ!? ご、ごめんなさい……! 先のこと、言っちゃった……!」


 ゲーマーの鑑だ。

 ユーミルが謝ってくるけど、わたしは気にしない。

 ……名前だけで、意味がわからないからだ。


 そして、わからないことはもやもやする。

 気になるやん……!

 シナリオじゃなくて用語っぽいし、すぐに知りたい。


「ねぇ、【固有スキル】ってなに? 先に教えてほしいんだけど……」


「いいの、姉さん……?」


「だって、あきらかにゲーム用語だし、わたしの強さの秘密かも知れないんでしょ?」


「うん、そうかも…………まぁ、姉さんが知りたいならいいか」


 シャルが指を立てながら解説する。


「VCには他のゲームのジョブやクラスに相当する、血脈があるのは知ってる……?」


 わたしは胸を張って答えた。


「知らない!!」


 がくっと、ユーミルが崩れる。

 嘘ですよね……という目をしている。


 仕方ない、予習してないんだもん!


 しかし、シャルは慣れたものだ。

 平然と説明を続ける。


「ええっと、他のゲームのクラスみたいな区分けとして……【ノーブル】【ナイト】【ウィザード】【ビースト】があるの。……それぞれにレベルがあって、徐々にスキルを得られるようになるんです」


「そう、それとは別に……深層意識から抽出したスキルがあります。このスキルは、他のプレイヤーには決して得られません。これを【固有スキル】といいます!」


「ふむふむ……」


「チュートリアルを終わらせると、なんの【固有スキル】を持っているか教えてくれるの……姉さんは、そこがまだだね」


「うーん? チュートリアルを終わらせなくても、【固有スキル】は効果を発揮するってこと?」


「たぶん、そうですね……」


 ユーミルが頷く。

【固有スキル】によっては、楽ができるわけだ。


「でも、そんなに変わるものなの……?」


「【固有スキル】には、自分自身の能力を底上げできるものが多いんです。例えば――ボクの【固有スキル】はこれです!」


 ばさっと、ユーミルの背中から黒い翼が出てきた。

 羽毛いっぱいで、手を広げたより大きな翼だ。


「お~……すごい……」


 ぱちぱちぱち。

 思わず、拍手する。


 ぱっと見て、モデリングの素晴らしさに感動。

 羽のひとつひとつが、リアルティを持っていた。

 それでいて、ユーミルの身体より目立ってはいない。

 まさに、芸術的な美しさだった。


 ……ボクっ娘で黒い翼とか――あざとい!

 でも、いい!


「ボクの【固有スキル】は【ブラック・ウィング】です。この黒い翼で――空を飛べます」


 ぱたぱた、とユーミルが少し浮かぶ。

 かっこいいやん。


「ん……? 前にちょっとだけ見たコウモリに変身して飛ぶのとかとは違う?」


 プロモーション動画には、コウモリになってセントラルのビルをすいすいと飛んだり、狼に変身して公園を走る様子があった。

 CMでそれだけはうっすらと見た記憶がある。

 シャルが、説明の補足をする。


「それは【ビースト】のスキルになるの。【ビースト】のレベルが上がると習得できる……つまり、いまの私たちには使えない。【固有スキル】なら、最初からできるっていう違いがある」


「あと、多分なんですけど【ビースト】で得た変身スキルだと、全身が変化してしまいます。武器を持てなくなるんです。その点【ブラック・ウィング】は翼が生えて飛べるだけで、両手は自由ですから!」


「ほ~……それはだいぶ違うね」


 いましがた、わたしはマナパンチ(仮)でレイスをぶっ飛ばしていた。

 それも右手があればこそだ。

 コウモリや狼だと、やりかたはまた異なるはずだ。


 そしてはたと、わたしは気がついた。

 シャルもチュートリアルを終わらせているはずなのだ。


「……シャルの【固有スキル】は?」


「私は【シスター・ダンス】……パーティメンバーに年上の女性がいると、その人数に応じてその女性たちと私が強くなるんだって」


「……ほう……」


 あれ、【固有スキル】って深層意識からの抽出だよね。

 ユーミルの黒い翼は、たぶん鳥や飛ぶことに対する興味だ。

 実にわかりやすい。


 だとしたら、シャルの【シスター・ダンス】は……?

 言うまでもない姉であるわたしへの――応援だ!


 きっと、病院暮らしのわたしへの、シャルの心配やらなにやらだ。

 おうおう、わたしは嬉しいやら悲しいやらだよ。


 姉として、ふがいない……。


 と、わたしが心のなかで泣いていると、黒い翼をぱっと消して、ユーミルは感心していた。

 あ、触りたかった……。ま、それは次の機会でいいか。


「それはいい【固有スキル】ですね。周囲全体に効果があるのは、レアスキルのはずです!」


「そうなの……?」


「たぶん【シスター・ダンス】とマイさんの【固有スキル】の相乗効果が大きいんだと思います。レイスを一撃で倒すくらいに、相性バッチリなんでしょう!」


「そういうことも、ありうるのか……お互いの【固有スキル】が噛み合った結果ということだね」


 それならゲームバランス的にも一安心だ。

 まだ、開始から間もない。

 スキルやらなんやらが噛み合う自体が――少ないのだと思う。


 わたしもそうだけど、みんな手探りでやるしかない。

 時間が経てば、攻略法も確立されてスムーズにいく。

 わたしだけが特別なわけは、断じてない。


 ユーミルが一歩ずいっと、前に出てくる。


「それで、お願いがあるんです……!」


「ほい?」


「あの、ボクをパーティメンバーに加えてくれませんか!? 足手まといにはならないようにしますから!」


 わたしは構わないどころか、血を吸いたいくらいだから――問題ないんだけど。

 シャルはどう思っているのかな?


「私もいいですよ……でも、条件があります」


 ふふり、とシャルが口角を上げて微笑んだ。

 黒いオーラが、ちょっとだけ見える。


 あ、これはヤバイ。

 わたしの姉センサーが危機を察知した。


 シャルのあの笑いは、あまり見ないけど――たいてい、ドキリとすることを考えている目だ。


「はい、なんでもどうぞ!」


 ユーミルに気づく術なんて、ない。

 元気いっぱいの返事だった。


「……ユーミルさん、わたしに吸血させてくれませんか?」

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