軋轢
冒険者ギルドに続く通りが喧騒に包まれている。人々の列をかき分けながらゆっくりと進む3台の車両。2台は日本の陸上自衛隊が運用する軽装甲機動車……通称LAVと呼ばれている車両で、もう1台は日本が誇るSUV車のランドクルーザー80だ。ランクル80は純正色のダークグリーンマイカで、2台の軽装甲機動車は海外派遣仕様のオリーブドラブ色に塗装されている。
「人が多いなぁ……」
ランクル80の運転席でハンドルを握っている俺は、人の多さに驚きながら民衆を轢かないように運転していた。助手席に座っている里奈は、手の中で一眼レフカメラを遊ばせている。ランドクルーザーの後ろには2台の軽装甲機動車が注意しながら追走しており、上面ハッチの銃架に設置している5.56mm機関銃MINIMIに手を掛けながら特殊作戦群の隊員が道を開けてくださいと大きな声で呼びかけていた。
「何かあるのかなぁ……」
助手席に座っている里奈が呟いた。
「基地を出る前に言われたんだけど、偵察衛星が戦闘地域から帰還する部隊を捉えたんだってさ。だから……凱旋の列と会うかもしれない、ってね」
「だから、こんなに人が多いんだ」
里奈の言葉に俺は頷いた。しばらくすると石畳の道が開け、ロータリーが現れる。冒険者組合の前の道路に3台の車両を停めると、自分達の銃を後部座席から引き寄せる。ランクル80から降りてカスタムされたM4A1を肩にかけた。ランクル80の鍵を戦闘服のポケットに仕舞い、特殊作戦群数名の護衛を伴って冒険者組合に入った。
いつもの受付嬢の所に行き、今朝行われた作戦の依頼書と報告書を手渡した。
「これ、お願いします」
「分かりました。では、ギルド長の部屋に行ってきますのでしばらくお待ち下さい」
俺はM4A1を背中に回すとクエストボードの前まで歩いていった。ボードに貼られている紙を一通り見てから、画鋲で留められている1枚の紙を剥がした。
「次は何を受けるの?」
持ってる紙を覗き込もうとする里奈を制しながら、戻ってきていた受付嬢に紙を渡した。
「このクエスト受けれますか?」
「はい、大丈夫ですよ。では、これが依頼書です。それと……ギルドマスターがお呼びになってます」
受付嬢は依頼書と報告書のセットを俺に渡してきた。俺は、受け取った書類をクリップボードに挟んでマジックバッグに仕舞った。その後、ギルドマスターの部屋に入り報酬と礼の言葉を貰って冒険者組合から出た。
「さっきよりも人が増えてるな……」
そう言いながらも鍵を開けてランクル80に乗り込みエンジンを掛ける。ランクル80の心臓部である1HD-FTジーゼルエンジンが唸りを上げた。セレクターをパーキングからドライブに入れ、今度は軽装甲機動車を先頭に石畳の道路に出た。何故か、人々が道の左右に寄っている。
「……凱旋のパレードにぶち当たったか……」
車間を一定に保ちながら進んでいると、前方のLAVから無線が入った。
「前方から騎兵の集団が来ています。どうなされますか?」
声の主は、特殊作戦群……愛称は特戦やSと呼ばれる特殊部隊所属の葉山三等陸尉だ。
「素直に避けるか、それとも……」
「……避けれるスペースは何処にもないですけどね」
俺はブレーキを踏んで後ろを振り返った。
「バックも無理か……」
そうこうしている間にも、騎兵の隊列とPMCの車両はどんどんと近づいている。
「葉山3尉、とりあえず待機して。あっちが手を出してきた場合は……ROE(交戦規則)を厳守して攻撃せよ」
インカムに左手を添え命令を発する。
「了解」
遂に、騎兵の列とPMCの車両があと数メートルというところまでになった。前方のLAVは停車したが、騎兵集団の最前列にいた兵士は馬の歩みを止めずに近づき、手に持ったロングソードを窓を開けていた運転手の首筋に当てた。
「貴様ら……我らレーゲン王国騎士団に対して道を開けぬとはどうゆう事だ……」
その兵士は怒気を孕んだ目でLAVのドライバーを睨んだ。
「くそっ……」
葉山3尉は悪態をついた。
「しょうがない……里奈、ちょっと車頼むよ」
「え、ちょ……時雨」
俺は里奈先輩を残して車を降りる。後部座席からM4を持ってきていないのでクリス ヴェクターSMGを召喚した。召喚した瞬間、その場の雰囲気ががらりと変わった。驚き腰を抜かす人。直感的に危険だと感じて逃げ出そうとする人。
俺は、周りの人々に目もくれずにゆっくりと先頭のLAVに向かって歩き出した。ヴェクターを左手に持ちながら、右太ももに着けているホルスターにHK45Tが入っているか確認した。ヴェクターを右手に持ち替える。そして構えながらLAVの右後部ドアに到着した。
「うちの隊員が何か失礼をしましたか?」
ヴェクターを馬上にいる兵士に向けながらに声をかけた。
「貴様は誰だ?」
「ギルド≪PMC≫のリーダー時雨と申します」
「ギルドの分際で道を塞ぐとはいい度胸だな」
「塞いだつもりはないんですがね」
「塞いでいるのは明らかであろう!道を開けぬというのならこの男を殺す」
兵士はロングソードの刃を押し付けた。刃がドライバーの首に深く入る。溢れ出た血液がドライバーの皮膚と戦闘服を汚していく。
「……クソが……」
俺は、瞬間的にヴェクターの引き金を引いた。周囲に発射音がこだまする。ヴェクターの.45ACP弾は兵士の頭と首に命中し生命を強制的にシャットダウンさせた。その瞬間、車両に乗っていた里奈と自衛官が一斉に降車し騎兵の集団にそれぞれの得物を向けた。勿論、ロングソードで首を切られた自衛官も降車してメディック担当の自衛官に治療してもらっている。
「……ギルドにしては統率がとれすぎているな。それに、お前は召喚士か?」
一人の男が周りの兵士らに道を開けられて前に出てきた。
「アンタは?」
「レーゲン王国騎士団の副騎士団長を務めているブラッド・ホークだ」
ブラッド・ホークと名乗った男は他の騎士団員に比べて豪華な出で立ちだった。左胸に多数の勲章を着けており、自身の剣と鞘にも華美な装飾を施している。
「ご丁寧な自己紹介どうも」
俺はヴェクターをブラッドに向けながらも周囲の状況を確認した。
「それで、俺に何か用でもあるのか?」
「……凱旋パレードを中断させ、あまつさえ騎士団員を殺害した。用がない訳がないだろう?」
「悪いが……先に手を出したのはそちらだ」
「ふむ……確かに悪いのはこちらかもしれない。だが、凱旋パレードを知っていた上で中断させたのなら……悪いのはそちらの方ではないのか?」
「……残念ながら俺達の拠点はこの街ではないんでね。凱旋のパレードがあるとは知らなかったんだけどな」
「そうか……なら仕方がないな。では……貴様らを倒して凱旋パレードを再開するとしよう」
「おい、民間人もいるこの狭い道路で俺たちと戦うのか? やめておいた方が身のためだぞ。それに……アンタはこいつの威力を見ていなかったのかい?」
俺はヴェクターを少しだけ持ち上げた。
「そんな飛び道具に負ける程、弱い騎士団ではないぞ」
自信家のブラッドに厭きはじめてきた頃、街の中心に立地している搭から鐘の音がしてきた。その鐘が鳴らされた途端、人々は逃げ惑いはじめる。
「おい、ブラッド! この鐘は何を意味するんだ!」
「この音は……魔物の襲来だ! っ……こうしてはおれん! 皆の者、急いで駐屯地に戻り出撃するぞ!」
ブラッド率いるレーゲン王国騎士団は道路を戻って彼らの駐屯地へと戻っていった。去り際、ブラッドがこんな言葉を残していった。次は戦場で会おう……と。
どうも時雨です。
前回の投稿から3ヶ月経ってしまいました……。『クラスで異世界に召喚されたけど、俺の能力がチート過ぎる件』の方が優先になっていました。申し訳ありません。




