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星の乙女とカラクリ少年  作者: ゆきんこ
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少女と挑戦

_それからというもの、ラルフはまるまる1週間、ベーテンシュロスに通い続けていた。


「どーも」


「あ、ラルフくん…」


やはり距離のとり方が不自然になるのが彼の中ではネックだったが、少なくともヘレナは手応えを感じていた。事実、ラルフとフィーネは簡単な世間話が出来るくらいの仲にはなっていたのだ。……しかし、それだけの月日が流れるということは、それだけフィーネの存在、ラルフの少し変わった様子が周囲の者にも勘づかれる_ということも意味していた。…ラルフの妹、ユリアがその代表であった。


「…あの、ヘレナさん」


彼なりに悩んだ末、その事実を彼女に伝えるとともに…ある“提案”を、彼はすることにしたのである。


「どうかしたのかい?」


「俺の妹のことなんですけど。あいつ、なんか勘づき始めているみたいで…多分、そろそろどうにかしないとまずそうです」


そのラルフの話を聞き、ヘレナはああ…とうめき声を漏らした。_そう、ユリアはラルフとフィーネが対面してしまったあの日、あの“最悪な状況”のベーテンシュロスにお祈りに来ていたのだ。


「そうか…もう、1週間か。確かに、あの子の我慢の限界が来そうなタイミングだね…」


「そこで…何ですけど、いっその事俺の妹と合ってみればいいんじゃないか、と思ったんですけど…そう簡単にはいきませんよね」


いっその事、対面してしまう。それが、彼の“提案”だったのだ。


もちろん、そのことに対してヘレナは驚きを隠せない。何たって、まだまだ世間話レベルなのである。…しかし、このまままだ駄目、まだ駄目_そんなことを繰り返していたってどうにもならないし、第一フィーネの為にはならない。それも同時に、重々承知であった。…となると、意見を求めるべき人はただ1人である。


「…フィーネ、どうだい、ラルフくんの妹に会ってみないかい?」


フィーネ本人。それまで、繰り広げられる話をただただ黙ったまま聞いていた彼女。_どこか人形のようだ、と。そんなことさえもラルフに思わせるほどの無機質な瞳。それに、ほんの少し生身の人間らしい感情_”驚き“が混じったのを、2人は見た。


「……い…」


ぼそりと呟かれた、蚊の鳴くような声。え?、というジェスチャーを交えてラルフが身を乗り出すと、もう一度。_“こわい”と。


「やっぱりな」


「…でも」


ラルフがやはりそうか、と諦めたとき、今度は先程よりもはっきりした声がそれを止めた。


「会ってみたい、です。ユリアちゃん…毎日、ここに来てくれていた、から」


_あの子なら、私のこと変な目で見ないかもしれない。フィーネの心の中には、そんな思いがあったのだ。


無論、ユリアもシルバリスタ。フィーネの髪の色を見れば、直ぐに顔色を、態度を変えるかもしれない。実を言うと、ラルフも、そしてヘレナも、それが気がかりだった。


「ユリアちゃんも、シルバリスタ。もしかしたら私のこと変な目で見るかもしれないです。でも、ユリアちゃんとなら、分かり合えるかもしれないって、そう、思いました」


ひとつひとつ言葉を選びながら、慎重に話す。それを見て、2人は気がついた。彼女が今、殻を破って外に飛び出そうとしている、そして、その景色を自分の目で見てみたい。彼女自身自覚しているかも分からない、そんな彼女の新たな感情に。


「それに…ラルフくんの妹だから。大丈夫かな、と思いました」


特に意識もせず彼女が発した言葉。それに対してヘレナはいつになくニコニコと、ラルフは狐につままれたかのような妙な表情をしたのだった。_もっとも、世間的にはこんな表情をしている人は”照れている“と認識されるのであるが…彼はそれを認めはしなかった。


「えー、まあそれはともかく、問題はどうやって2人を会わせるか…そうだよね、ラルフくん?」


「…ええ、そうですね。でもこの際変に何かしても無駄ですし、単刀直入に紹介したい人がいるとか言えばいいのでは? フィーネに何かなければですが」


全くもって自らの台詞の受け取られ方など考えていない、分かっていないフィーネは、2人のわざとらし過ぎる話の続け方に疑問を覚えた。…しかし、わざわざそこを突っ込むほどの勇気というか口の達者さは、彼女はまだ持ち合わせていない。したがって、彼女はラルフの問いかけに対し、「構いません」とだけ答えた。


「よし、オッケー。さて、ここは思い立ったが吉日式で行きますか、それとも少し落ち着きますか?」


少しフィーネは考える。…そして、ふう、と息を吐いた。


「思い立ったが吉日でお願いします…!」


_こういうことは覚悟したらすぐ行動に移した方が良い…って、昔何かの本で読んだ気がするし…


今のところフィーネの経験値は読書と人間観察と、ヘレナやラルフとの会話くらいなものである。彼女は今のところ、頭は悪くないし物知り、けれど実践に使える経験値は足りていない…そんな状態だった。


「じゃあ、俺はユリアを呼んできます。部屋は、ここの部屋で良いですね?」


「いいんじゃないかい?」


「お願い、します…」


2人の返答を聞いたラルフは、1度頷くと踵を返して自らの自宅へと向かっていった。




本日快晴。少女はグーッと伸びをしてカーテンを開けた。


「シルバラ様。今日の日の気持ちの良い目覚めに感謝いたします」


すっかり慣れてしまったこの“朝の言葉”を口にして、両手を合わせて祈る。


「さーて、ベーテンシュロスに行かなくちゃ!」


楽しくて仕方が無いと言うようにベッドから飛び降りたその少女、ユリア。ここ最近の彼女には、とある人物への疑問が尽きなかった。


「んじゃ、行ってきます」


お兄ちゃん_もとい、ラルフ。ここ1週間くらい、何か変なのである。…とは言っても、彼を“変だ”と言うのはユリアのみ。彼らの祖父母は気にもとめていない様子だった。


「…ていうかお兄ちゃん早っ!?」


ガタン、という扉の音を聞いた後、ユリアはそんなことに気がついた。_いつもはもっとお寝坊さんなのに…


「これはもう、彼女が出来たとしか思えないわ!! 怪しい、怪し過ぎる!!」


1人で勝手に頷くと、あの不器用かつ女性とほぼ関わらない発明バカの兄が惚れている女性というのが一体全体どんな人物なのか_それを探る気満々になるのだった。


「怪しいのは、ベーテンシュロスよ…。ま、まさか! ヘレナさんの親戚の子だったりして?」


_あれだけシルバラ教に興味の欠片も無かった兄が、1週間前からベーテンシュロスに通いつめている。…まさか! あろう事かシルバラ教の聖地、ベーテンシュロスに務める女性の親戚に想いを寄せているなんて!! …と、彼女の脳内は早くもおかしな方向に暴走し出していた。


「おばあちゃーん! おじいちゃーん! ご飯食べる!」


_こうしてはいられない、早く食べて力をつけなくては…!


彼女はいつになくモリモリとご飯を食べた。それこそ、彼女の祖母が目をまんまるくするほどに。全ては兄の恋のお相手を探り出すために_


だから彼女は知る由もないのである。この後、その意気込みのすべてを粉々に砕かれるなんて…




そして時は現在に戻り、ラルフは自分の家の前にいた…のだが。


「………ユリア?」


「お兄ちゃん!?」


兄妹の間に気まずい沈黙が訪れる。兄の方は鼻歌を歌いながら出てきた妹に訝しげな視線を送り、妹の方は自分が探そうとしていたまさにその人物の登場に驚きを隠せずにいた。


「お前、なんか用か?」


「いやー、特に、何も…?」


まさか言えるわけがない。「お兄ちゃんが度々会いに行っている女の人が誰か、お兄ちゃんの後をつけて探しに行こうとしてたの!」などと。…あまりにませているため忘れられがちではあるが、彼女はまだ10歳。とっさにごまかすための台詞が出てくる訳もなかった。


「ならいい。ちょっと紹介したい知り合いがいるからついて来てくれ」


「えっ、あ、うん…」


_紹介したい知り合い…つまり、もう恋人同士なの…!? ユリアはまたもや想像力をフル回転させて、”兄とその想い人“_つまり“ラルフとフィーネ”の馴れ初めなどを想像していたのだった…


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