少女と光
_朝の光が、部屋に差し込んだ。
この城の者以外誰も知らないであろうその部屋の主は、まだ眠たそうに目をこすっていた。
「ふわああ………眠いし、寒いし…」
まだ覚醒していない頭を働かせるため、部屋の主_フィーネは水飲み場へと向かった。
ギュッ、カラカラカラ…金属に水が落ちる音がする。この音が、フィーネは割と好きだ。
「冷たい…っ」
外の空気が冷たいためか、水もかなり冷たい。…でも、冷たい水のおかげからかスッキリとすることが出来た。
「さて、まだあの子も来ないだろうし、掃除しておかなくちゃ」
清掃用具を取り出すと、少女は鼻唄を歌いながら箒で建物_ベーテンシュロスの真ん中を丁寧に掃き始めた。
と、その時。
ギギギ…と音を立てて、古めかしいドアが開けられた。
「え、人…!?」
少女は慌てたように、箒を持って自室に駆け込んだ。
バタンっ
「…ん、なんだ今の音」
入れ替わるように入ってきた少年、ラルフが訝しげに眉根を寄せる。そして、置き去りにされたちりとりを見て、更に不信感を募らせた。
「ちりとり…掃除か? でも、だとしたら今、ここに人が居たはずだし………」
ギギギ…再びドアが開けられる音が響く。
「おや、ラルフくんじゃないかい。珍しいねえ、朝早くから!」
「ヘレナさん? …え、ということは今のは…?」
快活に挨拶するヘレナ_この城に務める人間だ_に対し、ますます眉間のシワを深くするラルフ。
「何、どうしたんだい?」
「いや、さっき_」
ラルフが先程の事を説明する。すると、ヘレナは目に見えて焦り始めた。
「気のせいじゃないかい?」
「いや、音もしたし、ちりとりも…」
「あたしが昨日忘れたままだったのかも…」
「だとしたら箒が無いとおかしくないですか?」
黙りこくるヘレナ。_これは怪しい、とラルフのカンが告げていた。
「ヘレナさん…何か、隠してますよね?」
ビクリ、肩が揺れる。
_確か、バタンっ、という音がしたのは出入口から見て左側…ということは、一番怪しいのはあの奥の部屋、だが…
「ヘレナさん、やましいことでもあるんですか? 隠すようなことは何も無いのでは? だって、ここはシルバリスタ教の聖地_ベーテンシュロスですよ?」
何も答えないヘレナ。もちろんラルフは、彼女が何かやましいことをするような人間だとは思っていない。ただ_カマを掛けたのだ。
ヘレナの隠し事、それは、やましくないけれど諸事情により隠さなければいけないこと。でも、かくしつづけることは、ヘレナにとって良くないような_そんな気が、ラルフにはしていた。
「何がなんでも隠したいもの…」
ラルフはつかつかと奥に歩き、そして階段の前で止まった。
「小さい頃からここ、何か怪しいと思ってたんですよね」
階段を降りるとそこには_ドア。
「開けますよ」
「ラルフくん! 待って!」
ヘレナの叫びも無視し、ドアを開けると_
「………だ、誰?」
そこには、差し込む光を反射してキラキラと輝く銀色の髪の少女がいたのである。