4 小さいのは駄目か?
「だいたい分かったからそっちはもういいや。じゃあ、もう1つの件だけど。オレの趣味に何で興味があるんだよ?」
「パートナの好きなものが知りたいって、おかしいか?」
「え、オレってパートナだったのか……?」
それは知らなかった。使いっ走りとか下働きとか、そんな感覚だと思っていた。何なら奴隷商人らしく奴隷と同じ扱いなのかと。
「……何だそれは。お前、もうちょっと自分に自信を持った方がいいんじゃないか?」
「オレの問題じゃなくて、あんたの扱いの問題だって発想はないの?」
そんな目を丸くして可愛い顔しても無駄だから。ほら、視線を逸らすな。
全く。毎日のようにブーツで蹴りつけられている為に、だんだん脛を狙われても、足を上げて避ける技がうまくなってきた。今では3回に1回位は成功する。さっきは失敗したけど。
逆に言うと、その技ばかり日々上達する位の頻度で蹴られているワケで。
それってどういう扱いか、分かってるんだろ?
「それで、オレの好みが分かって何か発見があった? さっき、随分落ち込んでたけど」
「……いや、だから聞いただろう。お前はそんなに胸が大きいのがいいのか、と」
「何だ? まさか、自分が胸小さいからオレの好みじゃないかもって?」
冗談半分にからかうと、本気で落ち込まれた。
……え、何? ちょっと、おい。
震える唇から、溜息と共に問うてくる。
「……やっぱり小さいのは駄目か?」
「え、いや……今、あんた男だからさ。そんな大きさ調べる為に触ったこともないし、ちょっと分かんないな……」
どきどきしながら適当に誤魔化そうとしたところで、サクヤが視線を上げて距離を詰めてきた。
「今のは嘘だろう。これだけ女の胸ばかり見ているお前が、分からない訳がない」
「ええ!? そんな眼力を期待されても……」
ちょっと待てって。
――こら!
そんな潤んだ瞳で、見上げてくるなって。
「……小さいのは、嫌いか?」
「き、き、嫌いじゃないけど。いやあの、正直、触れるなら何でもいい……」
……あ、今のなし。
気持ちの上では半分事実だが、男の発言として口に出しちゃいけないレベルの話だった。ついうっかり本音が出た。最悪だ。
サクヤも驚いたように目を開いて、硬直している。
「触りたいのか……」
「あの、ほら。あんた第二誓約があるだろ」
「第二誓約では……身体の表面に触るくらいのことは、異性・同性、何の問題もない」
「え!? そうなの!? じゃあ、揉んだり舐めたり吸ったりとかも……」
「そ、それはどこを――いや待て。答えるな。聞きたくない」
ついにサクヤは、耳を塞いでしゃがみこんでしまった。真っ赤になっているので、どうもオレの発言は、こいつの想像の範疇を超えているらしい。
目元まで赤く染めたまま、下から涙目で見上げてくる。
「……あの。触るくらいなら、場合によっては許してもいいから――」
「何言ってんだ、あんた!?」
思わず変な声が出た。
オレだけじゃない。
サクヤの発言も口に出してはいけないレベルの言葉だ。
特にあんた、そういうの言っちゃダメだろ!
こんな、すぐ赤くなっちゃうような精神レベルなのに!
誓約のこと考えろって!
「――許してもいいから、大きさには目をつぶってもらえないだろうか?」
「止めろ! あんたと一緒にいるのは、おっぱい目当てじゃねぇから!」
今の言葉、早く撤回しろ! 何か補足をつけて、違う意味にしてしまえ!
今すぐ襟元を掴んで、がくがく揺さぶってやりたい。
が、足元にしゃがんでいるサクヤがいつになく愛らしい様子なので、それを乱暴に扱うことは非常に気が引けた。
仕方なくオレはこれ以上会話をしたくない意思表示として、踵を返してベッドにダイブした。
今の会話のことを深く考えてはいけない。
考えると、青少年の精神衛生上、非常に良くない。
触っていいなんて、何て大きな釣り餌だ。
でも、触ったら絶対そこで止まれないって!
シーツに潜り込みながら、赤くなって床にしゃがみこんでいるサクヤの姿を、ちらりと思い出す。
何故だ。あんた今、男だったよな?
オレ、あんただったら、男でも女でも可愛く感じちゃうように、いつの間にか逆に教育されたんだろうか?
よくよく考えれば。
胸の大きい女が好みだったはずなのに、何故かあんたと一緒にいることになってるし。
今だって、こんな――
――なあ、もしかしてオレも。
いつかは、師匠と同じように、あんただけしか見えなくなっちゃったりして。
嫌な予感をかき消すために、必死に目を閉じた。