表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

3 興味は、ある

 ふと思ったのだが、姫巫女になった時期が問題なのかもしれない。

 姫巫女はほとんど不老不死なので、そこで成長が止まったってことは聞いた。

 しかし、その時サクヤは何歳だったのだろう。


「あんた幾つで姫巫女になったんだっけ?」

「……15になる年だったと思うが。突然、何だ?」


 なるほど年下に見えるはずだ。

 見た目からして、発育が良い方ではなかったと思うから。

 もしかすると。

 この人、第二次性徴とか来てないんじゃない?


「ちょっと聞きにくいこと聞いてもいいかな?」

「……聞くのは、お前の自由だ」


 いつかと同じ台詞だが、今回はおずおずと返事をしている。

 まあ、安心しろ。

 そんな怯えられるような質問はしないって。

 ――そもそもオレが恥ずかしくて出来ない。


「あんたさ、脛毛とか別に剃ってるワケじゃないんだよな?」


 ……いえ、あの。

 別に、見たくて見たワケでもないんですよ。

 こないだ、あんたがバスローブ着てる時にちらっと見ただけで。

 ちらっとね。


 まあ、あんたに脛毛があったら、すごいショック受けたとも思うけど。


 サクヤはオレの質問に何と答えるべきか迷ってるようだった。

 また即答が返ってくると思っていたので、少し意外。


「……迷うってことは剃ってるの?」

「バカか、お前は。わざわざ体毛を剃る男なんか、俺だって見たことないわ。俺が言いたいのは……つまり、こう返すと俺が……」

「ああ、生えてないのがバレちゃうって」


 がすっ、とブーツの底がオレの脛に当たった。

 図星だったらしい。


「痛い。……つまりあんた、第二次性徴まだなんだ」

「……悪かったな」


 まだというか。

 ここで成長が止まったサクヤには永遠に来ないというか。

 どことなく恥ずかしそうな様子に、オレは質問を続けた。


「別に悪くはないんだけど……そんなんで、春画(エロ本)見て、あの、ぼっ……するの?」

「ぼ? ……何?」


 あ、やばい。

 こっちの質問の方が聞きづらかった。

 ああまた、そんな可愛い顔で小首を傾げるなよ。

 単語自体が分からないらしいので、ちょっと言い換えてみる。


「つまり、その、性的に興奮する?」

「……それは答えなきゃ駄目か?」


 サクヤは頬を赤らめながら、上目遣いにこちらを見上げてくる。

 いつもは一方的にオレが辱められているような気がするので、時にはこういうのもアリだと思う。

 何となく、やられたことをやり返す気分で、気持ちがいい。


 嘘をつかないという誓約は、こういうとき本人にとっては非常に不便らしい。

 選べるのは、答えを返すか、返さないかの選択肢だけ。

 そして答えないことで、ある程度、本音が類推できてしまう。

 実際に今の回答で、既にオレにはイエスかノーのどちらなのかが分かってしまったくらいで。


 それでも、もっと恥ずかしい思いをさせてやろうと、あえて重ねて告げた。


「ダメとかないけど。オレは知りたい」


 この人、こういう直球勝負の言葉に弱いんだよな。

 屈折しているのに根がマジメなので、気持ちを理解してしまうと、適当を言って逃れるのに罪悪感を覚えるらしい。従ってオレはいつだって、直球の中にいかにして変化球を混ぜるかという組み合わせで、サクヤを説き伏せていくことになる。


「だってあんた、そういう素振り全然見せないし。いつだってオレばっかりどきどきしてて、不公平だ。さっきだってオレの好みを盗み見て、自分は好みなんてないなんて、ずるいじゃないか」


 勝手に人の荷物を見たことに、ちょっと罪悪感を煽ってやると、思った通りサクヤは少し眉を寄せた。

 気持ちをぐらつかせたら、後はもう、変に喋らない方がいい。

 黙ってサクヤを見つめていると、静かに視線を逸らされた。


 俯いたまま小さく答えが返ってくる。


「……興味は、あると思う」


 顔を伏せていると、うなじが真っ赤になっているのが良く見えて、これはこれで趣深い。サクヤは色が白いから、怒ったり照れたりすると、血が上るのがすごく良く見える。

 はは……。いつも無防備に煽って、オレばっかり照れさせてるお返しだ。


「まあ、興味なかったら読まないだろうけどさ。それってどんな興味なの。オレの趣味を確認したいの? それとも女の身体に興味あるの? 自分の身体見ればいいじゃん」


 オレがあんただったら、そうするわ。

 おっぱい揉み放題だぜ、いぇーいって、さ。


「……両方かな。自分のは全然カウントに入らないだろ。お前だって、男の腹の筋肉を見てみたいと思ったとして、自分の見ろとか言われたら困るだろう?」

「――いや、待って。前提がおかしい。オレ、男の腹筋見たいとかあんま思わない」


 どうも興味の方向が違うか、そうでなければ興味の対象が男女限らないのか。

 とにかく、オレの思考とサクヤの発想には何か深い溝がある気がする。


「単純に教えて。ムラムラする?」

「その感覚は良く分からない。自分がこうだったらどうだろうと思う。羨ましいと言うか……」


 あんた、それは。

 やっぱ興味の質が違う。

 あんたのは、大人に憧れる子どもの発想なんじゃない?


「腹筋があるのがいいのかよ?」

「……何だこれ、恥ずかしいな。……だから、あの、背が高いとか、腕が太いとか」

「成長したのを揉みたいとかは思わないの? 例えばイオリとかさ」

「イオリの腹筋を?」


 違う。違う、違う!

 やっぱあんた、男の風上にも置けないヤツだ。

 イオリと言えば、あの爆乳なの!

 あんな至近距離で擦り付けられて、挟まれて押し当てられて、他に思うことはないのか!?


 この人、あんまり性欲とかないんだ、やっぱり。

 もともとの気質もあるのかも知れないが、多分そういう方面の成長が遅い上に、成長の止まった年齢が低かったのが、一番のネックだと思われる。

 あ、あとは、ストイックにならざるを得ない環境っていうのもあるか。


 まあ、おおかた予想はしてたけど。

 改めて認識してみると。

 ……この人が、いつもオレを誘惑するのは。

 本人としては何の思い入れもなく、ただ普通に会話してるつもりなようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ