2 そんなに好きなのか
「……ごめん、この話題、やっぱ止めようぜ」
単純に、言葉を口にだすのが恥ずかしいというのもあるが。
この話を続けることで、良からぬ方へ話が進みそうな気がする。
良く考えろよ。
サクヤが何をネタにしてるかなんて、知りたくない。知ってどうする。
サクヤは小首を傾げながらも、特に異論なく口を閉じた。黙って胸元の冊子をこちらに差し出してくる。
「……おう。ありがと」
「別のこと聞いてもいいか?」
あまりこの会話を続けたくないのだが。
相変わらず、サクヤは落ち込んだ様子をしてる。何となく可哀想になったので、オレは視線で了承した。
サクヤが事前に質問の了承を取るなんてこともそうない。何か随分と引っかかることがあるらしい。
「素朴な疑問なんだが――」
「何だよ」
「――やっぱり、この冊子に乗っている娘達のような大きな胸がいいのか。どのページもそればかりで……」
慌てて、手の中の冊子を荷物の奥に突っ込んだ。
あんた、見るつもりはなかったとか言って、随分ちゃんと見てるじゃないか。
「何それ? どういう質問? オレの好みに文句があんの?」
「文句じゃない、とりあえず聞きたい。エイジはそういうのが好きだと言っていたが、お前はどうかと思って」
「……ああ、エイジなら堂々と答えるだろうね」
エイジは女と仲良くなるのが、人生において一番楽しいと思ってるヤツだ。
傍で見ていると、そんなエイジの好みはすぐに分かる。
まあ、好みと言うか、身体が目当てと言うか。
口説く女が大体そういう出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでる、メリハリのあるタイプ。
あいつがサクヤに好みを聞かれたなら、いいセクハラのチャンスだ、おもしれぇ、くらいに考えて、細部までこだわってしっかりと説明してくれるだろう。
むしろこういうことを誤魔化して教えないのは、エイジより師匠だ。
「あんた、師匠にも同じように好みを聞いたりした?」
「した。ナギはものすごく限定してると言った。見せてもらったら全部同じタイプで、痩せ型で小柄で、長い金髪で、こう小綺麗な……」
……ああ、こっちもセクハラまがいだ。
そういうの、見せんなよ。
しかも――
――言いたくないけど、それ、まるっきりあんたじゃん。
やっぱりあの人、あんたにしか興味ないんだ。
しかも、ここまでされても、本人が気付いてないってどうよ。
オレはちょっと自覚を促す意味で、突付いてみることにした。
「なあ、それってさ、誰かに似てないか?」
「誰に?」
「金髪で、ちっちゃくって、キレイな――」
「サラは黒髪だろ」
まあ、確かにサラはちっちゃくてキレイだけどさ。
――この鈍感。
自分が対象だなんて、これっぽっちも発想にないらしい。
これ以上聞いても無駄な気がしてきたので、別のことを聞くことにする。
「……じゃあさ、あんたの好みは?」
あ、やばい。
聞いた直後から、これじゃない感。
この話題を避けようとしたはずだったのに、結局また戻ってくるっていうのは。
……やっぱオレ、聞きたいんだろうか。
オレの質問にサクヤは顔をしかめた。
きっとまた「聞いてどうする」なんて、誤魔化すような言葉が返ってくるのかと思っていたが。
予想外にあっさり答えが出た。
「特にない」
姫巫女は嘘をつけないので、ないと言うならないのだろうけども。
しかしやはり、そこは問い質しておきたい。
――男として。
「おい。ないって、どういうことだよ」
「言葉の通りだ。そういう目で人を見たことがない」
「……通りすがりに、あの人おっぱい大きいなー、とかは?」
「まあ、それに気付けば、そう思うくらいはあるかもしれないが、それは……」
「随分揺れてるなー、とか」
「だから……」
「重くないかな、肩凝らないかな」
「……おい……」
「触りたいな、とか!」
「……そんなに好きなのか」
悪かったな。おっぱいには人類の夢が詰まってるんだよ!
最終的にサクヤはこめかみを押さえながら、オレの方を見た。
「美醜の判断くらいはするが、どうこうする目的がない。これでも『姫巫女』だし。第2の誓約を破る訳にはいかない」
はいはい。いつもオレを困らせるアレね。
言いたいことは分かるけどさ。
そういう理屈では抑えられないから、欲望の力は偉大なのですよ。