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11 じゃあ、諦めろ

 目の保養と言えると思います。

 片や、クール系スレンダー美少女。

 片や、おっとり系巨乳美女。

 この2人がいちゃいちゃとくっつきあいながら道を歩いている様子は、後方から見ていても微笑ましい。


 ――惜しむらくは。

 間に、オレが入っていないことだ。


 おっとり系巨乳のクルミは、オレが近寄るとザリガニのように勢い良く後ずさりしてサクヤの後ろに隠れてしまう。

 サクヤは別にオレが近付いても、逃げはしないが。

 さっきからずっとその眼が「この巨乳好きが」と語っているので、非常に怖い。

 むしろ、近付いたら殺られる。


 そんなこんなで、折角のハーレム状態なのに全く甘受出来ない。

 何だよ、これ。

 話し相手もいなくて、寂しいよ。

 せめてサクヤさんに普通通り対応してほしいのだが。

 今更「チガウヨ」と言ったところで、信じてはもらえないと思う。


「うわー、すごーいぃ、サクヤ様ウエスト細いぃ」

「……嬉しくない」


 ああ、いいなぁ。

 こういう女同士のじゃれ合いって。

 オレとサクヤだとさすがにここまでべったべったしながら、歩いたりしない。

 日によってはほとんど喋らないことさえあるくらいだ。

 移動中だと半日間で交わした会話が「水いる?」「うん」だけだったり。別に喧嘩してるワケじゃなくてもさ。


「いいなぁ。好きな服が着れるぅ」

「クルミも着ればいい」

「私ぃ胸の大きさに合わせるとぉ、袖が長くなっちゃって綺麗に着れないのぉ」


 クルミが自分の胸を抱えて、ぷるんぷるんさせている。

 ああ、いいなぁ……と、もう一度思ったところで、サクヤさんがこちらを見ていることに気付いた。

 慌ててオレは首を横に振る。

 自分でも、どういう意味のボディランゲージかは良くわからない。


 とりあえず移動はしているのだが、目的地が良く分からないので、意を決して話し掛けることにした。


「……あの、サクヤさん」


 冷たい視線が返ってきた。

 慌ててクルミがサクヤの背中に隠れる。

 負けずに話し掛ける。


「これ、どこに向かってるんですか?」

「クルミのご主人様のところへ」

「……倒すの?」


 さっきクルミがそんなことを言っていたが。

 オレが尋ねると、サクヤは眉を寄せた。


「俺個人の感情を別にすると。お前、いきなり『奴隷を寄越せ』と言って、喧嘩吹っ掛けてくる奴をどう思う?」

「……理不尽だと思いマス」


 略奪だよな、それは。普通に考えて。

 サクヤが小さく頷いている。


「普通に売買を持ちかけた方が、まともだと思う」

「本業だな」

「そういうこと」


 どうやらサクヤの中では、方向性は決まっていたらしい。

 こっちが聞くまで開示しないのは、まあいつものことだ。


「……ただそれとは別に泉の話は聞いてみないとな」


 そうだ。ご主人サマとやらはリドルの泉を探しているんだった。

 泉の守り手としては無視できない話題だろう。


「サクヤ様が私を買ってくれるのぉ?」


 上目遣いで尋ねるクルミに、容赦なくサクヤが答える。


「転売するけどな」

「うぇえぇぇっ!?」


 悲鳴のような声が上がった。

 サクヤさん、あっさり過ぎです。


 これで奴隷身分から解放されると安心していたクルミからすると、そりゃ驚きのはずだ。


 ただしサクヤには、こういう時必要以上に悪い言い方をする癖がある。

 多分この様子なら、本当は転売先の見当もついてるんだろう。

 クルミを優しく扱ってくれるような転売先が。


「転売するのぉ?」


 うるうると瞳を潤ませるクルミ。

 ああ、可愛いなぁ。

 しかし数多くの奴隷を扱ってきたサクヤには、その手の攻撃は通用しない。


「そうしないと俺の資金が持ち出しになる」


 ……そんな言い方をしなくてもいいのに。

 もっと優しい言い方はいくらでもあって。

 クルミの納得するような言葉も幾つもあるのに。

   

 ただし事実として、クルミ購入費は転売で利益を出さない限りは、単純にマイナスになるだけで補填がきかない。

 そして、リドルなんて超高価な奴隷を買い集めて回るサクヤには、資金の欠如は許されない。


「えぇ……。でもでもぉ……」

「――カイ、お前が口を挟むことは許さないからな」


 クルミが可哀想に見えて何かを言おうとしたオレは、口を開く前に制された。

 オレは、了承の代わりに、黙って両手を上げた。

 サクヤは、満足げに頷いて、クルミの身体を自分から引き剥がす。


「今のところが辛いと言うなら、もう少しマシなところを紹介してやる。それともアブソーブド族の中に、クルミの身請け金が払えるような奴はいるか?」

「多分いないぃ……」


 獣人は数が少なく人間よりも身体能力が優れていることが多いので、基本的に高価だ。

 一度売られた同族を自力で買い戻すのは、かなり難しい。

 それこそサクヤのように、長い期間をかけて資金を用意しない限りは。


「じゃあ、諦めろ。俺の紹介先なら少なくとも牛馬のように扱われることはない」


 これはサクヤの言葉なので。

 もう少し加算して考えた方が良い。

 今の言い方なら多分――家族のように大事にしてくれるんじゃないだろうか。


 そんなサクヤ語の翻訳が出来ないクルミは、うぅ……、と唸ったまま黙ってしまった。


 オレはサクヤに近付いてそっと耳打ちする。


「もうちょっとマシな言い方しろよ。こんなところで揉めても仕方ないだろ」

「嫌なら今のご主人様を大事にすればいいだろ。俺だって慈善事業をしてるんじゃない。それにあの身体、見たか?」

「……え?」


 こ、ここここ、こういう時は何て答えればいいんだ?

 見た、と言えばいいのか、見てないと言うべきか。

 げへへ見た見た、すげぇよなぁって言えばいいのか?


 サクヤはオレの様子を見てイライラとブーツの底をぶつけてきた。


「痛ぇ!」

「馬鹿か、お前。何考えてるのか顔に出てるんだよ。クルミの身体、傷がないだろ(・・・・・・)

「……ん? ああ。そういう質問ね……」


 確かにクルミは肌に傷もないし、手も荒れていない。

 衣服も整っているし、髪の艶も良い。

 かなり大事にされているような感じがする。


 ――つまり、緊急性がない。

 困っていれば助けもするだろうが、クルミの口振り程に困っている様子がないということだ。

 まあ、後は性的な目的に使われてたらアレだな、ってくらいか。


 サクヤは溜息をついてオレを見上げてくる。


「お前、さっきから上の空過ぎるぞ。変に同情的だし」

「……別にクルミの胸の大きさは関係ないからな」

「どうだか」


 やっぱり信じてもらえなかった。

 どうも昨日の出来事に加えて、今の問答は決定的だったらしい。


 ――昨日のことだって。

 議論を途中で打ち切って、勝手に寝てしまったので。

 サクヤさんの中では自分(の胸)はオレに拒絶された、という結論になっているようだ。

 本来ならもう一度話して、誤解を解くべきだが。


 ……やだよ、もう。

 あんたずるいんだもん。

 認めたくないけど。可愛いんだよ、男の時でも。

 自覚がないのが決定的にずるい。


「なあ、胸の話はもう止めない?」

「今のはお前が自分で言い出したんだぞ。俺じゃない」


 そう言われてみればそうだった。

 いやしかし。あんたがずっと気にしてるのも事実。

 言い出したのはオレだが、昨日からずーっとサクヤの視線はオレを責めている。

 やっぱり、きちんとこの話題を終わらせなきゃいけないの?


 でもさぁ、この話続けると、絶対「よし、揉むか!」ってなるって。

 ……で、揉むじゃん。

 それでさ……。

 第二誓約って、具体的にどこまでOKなの?


 ――うわ、やばい! アウトだ!

 今の思考はアウト!

 ああ、もう。ほら、こうなるから考えたくないんだよ、この話題。


「――よし。やっぱ止めた。もうしばらくこのままでいい」

「何が?」

「サクヤ様ぁ、この人ぉ1人でぶつぶつ言って怖いですぅ」


 女性陣の冷たい視線を受けて、決意したばかりのオレの気持ちが少し挫けそうになる。

 でも、もういいんだ。ちょっと寂しいけど。


「……で、クルミのご主人サマとやらはどこにいるワケ?」

「サクヤ様ぁ着きましたぁ!」


 オレが質問したのに、クルミはサクヤに向かって答える。

 右手を上げて前方を指すと、胸がふるんと揺れた。


「ここがご主人様の潜伏場所ですぅ」


 潜伏場所の名に相応しく。

 それは、じめじめとして鬱蒼とした、見事な洞窟の入り口だった。

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