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10 詳しく教えて

 これが、泉に現れる幽霊の正体なのだろうか。


 人間で言えば娘盛り。

 その耳と尻尾をゆっくりと振る姿は非常に愛らしい。

 間延びした喋り方が優しげなタレ目と相まって、おっとりとした雰囲気を醸し出している。


 ――ところで。

 さっき捕まえたときから思っていたけど、この娘。


 ……でかい。

 いや、身長はオレより少し低いくらいだけど。

 はい、あの――胸部が。とっても発達してます。


 そのことにさすがのサクヤさんですら気付いたらしく。

 自分の胸元に押し付けられる柔らかい塊を、呆気にとられた表情で見下ろしている。

 ちら、とオレの方を見たが、その視線にどんな意味があるのやら。

 聞きたいような、聞きたくないような。


「他種族と言え獣人を助けるのは吝かではない。だけどその前に1つ確認しておかなければいけない」

「なぁにぃ?」

「黒くてでかい犬のような何かは、あなたの仲間か?」


 ああ、それは先に確認しておきたい。

 何せ、向こうから襲って来たとは言え殺してしまったので。


「ああ! ヨミ子のこと知ってるのぉ?」

「ヨミ子? それが、アレの名前か?」


 親しげな呼び方にオレとサクヤは顔を見合わせた。

 さて何と言って説明するか……。


「ヨミ子はご主人様がつけた私の見張りなのぉ。アレがいなくなれば、もっと動きやすくなるんだけどぉ」

「……殺してしまっても問題ないか?」

「全く問題ないどころかぁ、ぜひお願いしますぅ!」


 無表情のままだが、サクヤがほっとしたのが伝わってきた。

 ここで『大事な友達です』なんて言われたら、大土下座祭りを始めざるを得ないところでした。


「なら良かった。実はもうあの土の下にいる」

「……え!? もう倒したってことぉ? やっぱりリドル族ってすごいぃ!」


 再び抱きつかれている。

 感激すると抱き着く癖があるのか。


「あなたなら絶対出来るわぁ! お願い、ご主人様を倒して私を助けてぇ!」

「詳しく教えてくれ」


 ふにふにと押し付けられる身体を、サクヤは複雑そうに見下ろした。

 そのまま、線をこちらに向けてくる。

 視線の意味は――多分。

 『お前はこういうのが好きなんだろ?』だな、あの顔は。


 放っておいてほしい。

 オレがどんなのが好きでも別にいいじゃないか。


「あなたがリドル族ならすごく関係してるのぉ。ご主人様はリドルの泉を探してるのぉ」

「泉? 探してどうする?」

「何でもリドルの泉には不思議な力があるらしいのぉ」

「……間違いじゃないが」


 さっくりと言われて、サクヤが微妙な表情をする。

 不思議な力と言えばそれはそうだが。

 そんな甘い言い方ですむものではない、とも言える。


 何せ姫巫女サクヤへの魔力供給の全ては、泉の魔力によるものだ。

 その莫大な魔力たるや。

 元人間のサクヤさんは、しばしば扱いに困って暴発しているくらいだ。


「それでぇ、色々探してたんだけどぉ、もしかしてこれがリドルの泉なのかなってぇ」

「……ここにあるこの泉? 何故?」


 サクヤの疑問は正当なものだと思う。

 ……だって、どう見ても普通の小さな湧き水にしか見えない。


「美味しかったからぁ」

「……そうか。良かったな」

「あんたらの会話はそれでいいのか……?」


 つい口を出してしまうと、ロバ娘(アブソーブド)は、怯えたようにサクヤの背中へ隠れた。


「あ、そう言えばこいつがいたぁ! ねぇ、この人間何なのぉ?」

「俺の便利な道具(たびのつれ)


 ……あれ? 今、何か変な紹介のされ方したような?


「こいつはぁ、いきなり石を投げてきたりしないのぉ?」

「しないって。三之宮さんのみや かいだ。よろしく」


 右手を差し出すと、ロバ娘(アブソーブド)は恐る恐る手を伸ばして――ぺしっ、とはたくように高速握手を交わした。


「俺は神無器かんなぎ 朔夜さくや。あなたの名は?」

「……私はぁクルミ。みるくちゃんって呼んでもいいよぉ」

「遠慮する。クルミでいい」


 どう突っ込めばいいのか悩んでる間に、サクヤさんがばっさり切り捨てた。

 当のロバ娘(アブソーブド)――クルミは大して気にした様子もなく、「どうぞぉ」と笑っている。


 ――何と言う天然っぷり。

 どこがって、オレよりサクヤさんに懐いてるあたり。

 そいつ、まじで乙女心とか完全無視だぞ。

 ……まあ、オレもみるくちゃん、とは呼ばないけど。その呼び方、そこはかとなくいやらしい空気を感じるのはオレだけか?

 ああ、考えすぎですか。すみません。


「で、ご主人サマってのは何者なワケ?」


 オレが問うと、やはりサクヤの背中に隠れながらも、一応は答えが返ってきた。


「ご主人様はぁ、私のご主人様なのぉ。奴隷商人に捕獲されてぇ売られてぇ、買ったのがご主人様……って呼べってぇ」

「可哀想に」


 サクヤが頭を撫でると、クルミは嬉しそうに抱き着く。


「でもぉ、そんな日々も今日で終わりぃ! 私ぃ、今日からぁサクヤ様の奴隷になるぅ!」

「そのつもりはない」


 サクヤの答えは早かった。

 せめて、もうちょっと考えてやれよ。

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