interludeB
リドル族に伝わる魔法の中に姿を消す魔法がある。
黄昏視。
毎年の肝試しではそれをうまく操作して皆隠れていたのだと、義姉は言っていた。
結局、黄昏視について。
一族の血を引かない俺がかけ方を理解することは出来なかった。
でも姫巫女になったことで、強制解除の方法だけは分かった。
(あ、ちっちゃくない)
(いつもの視点だ)
結論から言うと。
『肝試し』というイベントに俺は7回しか参加しなかった。
7回目のイベントが。
俺にとっては生涯忘れられないものになったから。
その時の出来事については、あまり思い出したくない。
同胞は皆、知ってるけど。
見なかったことにしてくれた。
(……ああ、ごめん)
(この状態だとオレ、あんたがちらっと考えただけで)
(何があったか、イメージで分かっちゃうんだよな)
(そうか、そうか。そういうことがあったんだ、ね)
とにかくイベントが終わって。
17歳になっていた俺は、同胞達に泣きながら訴えた。
(……17歳ね。そりゃ、泣くわ)
(他にどうしようもないもんな。オレでも泣くわ)
外見を別にして実年齢で言えば。
同胞達は皆、俺より年上だ。
彼らは俺に同情してくれて。
翌年の定例行事から肝試しはなくなった。
(まあ、そんな状態見たら)
(脅かしすぎて悪かった、って言うしかないよな)
唯一、最後まで強硬に。
翌年からも継続を主張した義姉を。
その一点に置いてのみ俺は、一生許さない。
(あんたのねーちゃん、マジで鬼だわ……)
俺は姫巫女の地位を濫用した。
肝試しというイベントを。
禁忌の祭りとして、島から完全に消し去ることに成功した。
不満そうな義姉と、生暖かい同胞の視線を浴びて。
高らかに宣言した。
「本日この時より肝試しは禁忌の祭りとします」
「……おーぼー……!」
「イワナ。サクヤの気持ちも考えてあげなよ」
「イワナちゃん、いいじゃないか、それくらい。許してやりなさい」
(……まあ。あんたの気持ちは分かるよ)
若い姫巫女の宣言に大人達は優しかった。
勿論、優しさとは無関係に。
一度姫巫女が誓ったことを覆すリドル族がいる訳がない。
こうして俺は、心の安寧を手に入れた。
それでもこの7回の肝試しの間に。
幽霊に対するひどいトラウマが残ったのも、事実だった。




