雨、雷に打たれる
晴は目立っていた。
いつものことだけれど、講義室の中では特に目立って見える。
医学部は比較的真面目な人種が多いので、
晴のような遊び人風な人種は少ないのだ。
さらに、晴は顔は良く、落ち着きがない。
今も講義中なのに、足をぶらぶらさせ窓の外に視線を向けている。
・・・まぁ高校のように注意されることもないと思うが。
女子がちらちらと晴を伺っては意味ありげな笑みを交わし合っている。
講義が終わり講義室を出ようとしたとき―――
「―――日傘君、でしょう?」
カツリ、と足音がやけに大きく響いた。
彼女は美しかった。
偏見だろうが、医学部に籍を置いているようには見えなかった。
文学部がイメージにぴったりだった。
流れるような艶やかな黒髪に滑らかな白い肌。
夢見るような切れ長の瞳。すっと通った鼻筋。
白いワンピースが彼女の芯のある美しさを際立てていた。
たしかにそのとき俺は雷に打たれた。
それが、旅 仁魅との出会いだった。
「そうだけど?何?」
俺が彼女に見とれている間に、晴は何の感情も動かさなかったらしい。
・・・化物だ・・・。
「・・・話してみたかったの。噂になっているから。」
晴はオリエンテーションでさっそく噂になっていた。
イケメンの主席候補がいる、と。
・・・どこから情報が漏れるのだろう?
「あ、そう。」
晴は面倒そうだった。
まぁ、たしかに晴に話しかけてくる女子に
いちいち対応していたら日が暮れる。
・・・それに、旅さんは残念ながら晴のタイプではない。
晴は美人系ではなく可愛い系がタイプで、
知的系ではなく活発系がタイプなのだ。
「私は旅。旅 仁魅。・・・また今度話しましょう。」
「俺はあんたと話すことなんてないけど。」
晴はにべも無かった。
だが、旅さんはちっとも堪えた様子は無く、意味ありげな笑みを浮かべた。
その笑みは妖艶だったけれど、
さっき講義室で女子たちが浮かべていた薄っぺらなものでは無かった。
「じゃあ、また。」
「・・・今度は無ぇよ。」
晴の冷たい返事と彼女の遠ざかって行く足音を聞きながら、
俺は生まれて初めて―――女の子に、嫌われたくないと思った。