晴ときどき暴風のち快晴
「・・・おまえらさ、俺らなめてんの?
バスケはチーム競技なんだぜ。
おまえら一人でも俺一人に勝てないのに、何やってんの?」
不機嫌そうに晴は華麗なドリブルを始めた。
「ああ・・・。また始まったよ・・・。晴の『あれ』。」
「・・・それにしても、あいつ・・・。
晴の本気の球、『受けた』ぞ。しかも、『投げた』。」
相手方のチームメイトはそんな晴に慣れているらしく、
ぼやきつつその様を眺めている。
「おまえら、すごい奴がチームにいるのに、それを無駄にしてるんだぜ?」
乱暴に晴は俺の手首を掴んで捻じ曲げる。
「いてててててっ!!」
「ほら見ろ。こいつは手首が柔らかいんだ。
普通なら手首が折れてる。
俺の本気の豪球も、だから受け止められたんだ。
・・その上、反射神経も抜群にいい。
だから、本気の俺の走りにもついていけたんだ。
球のコントロールも上手いしな。」
褒められて俺は嬉しかった。
「だ、が!!
腕力はからっきしないし、軸もブレてるし、持久力はないし・・・
なんかダサいし、ナヨっとしてるし、暗いし・・・。」
だが、その次の言葉ですごく傷ついた。
何もそこまで言わなくても・・・。
「けど、一番の問題はおまえらだよ!!こいつを全然生かせてない!!
パスは出さない、パスをもらいに行かない!!
気づかないとでも思ってるのか?!!ふざけてんのか?!!
だが、その中でも一番の大っ問題はおまえだよ!!」
そう怒鳴って晴はコーチを指差し、敵のように睨んだ。
「おまえ何してたんだよ?!!
コーチならこいつを生かす努力をしろ!!
それ以前にチーム仲間の嫌がらせに気づいてなかったとしたら、
とんだおめでたい無能力ぶりだな・・・!!」
コーチはぶるぶると全身を震わせている。
「だから、おまえらは弱いんだよっ!!!
以上!!つまらないから帰る!!」
そう怒鳴って晴は体育館を出て行ってしまった。
晴はその頃から完璧だった。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。
だが、いかんせん性格が悪かった。
けれど、俺には分かった。
日傘 晴は―――――本物だった。
何にも感心がなかった俺の心を一瞬で掴み取るくらいに。
そして、その天才は・・・努力で作られたものだった。
俺を掴んだその細い指はボロボロでテーピングだらけだった。
その頃から晴は努力を他人に見せたがらない奴だった。
体育館から飛び出すと、晴は指先でボールを回していた。
「・・・今度の日曜の練習、ウチのチームに入れよ。」
晴は当然のように言って、ボールを投げて寄越した。
そのとき初めて。
俺はバスケを選んで良かったと思った。
「―――うんっ!!」
「何で泣いてるんだよ?変な奴。えーーと・・・」
晴は本当に不思議そうな顔をした。
「滴だよ。―――雨宮 滴。」
「女みたいな名前。」
とげのある言葉だったけど、その笑顔は
―――やっぱり太陽に愛された笑顔だった。
―――そのとき、晴と出会っていなかったら・・・
俺は心から晴を憎めただろうか?
そのとき、晴を追いかけたりしなかったら・・・。
晴とバスケをしなかったら・・・。
晴と友達にならなければ・・・。
晴と友達で居続けなければ・・・。
それでも俺は・・・
――――――晴とあのとき出会えたことを、後悔なんて、していない。