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太陽と雨  作者: 結依
晴と滴
3/8

晴ときどき傍若無人

練習試合とは言ってもそれは実質、指導試合のようなものだった。

実力差がありすぎるのだ。

この地区では有名な強豪校で全国試合にもよく出ている

いわゆる名門校なのだ。

コーチ兼任の教師が相手の専任コーチにぺこぺこ頭を下げ、

飲み物の箱を手渡していることからもそれが子ども心にも分かる。

当然こちらのチームの指揮は始まる前から下がっている。

しかも、コーチ自ら

「○○校さんから戦略を教えてもらってくるように」と宣う。

負け確定の試合なのだ。

・・・早く終わればいいな。

滴の目線はいつもにまして下がりがちだった。


そんなこちらのチームを睨みつける相手方の少年に

滴は気づいていなかったのだ。

そして、誰もがその少年の姿に眼が釘付けになっていることも。



「・・・おい。日傘だぜ。日傘 晴。」

「ほんとだ。サインもらえねぇかな?」

仲間たちの囁きにやっと滴が気づいたのは練習指導が終わり、

試合の前のアップのときだった。

日傘 晴。

その名前は知っていた。

『天才バスケ少年』。そう呼ばれる存在。

この地区では有名人だ。


ガードからセンターまで器用にこなす。

特にロングレンジのシュートを得意とするプレイで有名だった。

本当かどうかは知らないが相手のゴール下からシュートを決めた、とか。

ダンクシュートを見事に決めたはいいが、

ゴールに腕が引っかかり降りられなくなったとか。

高校生の有名選手と対等に1on1を戦ったとか。


そうか。あの日傘 晴がいたのか。

滴にとってはなんだか天然記念物のような存在だったが。

その姿でも拝もうと目線を泳がせた瞬間―――目があった。

というか、相手がこちらを睨んでいたので強制的に目があったのだ。


白い髪。だが、老人のようではなく透き通った若若しさだった。

鼻は形よく上を向いていて、

何よりその眼は生き生きとしていて・・・。

日傘 晴の顔はよく知らなかったが、確信した。

『こいつは日傘 晴だ』と。

その眼は圧倒的な強者の眼だった。

それほどに日傘 晴は独特の雰囲気を持っていた。

いや。持ちすぎていた。

見た瞬間、『あ、ダメだ。こいつには勝てない。』と悟ったほどである。

自信に満ちたその眼。表情。

その一挙一動が自信と輝きに満ちていた。


呑まれそうで滴は咄嗟に眼をそらそうとした。

が、その瞬間、晴は笑ったのだ。

ニヤリ、とものすごく嫌なかんじに。

丁度それはライオンの舌なめずりに似ていた。

『おまえを喰ってやる』という笑いだった。

「?!・・・??」

それはおよそ初対面の者に向ける笑いではなかった。

咄嗟に周りを見渡すが、間違いなくそれは滴に向けられたものだった。



 試合は始まった。

晴の快進撃だった。

まぁ、よく動く。点がバンバン入る。

だが、ハイタッチを交わす晴は不機嫌そうだった。

それになんだか気のせいでなければ・・・俺を睨んでる??



・・・そして、試合後半、ついに晴が切れた。

「っおまえらいいかげんにしろっ!!!」

そう怒鳴って俺にボールを投げた。

片手で、である。

バスケのパスではなく、ドッジボールのごとく、だった。

しかも頭部を狙って。

いっそ殺傷能力のあるそれである。

受けた手がじんじんと痺れた。


しん、と静まり返り硬直した体育館。

だが、そんな周りの様子に関わらず晴は走り出していた。

『俺たちの』ゴールに向けて。

その姿を眼で追うと同時に滴はパスを出していた。

それを見事に受け取ると晴はシュートを放った。

ボールは見事な放物線を描き、ゴールに収まった。

静かな体育館にボールのバウンドだけが響いていた。


晴は満足そうだった。

そして、「ナイスパス!!」

ニカリと笑って両手を差し出した。

太陽みたいな笑顔に、反射的に俺はハイタッチを決めた。

たしかにそのゴールは俺と晴と二人で作り出したものだった。


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