0、いつもの朝だったはず。
明けない夜はないとは言われますが、当たり前のように、 いつも通りに朝はやって来るわけで。
雨戸の隙間から指す朝日はログハウス調の造りの部屋を薄く照らす。余計なものはなくシンプル。ベッドに小さなサイドテーブル、タンスのみ。
「……もう朝か。」
上半身を起こし、ふぅぁーっと身体を伸ばしながらあくびをひとつ。寝癖で絡まった髪を手櫛で簡単に纏めながら窓辺に向かい少々立て付けの悪い雨戸を開ける。
窓の向こうには草原、そのまた奥には森と山が見える。しかし、その風景は見馴れた日本とはかけ離れた草原。生態系からして違うのだから。
「まだ慣れないんだよなー。」
この部屋で眠るようになって十日目、自身の適応能力には驚いた。
精神年齢三十九歳、もう半年もすれば四十になる、立派なアラフォー。なのだが外見は十二、三歳と言ったところか。どうしてこうなったのか、毎朝目覚める度に自問自答してしまう。
『……もう、諦めて受け止めなよ。』
頭のなかに直接響く声は囁く様に甘い低音。
「納得出来る訳がない。」
冷静に応える声はまだ声変わり前なのか子どもの声色。
「うーん。」と、頭を掻く。精神年齢と身体年齢差異に戸惑いがある。
『直ぐに馴染む馴染む。』
全く他人事な返事だなぁ、自分の身に置き換えてみろと胸ぐらを掴んで言いたいが、相手は声のみで本体が此処には居ない。どうしたものか。
事の始まりは十日前。いつもの日常、いつもの朝。声の主に出会うまではそれこそ三十九歳の一児の母の私だった。高校生の娘を送り出し、朝の家事を終らせ自分も職場へと家を出、いつものバス停へとアスファルトに舗装された歩道を歩いていた筈だったのだが、気が付くと全く知らない道を歩いていた。舗装のされていない地面、横には小川が流れ畑が広がっていた。来た道を戻ろうと後ろに振り向いて見たがアスファルトは見当たらない。朝だった筈の空は陽が傾いてる。辺りを見てみれば外灯も無く、人も居ない。自分のいた筈の場所と時間は何処へ?自問自答を始めるとガサガサと物音近付いてきた。何だろうかと音のした方を見れば見たことのない生物。小型犬程の大きさ、全体的には羊のようでいて、して耳と目はウサギのよう。
「……なんだ、これ??」
可愛いことは、可愛い。脚に摺り寄る姿に少し口元が緩んだ。
油断してしまったんだ。
説明があまりに説明になってないかも。