百合
電車に乗って、となり町の銭湯にやってきた。優香ちゃんとお風呂に入るのなんて、何年ぶりだろうか。
小学生の時に、優香ちゃんのお家にお泊りに行って以来だと思う。あの頃はお泊りなんて非日常は初めてで、緊張していたし、今みたいに優香ちゃんのことを好きだなんて自覚していなかった。
目の前には、さっぱりとしたショートの黒髪がじっとしている。
普段、一緒にいると優香ちゃんは良い匂いがする。だけどそれは女子特有の体の匂い、フェロモンの香りであり、ショートの頭髪から発せられるものではない。
しかし今なら、少し髪をもたげれば顔を前に突き出せば、嗅ぐことができる。これは滅多に無いことだ。千載一遇のチャンスなのだ!
いろいろなことを考えていて少し時間が経ってしまった。優香ちゃんがもぞもぞと、寒そうに体をうねらせる。悪いことをした。私の体は興奮で火照っており寒さを感じてはいなかったが、お互いにバスタオル一枚なのだ。そのせいで、今は優香ちゃんの陸上部で洗練された体を見ることが出来ないのが残念でならない。
「それじゃあ、頭洗うね」
「早くしてよぉ」
「ごめんごめん」私はシャワーを手に持って続けた。「蛇口ひねって」
ホースが張る感覚が手に伝わり、水が噴出され始め、やがてお湯へと変化した。
ではでは。髪の毛に横から指を差し入れ、お湯を当てる。優香ちゃんが目をつぶった事を確認し、顔をぐっと近づける。
熱湯によって、蒸れた髪の香りが鼻孔をくすぐる。柑橘系? 甘酸っぱい透き通った匂いが鼻の奥へと駆けのぼる。なんだか嗅いだことのある匂いだなぁ……まさか私のと同じ?
「優香ちゃんってどこのシャンプー使ってるの?」
「ん? 花情堂のだよ。多分、京子と一緒のやつだと思う。匂い的に」
やっぱり! というか匂い的にって、匂いかがれてたんだ! 私に合わせてくれたのかな。薬局で香りを頼りに、私と同じモノを探す優香ちゃんを妄想して、心地よさと気恥ずかしさが電撃のように体の中を駆け巡り、鳥肌を立たせた。
私は体を揺すって痺れを取り除こうとした。すると、急にシャワーが力を失った。どうやらお湯を止めたらしい。優香ちゃんが首を後ろに反らせた。
「顔近すぎ」
目があってしまい、気が動転して咄嗟に返す言葉が見つからない。優香ちゃんは、はぁとため息のように吐き、言葉を続けた。息が鼻の頭に当たり、くすぐったい。
「今日はいつもみたいに隙をを狙って、嗅ごうとしなくていいよ。好きなだけ嗅いで」
バレてた! 恥ずかしさが最高潮に達し、鳥肌が立った毛がすべて抜けてしまうんじゃないかと錯覚した。
「だからね、その代わりに……」優香ちゃんは両腕で私の頭を包み込み、顔を耳元まで近づけた。「私にも、嗅がせてね」
そう言って私の唇にキスをした。
私の毛は産毛まで抜け落ちたと思う。