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狼の遠吠え  作者: ちきん
序章
1/1

出逢い

勇者:????(仮)のキャラ設定と異なる点が多々あります。比較して読んでみると面白いかもしれません。

「――ここがエーラス大聖堂の中か。…意外と簡単に潜入できたのはいいが、如何せん手間取りそうだな……」


物陰に隠れ、密かに呟きながら思案する。

それにしても、馬鹿みたいに広い聖堂だな。うっかりしていると迷子になってしまうだろう。流石は神聖国メルレントの大聖堂といったところか。

まあ、おかげで警備が穴だらけでこちらにしてみればありがたい限りだけれど。


「とにかく、さっさと「何してるんですか?」――ッ!?」


しまった!完全に油断してた!

急いで顔を振り向かせると、そこには桜色ショートヘアの一人の少女が。格好からしてどうみても警備兵ではなさそうだが、ここにいる以上関係者なのは間違いない。

…祭司か何かだろうか?

…いずれにせよ、危険因子であることには変わりない。いつでも黙らせることができるよう準備をしておく。


「…いやぁ、ここに頼まれた品物を届けに来た商人なんだけど、ちょっと迷っちゃってね。今何処にいるか分からなくて困っていたんだ」


今適当に思い付いた白々しい言葉を媚びるように口にする。

嘘がこう当然のように吐き出せることから分かるように、俺は嘘つきだ。しかも筋金入りの。


「まぁ、そうでしたか。それは大変でしたね。よろしかったら、私がお連れしましょうか?」


俺の吐いた嘘を微塵も疑わず、案内役までかってくれる少女。

人を疑うということを知らないのだろうか?

…もし仮にそうであったとしても、俺には関係のない話だ。今はこの少女の好意を利用させてもらうとしよう。


「そうかい?…それじゃあお願いできるかな?祭事の時に使用する物が保管されている場所なんだけど……」


「あっ、それらなら宝物庫においてあります。…こちらです」


俺の手をとってクソ長い廊下を歩み始める。

この調子なら今回の依頼も問題なくクリアできそうだ。



「こちらが、宝物庫です」


道中誰ともすれ違うことなく(忍び込んでいる俺が言うのもなんだが、ユルすぎないか、警備)、巨大な扉の前に辿り着く。

どうやらここが宝物庫らしい。


「ありがとう。これ、いらないかもしれないけどお礼ね」


ポケットの中に何故か入っていた包みにくるまれたクッキーを取り出し、少女に渡す。


「いえ、当然のことをしただけですから……」


そう言って受け取りを拒否する少女。それは謝礼物に対する疑心ではなくて、心の底からそう思っているからであったと思える。

…汚さにまみれている何処かの誰かさんとは大違いだな……。


「いいのいいの。これは私が勝手に決めて、君にに無理矢理押し付けた物だから。気に入らなかったら捨てるなりなんなりして構わないよ」


そう有無を言わせぬ物言いで、困ったといった表情を浮かべている少女にクッキーの包みを押し付ける。

どうせ俺が持っていても食べないだろう物を、謝礼として処理できるのなら一石二鳥だ。


「それじゃ、本当にありがとね」


騙されたと未だに気付いていない少女に、心の中では微塵も感じていない感謝の気持ちを言葉に乗せて告げ、漸く辿り着いた目的地への扉を開けようとすると――


「神子様!こちらにおられましたか!捜しましたぞ!」


遠くから兵士四名がこちらに向かって走ってくる。それを確認した俺は周囲を見渡し、身を潜められる所がないかを探す。

…不味いな……。隠れるのは無理か……。


「む……そこにいる奴、何者だ?」


俺が内心で焦っている最中、兵士の一人が俺に対して問いかけてくる。


「あっ、この方はこの大聖堂に荷物を届けに来た商人さんですよ。道に迷っていたようでしたので、ここにお連れしたんです」


神子と呼ばれた少女が、俺がついた嘘をそのまま問いかけてきた兵士に説明する。だが、その嘘は俺がこの少女を騙すために咄嗟についた嘘であるため、真実は何一つ交えていない純度100%の嘘である。つまりは、簡単に見破られてしまう、程度の低い嘘。十中八九、ここを警備している兵には気付かれてしまうだろう。

チッ、荒事になるのは避けたかったんだけどな――


「――全員動くな!」


隣にいた少女の両腕を彼女の背面でまとめて左腕で離れさせないように押さえ、残った右手で少女の首元にナイフを当てる。


「……………え?」


俺に取り押さえられている少女が素っ頓狂な声を上げる。まあ、いきなりこんなことをされては当たり前か。


「き、貴様ッ!神子様になんてことを!」


兵士の、恐らくリーダー格だと思われる奴が声を荒げる。こちらもまた、通常の反応。


「おっと、下手なことするなよ?あんた等の大事な大事な神子さんの首が宙を舞ってしまうかもしれないぜ?」


冗談交じりに、そんなことを口にする。そんな俺の発言を聞いて、神子さんは微かに身体を震わせ、兵士達の動きも止まる。

…さて、ここからどうするか……。こうなってしまった以上、ここに長居するわけにもいかない。つまり、物を探している暇なんて微塵もないということだ。だったら、残る選択肢は一つ――


「死にたくなかったら口を閉じてろ!」


三十六計逃げるに如かず、ってな。

ナイフを投げ捨て、流れるような動きで神子さんを抱え、走り出す。


「――くっ、逃すか!追え!」


突然の出来事に対応するのが遅れたのか、少し間を空けてから掛け声と共に兵士達が追いかけてくる。

…だが、もう遅い。足に自信がある俺にとってみれば、重い鎧を着た兵士の足の速さなんて比較対象にすらなりやしない。たとえ、俺が人一人分余計な重りを抱えていたとしてもだ。

このまま、他国に高跳びさせてもらうとしよう。勿論、人質として神子さんも一緒に、な。



「――さて、と。取り敢えずは外には出られたか」


周囲の安全を確かめてから、ひとまず神子さんを降ろす。先の道程を考えると、ここらあたりで一旦休憩を挟んでおくか。流石に人一人抱えて長距離を移動する体力なんてないからな。


「あの…商人さんがどうしてこのようなことを……?」


「……………」


こいつ……まだ俺が言った嘘を信じているのか?どれだけ平和ボケしていれば気が済むんだ……。

…まあ、いいか。だったらその信用を思う存分利用させてもらうとしよう。


「…いやぁ、君があの兵士さん達に追われているようだったからさ。なんか知らず知らずの内に身体が動いちゃっていたんだよ」


にこやかな表情を浮かべ、心にもないことを適当に言う。


「えっ?何故あなたがそんなことを……」


「ん?…ああ、君が追われていたことをなんで知っているかって?あの兵士さん達が来た時に、君の瞳の奥が少し揺らいだのを見て、追われていると思ったからさ」


これは事実。まあ、だからといってあの時は何とかしてやろうとか一切思わなかったけど。他人が困っているから何だ、って話。俺は他人を助けるような高尚な人間ではないし、助ける余裕なんてものもない。


「そうでしたか……。しかし、私を助けるためにあなたは……」


そんなことを言いつつ、とても申し訳なさそうな表情になる神子さん。…別にあんたのためにしたことじゃあないんだがな。


「いいのいいの、気にしないで。私が勝手にやったことだからさ」


「しかし――」

「――神子様、今すぐそやつから離れてください!」

「――おっと」


声と共に俺目掛けて飛んできた先端が尖った大きめの石を短剣で弾く。

…見つかってしまったか。


「クレス!?」


随分と手荒いご挨拶をしてきた奴を見て、なんで彼がここにとでも言いたそうな顔をする神子さん。

……クレス?

改めて、いきなり襲いかかってきた奴の姿を見る。メルレント騎士団の上級騎士の格好に馬鹿みたいに大きな盾、それにクレスという名前とくれば、こいつの正体はすぐに分かる。

27歳という若さで少将まで上り詰めた実力者にして第三師団の師団長を務める男――クレス・シュバイン。

へぇ…噂には聞いていたけど、かなりのイケメン君じゃないか。思わず嫉妬してしまうね。


「おっと、それ以上近付くのは止めてもらおうか。でないと君達の大切なミコサマが酷い目に遭ってしまうよ?」


いまだに俺の近くにいる神子さんを抱き寄せ、またも首にナイフを当てる。

いやぁ、敵陣地のど真ん中での人質は使えるなぁ。


「…その汚い手を神子様から離せ!」


騎士様が何か喚くが、真面に取り合う気は毛頭ない。まあ元より、俺みたいな下賤な人間と騎士様のような人生勝ち組街道まっしぐらで進んできた人間では使用言語が違うから理解し合えることなんてないんだけどな。


「あー、その前にまずはその馬鹿でかい盾を置いて、その後ろでこっそりと詠唱している魔術を止めてもらおうか」


いくら俺がその辺のゴミクズレベルの人間だからって、ナメてもらっちゃ困るなぁ、と続ける。


「くっ……致し方ない……」


苦虫を噛み潰したような顔をして、盾をゆっくりと地面に置く騎士様。その間、一時も目を離さずにこちらの様子を窺っている。

…やはり、自ら敵を視界から外すようなアホな真似はしないか。


「やだなぁ、そんな真剣に見つめられると、恥ずかしくて思わず色々とばら撒きたくなっちゃうよ」


俺の服の至る所から煙玉やら閃光弾やらが転がり落ちる。その際、神子さん目を抱き寄せていた腕で隠す。こんな至近距離で眩い光を見たら失明コースまっしぐらだからな。


「貴様――ッ!?」


騎士様が何か言いかけるが、破裂した玉が口を紡がせる。辺りが閃光に包まれ、その数瞬後には更に煙に包まれているだろう。

勿論、俺も失明は避けたいので目を塞いでいる。そのために、辺りがどうなっているかまでは憶測でしかないが。まぁ、そんな情報は今はいらないだろう。今重要なのは、この場にいる誰もが、周囲を見ることができないという状況にあるということだ。そして、そんな状況下で俺がとる行動というのは当然――


――逃げ、である。

互いに目が見えない状態だからといって、一国の騎士団の少将に勝負を挑んでも捻り潰されるのがオチだろう。だから、ここで俺が選ぶべき選択は逃げの一手のみだ。ましてや、こちらの手には神子さんがいる。こんなろくに狙いも定められないような中では、相手は無暗に攻撃をすることはできないはずだ。大事な神子さんに傷をつけるわけにもいかないだろうしな。


――じゃあな。

心の中でそう告げ、俺は神子さんを抱え、音を立てずにこの場から煙を巻く前に記憶しておいた周囲のものの配置を頼りに、立ち去ったのであった。

時間に多少の余裕ができたので投稿いたしました。春季休業に入るまではこちらの方を進めさせていただきます。…月に1話投稿できるかできないかのペースですが……。

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