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八咫烏の遺言 ― 空は広い
(語り部:八咫烏)
最初に思い出すのは、いつだって“人間の顔”や
わしは長い年月、空の高みから関西の空、そして三空港を見守ってきた。
今、その歩みを振り返るとき、最初に思い出すのは飛行機の音でも、風の流れでも、雲の形でもない。――すべて“人間の顔”や。
初めて伊丹に降りた小さなプロペラ機を見上げた人々の顔。
関空の海を渡り、荒波と闘った建設者たちの顔。
神戸の痛みを抱えながらも、前を向いた街の人々の顔。
台風の暴風雨の中で旅客を守り抜いたスタッフの顔。
コロナの沈黙の中でも、決して空港を離れなかった者たちの顔。
そして万博の空をひとつに繋いだ、調律者たちの顔。
空は言った。
「わしは広い。けれど、その広さを支えとるのは、いつだって“人間”や」
空は強いようで、ほんまは弱い生き物や
空はどこまでも広い。けれど、広いからこそ本当は脆いんや。
風に揺れ、雲に裂け、海に乱れ、都市の過密に重くなり、人間の欲に押され、自然の怒りに震える。わしはそんな姿を何度も見てきた。
空は強いようで、ほんまは弱い生き物や。
しかしな――空は弱いからこそ、人間と手を結べるんや。
空は言った。
「わしは、人間がいてくれんと、一人では飛べんのや」
空は、人間に“未来”を託してきた
関西の空は、それぞれの場所で人間に未来を託してきた。
伊丹の空は、戦後の再生を。
関空の空は、海の上の大いなる挑戦を。
神戸の空は、震災の痛みを乗り越える強さを。
台風の荒れた日、空は人間に“立ち向かう強さ”を託した。
コロナの静寂の日、空は人間に“耐え忍ぶ刻”を託した。
万博の歓声の日、空は人間に“響き合う調和”を託した。
そして、未来事件の日――空は人間に“境界を越える力”を託したんや。
空は言った。
「わしは未来を信じとる。せやから、すべてをお前らに託すんや」
わしの役目も、そろそろ終わりに近づいとる
わしは長い間、この空の目であり、空の耳であり、空の記憶そのものやった。
しかしな、わしの役目もそろそろ終わりに近づいとる。
空は言った。
「お前はよう見守ってくれた。これからは、人間たちにすべてを任せよう」
わしは静かに、誇りを持って頷いた。
わしは空のいちばん高い場所から、愛おしい関西の空を見下ろしながら、お前らにこの言葉を遺す。
「空は広い。
けれど、その広さを守り続けるのは、いつの時代も“人間”や。
空は揺れる。
けれど、お前らが翼を信じる限り、空は絶対に壊れへん。
空は泣く。
けれど、お前らが下から支える限り、空はまた必ず笑う」
そして、最後に――。
「空は広い。
せやけどな、その広さの本当の価値を知っとるのは、わしやない。
――そこを生きる、“お前ら”自身なんや」
夜風が、わしの漆黒の羽を優しく撫でて通り過ぎていく。
すべてを託した街の灯りを見つめながら、わしは静かに翼を広げた。




