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リュウとリンは、ただ黙々と歩いている。明らかにリュウは落胆しているように見えるが、リンは特に変化は見られない。リュウが道端に転がる石ころを蹴飛ばす。思いのほか転がった石ころは少し離れたところにいた人物の前で止まった。
惰性で石の行方を見ていた二人は警戒するように足を止めた。何故なら、目の前にいた人物に何かしらの違和感を覚えたからだ。
石ころの先にいた人物は十歳前後の少女だった。それだけなら特に問題は無いのだが、その少女の纏う雰囲気が異常なのだ。少女は、真っ赤な振袖を着ていた。その柄は少し不思議な模様だった。なにかの文様にも見えるがそれが何を意味するものなのかは二人ともわからなかった。
それよりも目を引いたのは、その少女の容姿だった。ゆるくウェーブがかかった長い髪の毛は陽の光を反射して一瞬虹色にも見えるプラチナブロンド。瞳は引き込まれそうになるサファイヤ色。誰が見ても美少女と形容したくなる人形のように整った顔立ちだった。
リンが警戒するように一歩前へ出た。
「何か用ですか?」
少女は無表情のまま少し首を傾げる。
今度はリュウが少し少女に近づいた。
「もしかしてあの小学校の生徒?」
少女は変わらず無表情のまま、今度は小さく頷いた。その様子を見たリュウが破顔する。
「そっか。じゃコウのこと知ってるか?俺の弟なんだけど」
そこで初めて少女の表情が揺れた。戸惑うように少女は再び頷き、小さいがよく通る声で呟いた。
「王杯について、何か知っておるのか?」
鈴を転がすような可愛らしい声には似つかわしくない言葉遣いと意味不明の言葉に二人は思わず顔を見合わせる。
「あーなんだその、どこから突っ込めばいいんだ?」
リュウが頭をかきながら、リンに助けを求めるように視線を向けると何かしら思案をしていたリンが口を開く。
「君はコウのことを知ってるみたいですね。しかも、僕たちとは別の意味で」
「えっ?」
ポカンとしているリュウを置き去りにリンと少女の間に緊張が走る。
「そなたは何を知っておる?」
「何も」
「しかし何かしらの予測はつけておるのではないか?」
「どうでしょうね。僕がつけられる予測など当たらない方がいいものばかりですから」
すっかり二人のやり取りから取り残されたリュウが割って入る。
「お前ら俺を置いて勝手に話を進めるな!」
呆れたような視線をリュウに送ったリンがまず緊張を解いた。
「別に話なんて一ミリも進んでいませんよ」
謎の少女も少し警戒を解いたように表情を和らげる。
「そうじゃな。特に話が進んだようにも思えぬ。なので提案なのじゃが我が家に招いてもよろしいか?」
思案するようなリンとは裏腹にリュウは即答する。
「別にいいぞ」
非難の視線を向けるリンに対してリュウはニッコリと微笑み頷く。
「大丈夫だ」
それだけで、あれだけ警戒していたリンの緊張が完全に解ける。
「まあ、リュウがそういうのならば仕方がありませんね」
二人のやり取りを見ていた少女は初めて子供らしい笑顔を見せたが、二人は気づかなかった。




